第7話 アリス・テレスティア魔法学院 5

「アトリ、隠していることを全部教えてくれないか」


 五体不満足とでも言うべき満身創痍の重症を負った俺の治療の為に、アトリは授業を休んで俺を女子寮の自室に運び込んだ。

 その際寮母さんは「いつかこうなると思ってたわ」と意味深な言葉とともに、俺が女子寮に入るのを黙認してくれた。

 シオン、お前まじで何やらかしてたんだよ……、と想像の斜め上を行くシオンという男の奔放さに憤りつつも、結局何も分からないから聞くしかないとアトリに訊ねる事にした。


「お兄ちゃんとふたりきり~♪、どうですかお兄ちゃん、一日ぶりの私の部屋は、好きなだけ女の子の匂いを吸っていいですからね、あ、そうか、今私の前には身動きの取れないお兄ちゃんと二人きり、つまり何やっても好き放題という訳ですね、よ~しいっぱいいたずらしちゃうぞ~」


 アトリは不気味な程不自然なテンションで会話を拒否した。

 調子外れな鼻歌を歌っているが、その目は笑っていない。


「なぁシオンって誰なんだよ」


 俺は破裂しそうに膨れ上がっている疑問を怒鳴るようにぶつけるが、それでもアトリは取り合わない。


「まずは治療と称していっぱいお兄ちゃんの体に触りますね♪、服を脱がせますよ~、あ、でも、こんなにボロボロなら破っちゃってもいいかもしれないですね、そっちの方がセクシーですし」

「なぁシオンは何をしたんだ、そして俺は誰なんだ、なんで俺がお兄ちゃんなんだ」


 俺は、全く相手にしないアトリに向けて、かすれる声で問いかけた。

 アトリは俺をお兄ちゃんと呼ぶが、そこには兄妹と呼ぶにはあまりにも深すぎる隔たりがあり、その関係は歪だ。

 人間が持つ欲望の中で、知識欲が一番危険なのかもしれない。

 好奇心が猫を殺すと言うように、その場の疑問を解消するという行為は時として命取りになりかねない。

 それでも俺は、アトリに問いかけるのをやめない。

 今は知らないでいることの方が命の危険があると感じたから、ただリスクを下げる目的で、シオンの真実を求めた。


「教えてくれアトリ、……シオンは一体何者なんだ」


 その言葉を声にすると、俺の体は限界を迎え力が抜けていった。

 死にはしないだろうけれど、眠気とは違う強制的な意識の消失というやつはやはり変な感覚だ。

 不摂生が響いていたのだろう、昨日は自分が使い魔であるという立場から、食堂を利用する事を遠慮していた為に、明らかな摂取カロリー不足で燃料切れになったのである。

 だから死ぬ事は無いだろうけど、それでも今は完全な無抵抗でいるからこそ、今までで一番死に近いような感覚があった。

 次に目を覚ます確証も無いのに、抵抗しようという気は起きず、心臓の鼓動だけが響いているのを感じながら、そのまま導かれるように意識を手放した。





「……教えませんよ、絶対に、お兄ちゃんはお兄ちゃんのままでいてくれればいいんです、最低最悪のシオンお兄ちゃんはもういないんですから、だから、私だけのお兄ちゃんでいてください」

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