第12話 流したのは血か涙か 4
「また会いましたね、美しい
王都の町並みを見学したいと、アトリと二人で都心の街道をぶらついていたら、ナンパされてしまった。
俺は女装が異様に似合ってしまう「変な顔」だ、一緒にいるアトリは学園でもかなり上位だと一目で分かる美少女だ、だが、貴族の学校であるテレスティア学院の制服を着て一発で貴族と分かる為か、ナンパしてくる人間はいなかった。
………彼を除いて。
「もう、ユーリ、いきなり飛び出したと思ったらナンパだなんて…もしかしてその方がユーリの言ってた運命の人?」
…そう、先日俺を嬲り殺しにしようとして、骨を七本も折ってくれた腐れ公爵のユーリその人である。
「う・ん・め・い・の人ぉー?ぷひゃああああああああああけらけらけら、面白すぎでしょ厚顔のユーリ」
アトリが思い切り馬鹿にした顔でユーリを笑い飛ばした。
ちなみに正しくはイケメンを意味する紅顔と魔眼の一つである光眼をかけた、光顔のユーリだ、魔法使いは二つ名で存在を示すらしい、まぁ俺はキンタマを連想するのでそんな二つ名は嫌だけど。
「うるさいぞ、
面倒臭いのに見つかったなと思ったらいきなりの展開に、俺も笑ってしまいそうになるのをぐっと堪える。
どうするかな、命令で会話を封じられているために、そもそもなにも答えられないが。
「……あなた、シオンの親戚か何かかしら、随分と面影があるようだけど」
ユーリの姉である彼女の質問に俺は首だけで頷いた。
公爵様相手にこの対応は失礼かなと思いつつ、どうしようもないのでアトリのフォローに期待しよう。
「ふふ、相変わらずその声を聞かせてくれないんだね、そんな奥ゆかしい所も素敵だよ、でも今日こそ、君の名前を聞かせてもらうよ」
…と思ったらなんか勝手に納得してくれた。
けど名前って言われてもなぁ、Nonameを逆さに読んでエマーノとかだったらバレないか?いや、アトリの姉だからシトリとかヤトリとかのが違和感無いかなとか考えて、もし答える事があったらカトリーナと名乗る事にしよう。
その場凌ぎの解答を用意し、後はアトリの対応に期待していたのだが、こいつが俺の期待通り動く訳が無かった。
「お姉ちゃんは私だけのお姉ちゃんなので、二人の時間を邪魔しないでください!、ああ、でも…」
アトリはユーリが俺に惚れてるのがそんなに面白いのか笑いを堪えた風に俺を横目で見ると、悪いことを思い付いた悪ガキのように邪悪な笑みを浮かべる。
最高の玩具を見つけて弄んでやろうという顔だ。
…まぁ俺もユーリに半殺しにされたことを別に恨んではいないけれど、イケメンという奴だけは無条件で不快な気持ちにさせられるから、ユーリが不幸な目に遭う事について異論は無い。
イケメン見てると雄としての劣等感をこれ以上無いくらいに自覚させられるからね。
写真やテレビなんかのイケメンは世界が違うから平気なものだが。
身近にいて比較対象にされてるイケメンに対しては、普通は嫉妬の対象でしか無い物だろう。
逆に嫉妬しない人間は、俺と同じで男を捨ててる奴くらい。
そんな相手でも爽やかスマイル一つで老若男女問わずにオトしてしまうイケメンという存在が、どれだけ理不尽で反則的な物かは、知れば知るほどに度し難い。
多分世界で一番チートな武器こそ、イケメンなんだと俺は思ってるよ。
閑話休題。
「この町で一番高い店のフルコースを奢ってくれるならご一緒してもいいってお姉ちゃんも言ってます」
アトリはユーリの誘いにそう返した。
無一文だからタダ飯を奢って貰おうという魂胆が見え見えだった。
結構吹っ掛けているが、ユーリの想いの強さを確かめているのだろうか。
全く応えるつもりもないので迷惑この上無い事だけれど。
「ああ、それは丁度いい、僕らが今日予約している店は「
ゼロ伯爵の由来は知らないけれど、恐らく貧乳、魔法の才能の無さ、貧乏、友達いない、等の上げればキリが無いほどの無い無い尽くしが由来だろうし、これ以上無いくらい的確な二つ名なので文句のつけようも無い。
「ふーん、まぁ、公爵様に誘われたら、断る訳にもいかないですし、謹んで招待されますかね」
アトリも興味があるのか満更でもないようだ。
そんなこんなで、ユーリ姉弟とのディナーが決まった。
しかし、休日に二人で出掛けるなんて真性のシスコンぽいな、こちらも人の事言えた義理ではないけれど。
それよりシオンが前に女装した時にユーリにどんな風に接したのか大分気になってはいる。
あの女にクソモテてそうなクソ超絶イケメンに惚れられるのは流石に謎だ。
俺の女装は似合ってはいても、特別美しい訳では無いし、だったら惚れる要因は外見ではないのだろう。
お前が惚れてるの、三週間前にお前がボコボコにした男だぞ、ってツッコミたいところではあるけれど、愛は憎しみに変わると言うし、まさか……な。
「その時、カトリーナさんは舞踏会を襲ったメイジの犯罪者の群れを一人で撃退したんです、その時僕は女王様の盾になることしか出来なくてほとんど何も出来なかったんですけれど、一瞬灯りが消えたかと思うと、犯罪者達が一人残らず部屋の外に弾き出されてて、そしてカトリーナさんが怯える子供達の手を引いて避難させている姿を見て、この人は聖女の生まれ変わりに違いない、って会場にいた全員がきっと思ったはずです」
と料理が運ばれてくるまでの間、アトリが訊いたカトリーナとの馴れ初めを、ユーリは熱く語っていた。
ちなみにユーリの本名はユリウス・ストラトス……アレクスプルス公爵様だ。
領地をいっぱい持っているのか、どこかの校長並みに名前が長かったので、ほとんど覚える事は出来なかった。
「あの時から女神が現れたって熱烈なファンになったのよねぇ」
ユーリの姉エリーゼ……(以下省略)もといエリーさんが、こちらの方が十倍女神の化身と呼ぶに相応しい美貌を朗らかに緩ませながら捕捉する。
公爵様に名乗られたのに名乗り返さないのは無礼と思ったので、アトリに会話禁止の命令は解いて貰った。
なので今は、シオンの突飛な過去の武勇伝に「はぁ」と他人事のように相槌を入れている。
俺の特技として声帯模写による女声もそこそこ出せるので問題はない。
「それだけ美しかったんだよ彼女は、月明かりに灰色の髪を靡かせて夜闇の中 、敵の指揮官であるA
A級メイジというのがどれ程の物かは知らないけれど、ユーリの口振りからするに相当の使い手なのだろう。
そのうち調べてみるか、世界に十人しかいないS級メイジとかの設定も出てきそうだな。
まぁ平和な世界だし、そうホイホイと出会えるとも思えないけれど。
ユーリの放っておけば一日話していそうな女装シオンの話をラジオ代わりに聞いている内に料理は運ばれてきた。
料理が運ばれてきてもまだ語り足りたいのかユーリは止まらなかったが最早だれも聞いていない。
「血が足りない、もっと処女の生き血をよこせ~」
アトリは顔を真っ赤に酔わせながら、ワインのおかわりを要求する。
ワインの銘柄「
どうやらタダ飯をタカったというよりはタダ酒をタカるのが目的だったようだ。
「大丈夫がゼロ伯爵は、これでもう三本目だぞ」
そんなに高い酒でもないのか、ユーリは特に気にした様子もなく、アトリの心配をしてくれる。
「れんれん、平気れふ~、だからもっと処女の生き血を持ってこんか~い」
これ以上飲ませると体に毒になりそうだけれど、俺は敢えて止めない、まぁ幸せそうな顔して飲んでるし、本当に好きなんだろう。
「乙女の鮮血」を飲んでいるのはアトリだけで、俺とユーリとエリーさんの三人は、「この店で一番高いシャンパン」を飲んでいる。
異世界に来てこんな美味しい目に会うのは初めてなので、初めてシオンに感謝の念を抱かせるほど、その店の料理とシャンパンは美味しかった。
デザートも食べ終わり、宴もたけなわ、そろそろお開きとなろう頃、うつらうつらと船をこぎだしたアトリを横目に見ていると、エリーさんが、突然話しかけてきた。
「しーくん、最近ご無沙汰だったけれど、もう用事は終わったのかしら」
一瞬何の事か分からずきょとんとしてから、改めて思考を急速回転させる。
しーくん……はシオンのあだ名だよな、もしかして俺の事疑ってる?
流石に生体模写で女の声だそうと、全く化粧もしてないし、脳内お花畑の馬鹿でもなければそりゃバレるか。
と、冷や汗をかくが。
「姉さん、あのクソ野郎はここにいないよ、酔っ払ってるのかい」
「ああ、そうでしたね、ごめんなさい、カトリーナさん、しーくんに似てたから」
「ははは、姉さん、冗談でもそれは笑えないよ、あのクソ野郎とカトリーナさんが似てるとか、カラスと白鳥を比べるくらい愚かな事だ」
「ん?、ユーリ、今、私の事、愚かって言った?それとしーくんは将来貴方の兄になる人なのにいつまでも悪口を言って本当に悪い子なんだから……」
「あれ、姉さん酔っ払ってたんじゃ……いだだだだだだだだだだだだ」
エリーさんはユーリの手の激痛を与えるツボを刺激してユーリに制裁を与えていた。
「カトリーナさん気にしないで下さいね、これはシオン君がボコボコにされたこととは何の関係もありませんから、それにユーリ、シオンくんは貴方に殴られているときも声一つ上げなかったのでしょう、公爵家の者として恥ずかしく無いのですか」
そう言ってエリーさんは万年筆をユーリの指の間に挟んで更なる苦痛を与える。
うわぁ、あれ、ガチできつい奴だ。
「──――――――!」
悲鳴を押し殺して、ユーリはその拷問に耐えた。
もとい絶えて、気絶した。
「これで、この間の事は水に流して下さいね」
もう隠すこともないと思ってか、エリーさんは微笑んだ。
「あ、あの、なんで分かったんですか」
そもそも俺とシオンは別人だ、そこに女装によって元のシオンの癖などは微塵も無い、だからボロを出したのは俺ということになるが。
「背丈、顔立ち、仕草、妹さんが一緒に出掛ける人間、怪我している左腕、A級メイジを倒した話と色々ヒントはありましたけれど決定的だったのは、目ですね、しーくんはいつも、ここではないどこかに想いを馳せている、だから私は最初から分かっていましたよ、好きな人の事を見間違う訳ありませんから」
そう言われると、好意を抱かれてるのが俺ではない俺だとしても照れてしまう。
つまり、俺はシオンと肉体だけでなく精神レベルでも似通っているという訳か……。
シオンと俺が同じ魂の持ち主とか、そういう話になるとしたらなんというか、嫌だなぁ、シオンの人格を否定出来なくなるし。
「でも、今日の反応を見る限りは、役目は全て終わって、今は記憶も封印した、ということなんでしょうか?、エレナちゃんの使い魔になったのは、エレナちゃんを選んだという事を周り示すため」
その役目とやらが何なのか気になるけれど、もう終わったのなら聞く必要もないか。
エリーゼさんもシオンとかなり繋がりの深い所にいたようだけど、首を突っ込むと関係を蒸し返されて面倒なので触れないのが無難だろう。
狂犬みたいな
「でも、私は諦めませんから、死ぬまで私を愛すとしーくんが言ってくれたから、例え記憶を失っても、死ぬまで追いかけますから」
その死ぬまでの使い方からして、シオンが俺とかなり似通った人格なのは最早否定のしようが無い。
微妙な顔で考え込む俺の隙を突くように、エリーさんは俺のほっぺに唇をそっと当てた。
「ふふ、やっぱり無防備になってますね、本当は唇にしたかった所ですけれど、それは本番に取っておきます、結婚するまで貞淑でいるのが貴族のお付き合いですからね」
まるで天使のような微笑みでエリーさんは悪戯っ子のように笑う。
年上の美人なのに無邪気な幼い笑顔、それはシオンが彼女の幼なじみだったから故だろう。
そんな笑顔が、見とれてしまうくらいに美しかった。
イケメンは理不尽で反則的な存在だと言ったが。
美女はそれ以上に反則的で……手に負えない相手だ。
俺は何と答えれば分からなかったから、無様に硬直して、愚鈍なアホ面を晒すしか無かった。
エリーさんとユーリ達は所用で王都にいるらしく、ホテルに泊まっていくらしい。
明日も休日なので多分、多くの生徒は週末を王都に泊まりで過ごすのだろう。
エリーさんに部屋を用意しようかと提案されたけれど、世話になるのが気が引けるのとは別の理由で固辞させてもらった。
現在俺はアトリを背負いながら学院までの道を徒歩で歩いていた。
(体感で約二十キロか、ざっと五、六時間、休憩を挟みつつの暗中行軍で明朝にはつくかな)
無論、朝には汗だくになっているだろうけれど、非効率的な手段を選んだのには理由がある。
「うへへ~お姉ちゃん、私だけのお姉ちゃんと二人きり、うへへ~、うっぷ、吐きそうです……」
アトリは泥酔しきっていて、意識が朦朧としているようだ、なのできっと真実を知るなら今がチャンスなのだろう。
この為に俺は、アトリが暴飲するのを止めなかった。
「吐いても大丈夫な所まで行くからもう少しだけ我慢して」
実は四次元に移動して吐かせれば何も問題無いのだけれど、俺はアトリに泥酔したままでいて欲しいのでのろのろと歩く。
質問するなら今しかない。
俺が知りたいこと。
それはシオンが今どうしているのか。
生きているのか死んでいるのか。
ずっと引っかかっていた疑問だ。
知ることは死ぬこと、もしかしたらこの質問でアトリの逆鱗に触れ、今の関係を続けられなくなるかもしれない。
お兄ちゃんでいられなくなるかもしれないが。
俺がお兄ちゃんを演じていく上で、それを知らないままではいられなかった。
静寂の月明かりの下、俺はぼそりと口を開く。
それは質問の刃、しかしアトリがそれに気付かないように慎重に。
「なぁ、アトリは俺の事、好き?」
「なんれすか、お兄ひゃん、そんなの宇宙一大好きに決まってまふよ~」
ほとんど予想通りの答えが帰ってくる。
だけどお兄ちゃんではない俺本人に対する好きは一体どれだけになるのだろう。
そう考えるとその好きなんて何の根拠も無い欺瞞でしか無い。
だからこれはただの誘導する為の導線。
「じゃあいつから好きだったんだ」
「物心ついたときからずっとでふ~、妹がお兄ちゃんを愛するのは我が家の伝統でふから~」
ブラコン、子供の頃からか、だとしたらヤンデレ属性はほぼ確実に持ってそうだ。
俺の推理はアニメ、漫画から参考にしたものでしか無いけど、こういうファンタジーな世界ならそれが何より真実に近いのだろう。
俺は徐々に質問の刃をアトリに近づけていく。
「嫌いになったことは無かったか」
「あるわけ無いでふよ~、お兄ちゃんが他の女と仲良くするのも、愛人を娶るためって理解してましたから、誕生日を祝ってくれなかったときも、舞踏会で放置されたときも、女王と逢い引きしていたときも、全部全部わらひは、りはいひへはひはは、あの時だっへ……」
アトリは俺の首を後ろから強く抱き締める。
「うぷ、ひもひわふい、おひいひゃん、へんはいへふ……」
どうやら思い出したくない過去の記憶で興奮したことにより限界に達し、我慢できなくなったようだった、潮時か。
俺は草むらに入ると、アトリの喉元に指を突っ込んで、思い切り吐き出させてやった。
手はバイ菌が一番多く存在する場所だ、だから店を出る前に丹念に洗ってあるが、どうせ吐き出すなら要らなかった配慮かもしれない。
酔いを楽にするのは、吐いてもらうのが一番だから、思い切り吐き出させてやる。
「おろろろろろろろろろろろろろろろろろ」
アトリは両手を木について俺の導きのままに思い切り吐き出した。
美少女が台無しになるような恥態ではあるけれど、そんな姿がむしろいとおしくも感じてしまうのは、アトリとの繋がりが既に上部だけの物では無いからだろう。
過ごした時間が長くなくとも、例え血の繋がりが無くとも、アトリは俺の妹であると、その在り方は不変の物であると決めたから。
それは、本当のお兄ちゃんであるシオンがひょっこり出てきたとしても変わらない。
シオンよりも誰よりも、アトリのお兄ちゃんでいたいと俺は思ったのだ。
吐くだけ吐いたら楽になったのか、アトリは俺の背中の上で寝息を立てていた。
星明かりとおおよその方向勘を頼りに、見知らぬ道を歩いていく。
とても不安と寂寥感のある
(今日は大きな収穫があったな、シオン、正体を隠して人助けをするなんて、まるで……)
どうしてアトリがシオンを否定しているのかはっきりとは分からないけれど、シオンの在り方に関して、少しだけ見えてきた物がある。
シオンは何かと戦っていて、そして、それに巻き込まないようにアトリを遠ざけていた事。
これははっきりとした証拠が無くても、シオンの人格と能力を鑑みれば、限りなく確信に近い真実だろう。
(このまま平和に世界が回っていくならば、何も知ろうとする必要は無いのだけれど)
俺は超・杞憂人間であった。
だから、楽観して出来ることを何もしないのだけはあり得ない。
シオンに踏み込むことで、シオンになりつつ
あることに、この時の俺は気づいていなかった。
「……あれ姉さん、いつの間に僕はホテルに、……それにしても、夢のような一時だった、またあの人に出会えるなんて、夢心地過ぎてお酒が入った後の事が全然思い出せないよ」
「ふふ、それはよかったわね、でもだったらこれからはシオンくんとエレナちゃんにもっと優しくしないと駄目よ、カトリーナさんだってバルドルス家の人なんだから」
「……そうだった、あの人はあのクソったれシオンの親戚、つまりいつ奴の毒牙に襲われるか分かったものじゃない、早くにシオンを始末しとかないと、あの人が汚されてしまう」
「ユーリ、私と喧嘩したいの?」
「ぼ、僕はそんなつもりじゃ、ただあのクソッタレシオンがこれ以上婦女子に暴行を働かないように懲らしめようと思っただけで……、ね、姉さんはいいのかい、シオンを放っておいて、このまま妹の使い魔なんてやらせていたら、下級生の女子を食い散らかすに決まってるのに」
「もう、何度言っても分かってくれないのねユーリは、シオンくんはそんな俗人的な欲求を持つ人じゃないのに」
「姉さんだって分かってくれないじゃないか、奴の女好きは筋金入りで、その魅了魔法は非常に強力だ、今では女王陛下まで籠絡してるくらいだ、姉さんが奴をどれだけ愛しても奴は姉さんに一途になる事は無いし、姉さんとの結婚の約束だって、女王陛下やそれ以上の身分の玉の輿を得たら、その権力で強引に破棄するに決まってる、いい加減目を覚ましてくれ、奴の目に姉さんの事なんて映っていない、古い約束を大事にしてるのは姉さんだけなんだ」
「……それでもいいのよ、約束、いえ、これは契約だから、だから必ず履行される、それに私はシオンくんが他の女の子を気にかける事を気にしてないわ、美しい花には虫が寄ってくるものだから、そしてその虫が蝶として羽化した時に、花もまた絶頂を迎える、その絶頂を私がもらう契約を私がしている以上、私はどれだけの芋虫が蕾のシオンくんに群がろうとも、全部笑って見過ごすわ」
「……本当にどうして姉さんは奴をそこまで、いや、何でもない、それでもね、姉さん、カトリーナさんの事だけは別だ、もしシオンがカトリーナさんに手を出すような事があったら、僕の全てにかけてシオンをぶち殺すから」
「あの人に心酔してるユーリなら、私の気持ちが少しは分かると思ったんだけどなぁ、やっぱりユーリはまだまだお子様ね」
「分かる訳ないよ、あの人はこの世の希望、地上に舞い降りた最初で最後の天使なんだ、そんな現人神に等しいこの世で女王陛下の次に尊ぶべきお方と、クソゴミカスクズ野郎のシオンを比べる事自体が烏滸がましい!」
エリーゼの言葉に激昂したユーリはそう言い残して自分の部屋に閉じこもった。
「本当に、なんでユーリにはシオンくんの良さが伝わらないのかしら」
姉弟で同じ人間を愛してしまった業を感じながら、エリーゼは自身の唇に触れて先刻奪った想い人の頬の温度を思い返した。
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