第2章 レベルが上がらない転生者は、初級魔法を習得出来ない
第11話 魔法の授業はどこですか
待ちに待った学校生活が始まった。中途入学ということで、大勢に囲まれた入学式などは特別なかったが、久しぶりに学校の制服というものに袖を通すだけで、カナデはどこか懐かしさと初々しさを覚えていた。
白い絹のようななめらかな生地に、橙色の幾何学模様の入った法衣。お洒落な私立の制服と言われれば、何の疑問もなく、着用してしまうだろう。男の子用も女の子用も、ブレザーベースで、下がスラックスになっているか、スカートになっているかの違いだった。もちろんカナデのものは前者である。
教官のボルドによる一通りの施設説明の後、カナデたちは、第5魔法講義室に案内された。専任の教官が来るからと、しばらくそこで待たされることになったのだった。
50人ほどが優に入るであろう広い部屋の中、カナデはフェアリナと2人だけで、前列に待機する。白く凛々しいフェアリナの制服姿は、ミニ丈ドレスとはまた違い、犯罪的に可愛かった。白い制服の生地に、薄ピンク色の髪の組み合わせがなかなかに最強だ。流石は見た目は女神様。変なことを話さなければ、この学校のアイドルになれるかもしれない。彼女自身も、根っからのドMだから、きっと持ち上げられたい願望もあるだろう。
「ねえ、カナデ君、この制服胸のあたりがキツイよ」
そう言って、フェアリナは胸のボタンを一つ外そうとする。慌てて制止すると、唇を尖らせながら、眉間に皺を寄せていた。アイドルといえば清純路線。やはり彼女には無理かもしれないとカナデは残念に思った。
中途入学の専任教官は、アマネという年上女性だった。年上のくせにというと失礼だが、彼女は金髪ロリツインテールという犯罪的な組み合わせで、その声までもが、アニメ声だった。何だろう。ボルドの凶悪な顔もそうだが、この学校は何故か犯罪の臭いしかしない。
「私が、あなたたち2人の基礎魔法を担当する教官のアマネだよー。レベルは46でランクは5-3。1級高等魔法くらいまでなら何だって使えるから、わからないことは何でもお姉さんに聞いてねー」
そう語尾を伸ばしながら、アマネは2人に対しウインクをする。今時ウインクか、とも思ったが、ボルドと同じ世代なら十分にありうる。まあ、彼女に年齢はとても聞けないのだけれど。
「アマネ先生、魔法って習得は難しいんですか?」
カナデが尋ねると、アマネはニヤニヤしながらカナデを見下ろした。
「ああ、あなたが噂のニャンニャン星人ね?」
――ニャンニャン星人って何だ?
「って、何ですか、いきなりその変なあだ名は……」
これも鬼軍曹のボルドのせいかもしれない。一体どんな説明をしたのだろう。アマネは目をキラキラ輝かせながらカナデを見続けている。
「えっ、だってあなた面と向かって言ったんでしょー? 普通は言わないし、隠したりするものなのに、ねえー?」
「ん? 何をです?」
話が見えないのに、同意を求められてもカナデは困る。それでもアマネは可笑しそうにクスクスと笑っていた。
「えー、だから言っちゃったんでしょー? ボルド先生と、朝までニャンニャンしたいですって」
――ちょっ?!
「言ってないし! 間違っても言わないですよ!」
呆れながらもカナデはすぐに否定する。一体、どんな
「ええー、嘘だあー。だって、入学早々、お熱いカップルが出来たって、学校内で有名だよー?」
プププと口元を隠して、笑い続けるアマネ。カナデの隣では、フェアリナが上を向いて、ニタアと笑い、涎を垂らしていた。
「そこ! 勝手に妄想して喜ぶな!」
「エヘッ」
「エヘッじゃない!」
フェアリナはすぐに誤魔化そうとする。照れ笑いをすれば、何とかやり過ごせると、思っているのだろう。しかし、今回の彼女はいつもの彼女とは違った。
「カナデ君、まさか、私が着替えている間に、もうボルド先生とニャンニャンしちゃったの?」
悲しいからではない。期待しているからこそ、出てくる言葉である。その証拠にフェアリナはいまだにニヤニヤしていた。
「だから、してません! 今後一切、する予定もありません!」
「ええー……」
残念そうに目を落とすフェアリナ。それに続くようにアマネも不服そうに声を漏らした。
「ちっ」
「先生も、舌打ちしない! ないですから、僕があのボルド先生と一夜を共にするなんて」
カナデのその言葉に、アマネもフェアリナも大爆笑している。
――何てことだ。
この女子コンビは駄目だ。ドMのフェアリナでさえ、水を得た魚のように、今は生き生きとしている。まさかこの異世界にまで、腐女子と呼ばれるカテゴリーの女の子がいるなんてカナデは思いもよらなかった。ボルドがいて、アマネがいる。やっぱりこの学校は、危険な香りがして、カナデは仕方がなかった。
「じゃあ、そろそろ授業始めるよー?」
しかし、いざ講義を開始したアマネの表情は、ひどく大人びて、これが遊びじゃないことを暗に伝えているようだった。そう、この世界での魔法の存在は、ある意味で人間の価値を決定づけてしまうものだったのだから。
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