第37話 レベルが上がらない転生者は、魔法学校を守らない③
「本当のところとは、一体どういうことですか? あなたは僕らを殺すつもりだったんじゃなかったんですか?」
少なくとも、自分ごと撃てと生徒たちに命じたあの声が、嘘だとはとても思えない。カナデの問いに、カミュはその綺麗な顔で可笑しそうに笑う。
「君の本気を試させて貰った。君が自分たちだけでなく、本当にラファエリアの生徒たちも守りたいのかどうかをね」
――意味がわからない。
「でも、それじゃあ僕が選んだ方法は、反射によって生徒たちを傷つけることだったわけだから、不合格というわけですね」
「どうだろうね。君は生徒たちの魔法で、生徒たちが死ぬとは考えていなかったんだろう? 人を完全に殺しきるには、力不足だと思っていた。私にはそう見えたよ。だからこそ、君は生徒たちがダメージを受け、戦闘不能に陥った段階で、私を説得するなり眠らせて、この場から去ろうとしていたのじゃないかい?」
完全に読まれていた。残ったカミュをどうするかは考えてはいなかったが、それにより戦意を喪失してくれると少なくともカナデは思っていた。
「君のことは、ダン君から良く聞いていた。安心したまえ、私も君を疑ってはいないのだよ。私にも立場や都合というものがあってね。うちの生徒たちを守るために、1つ演技をさせてもらったというわけだ」
――何だって……。
カミュは味方なのか? 本当にカナデたちのことをわかってくれているのか?
「じゃあ、カミュ先輩は、ガブリエやここで起こったことが何だったのか、わかっているんですか?」
「いや、突然ガブリエが襲ってきて、その主である七魔帝のセトを君が倒したことしか、今の私にはわからない。ここで何が起こったかを知るためには、またあとでこの現場を検証する必要があるだろうな」
「カミュ……やはりあなたは執行委員長なのですね。どんな時も、みんなのことを考えてくれている」
ユリイナの表情もようやく柔らかなものへと戻っている。ヒュウマは安心したように何度も息を吐いていた。
「君らが影魔導士を呼び込んだのではない。そして君たちがガブリエを扇動したわけでもない。ただ、何者かがこの2つの事件に関わっているのは事実だ。そうしてそれは君たちではない」
――ああ。
「わかってくれているなら、どうして?」
「いるからだよ。ラファエリアに裏切り者がね。影魔導士とも通じ、ガブリエとも通じ、セトさえ動かせるような人物が」
そうか。カミュは1人先を読んでいたのか。ボルドの命令に従いながらも、いくつかの異変を察知し、独自の考えを巡らせていたのだ。
――慕われるわけだ。
人の心を動かせるのは、自ら先に動き、指示が出せる人間なのだと、カナデは改めて思った。
「先輩に心当たりはあるんですか?」
「あればこんなことはする必要はなかった。だが、こうなってしまった以上、君たちにはここを離れてもらうしかない。ユリイナやヒュウマも連れ帰ることは出来ない。出来れば、疑いが晴れるまでは、何処かの村にでもひっそりと隠れてくれると助かるのだが……」
確かにカミュの言う通りだ。今は全ての罪をかぶってでも、カナデたちは逃げる必要がある。このままカミュと共闘しようが、何者かにラファエリアを呼び出しでもされてしまったら、全てが意味を無くしてしまう。
――いや。
ラファエリアに入学したカナデやフェアリナだって、マナを吸いとられ、死んでしまう可能性だってあるのだ。そう、事は思った以上に重大だった。
「仕方ないと思います。僕らは僕らで逃げ隠れながらも、真実を追いたいと思います。ですから、先輩も無理だけはしないでくださいね。先輩がいなくなれば、それこそラファエリアは終わりを迎えてしまいますから」
「ああ、だから今はこうするしかない。君らが隠れてくれている間に、私がラファエリアの真の裏切り者を必ず見つけてみせる。だから、少しだけ辛抱してくれたまえ」
「学校や生徒たちには何と言うんですか? このまま先輩が帰っても、かなり追及されそうですけど」
「なあに、心配はいらないよ。まず、私がナイフで脅された後、カナデ君に一斉に魔法で攻撃させるように脅されたと言う。そして、君らが魔法反射の補助魔法を使ったところを見て、私が生徒たちに反射しないよう魔法で壁を作ったことにする。その間に、君らが逃げたことにすれば、特段問題には思われないだろう」
――なるほど。
流石にカミュは頭も切れるようだ。すでにカナデたちよりも、先の未来を見ている。
「だから、安心して逃げろ。カナデ君」
「はい。お言葉に甘えます」
カナデがそう言うと、カミュはその綺麗な顔でにっこりと微笑んだ。
「それから、ユリイナとヒュウマを頼む」
カミュは2人を見やり、目で何か合図を送ったようだった。カナデにはそれが「頑張れ」に思え、微笑ましく思った。
「じゃあ、カミュの魔法壁ももうすぐ消えるみたいだし、移動しましょう。移動先はどこにする?」
「治安的にはミカエラ領区だろうな。ラファエリアからもそう遠くはないぜ?」
ユリイナが尋ね、それにヒュウマが答える。名前的にも治安が良さそうだ。それに何故だろうか、何処か懐かしさを覚えるものでもあった。
「じゃあそれで。フェアリナはどうする?」
「私も……いいの?」
珍しく弱気な彼女。まあ、彼女なりに罪悪感を覚えていてくれる証拠でもある。そして、彼女自身も天界から命令された側であって、あくまでもあのままの女神である。悪気というものは存在しないとカナデは信じている。
「ついてこないと誰もいじってくれないぞ?」
「もうー、別にいじって欲しいわけじゃないんだもん。でもついていくから。カナデ君は私が守らないと」
――やれやれ。
「そろそろ、時間だ。後は任せろ」
微笑むカミュ。カナデは一礼すると、やがてはユリイナの移動魔法で、この場を後にした。
こうして、カナデの短いラファエリア生活が終わったのだった。
カナデは思う。今はもう、誰が味方で誰が敵なのかわからなくなったと。そうしてラファエリアとの決別を決めた以上、カナデはもうラファエリア魔法学校を守らない。
――そしてだからこそ。
レベルが上がらない転生者は、魔法学校を卒業出来ない。
※ 少し長かった第3章、これにて終了です。これからも続きますので、引き続きお付き合いよろしくお願い致します。
レベルが上がらない転生者は、魔法学校を卒業出来ない lablabo @lablabo
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