第3章 レベルが上がらない転生者は、魔法学校を守らない

第19話 理由

 影魔導士3人との戦闘後、学校からは応援部隊が派遣され、カナデとフェアリナは、無事ラファエリアの山から救出された。生徒殺害の容疑が降りかかりはしまいかと不安だったが、意外にもカナデが疑われることはなかった。魔法を使用すれば、個人の指紋のような跡が残るらしく、それによってカナデが犯人ではないことが明らかだったという。まあ、カナデに至っては、そもそも初級魔法さえ使うことが出来ないのだけれども。


 カナデとフェアリナは学校からある程度の情報提供を求められたが、相手のことを知らない以上、多くを語ることは出来なかった。しかし、あの3人が影魔法の使い手だったと告げた時の、ボルドの表情の変化は特筆すべきほどで、その険しさをカナデは見逃すことはなかった。そして、それきり彼は相手のことを尋ねることはなかった。


 襲撃による死亡者は20名。それはこの学校の生徒の10パーセントにあたる人数だった。それだけの生徒が亡くなったのにもかかわらず、学校側は緊急集会を開くわけでもなく、黙々と死体などの処置にあたっていた。それはまるで、放課後の事務的な校内清掃のようで、余計にカナデは胸を痛めた。こうして事件はカナデの予想に反し、あっけなく収束していったのだった。


「まさか、カナデ君の実力を試すつもりが、それを敵に利用されるとはな」


 第3会議室で、ボルドが煙草を吸いながら、窓から外を眺めている。他にも金髪ロリツインテールのアマネ教官が彼に付き添うようにその背中を見つめている。


「そうですよねー。カナデ君たちに急きょ入学通知を送ったのも、時間が経っていないはずですし、情報が漏れるにしても時間なさすぎですよー。ましてや他校の生徒がこの地域まで都合良く来ているだなんて、出来すぎというか、運が悪かったとしか、私も思えないですー」


 アマネがそう苦言を漏らすのももっともだ。カナデたちが午前中に入学通知をもらって、何とかラファエリアに到着したのがお昼頃。そこから講義が始まり、カナデがあの3人やボルドと再び顔を合わせのが、夕方4時頃だ。よっぽど他校や外部組織の場所が、ラファエリアに近くない限りは、あの3人が、たまたま近くにいたとしか考えられないだろう。


 しかし、いつ侵入したのだろう。カナデたちが来た時には、ユリイナとヒュウマが守衛をしていた。あの2人なら、影魔法使いといえども、見知らぬ生徒を中に招き入れることはしないだろう。だとすると、ユリイナがカナデたちを移動魔法で送ったタイミング。それならば、確かに校門にはしばらく誰もいなくなったはずだ。冷静に考えれば、見えてくるものはある。それをボルドたちが考えていないはずはないと、カナデは思うのだけれど。


「でも、珍しいですね。魔法学校を襲撃してくる他の学校や外部組織があるなんて」


 カナデにはそれが信じられなかった。襲えば無傷で済まないだろうし、学校や団体名が判明すれば、その名誉さえ守れないだろう。そんなリスクを冒してまで、襲撃してくるものがいるとは……。


 カナデの言葉に、ボルドは険しい表情を崩すことなく、大きく息をついた。


「珍しくはない。


 ――良く……ある?


「ボルド先生、ちょっと待って下さい。良くあるって、こんな突然の襲撃や死者が出るような悲惨な事件が、当たり前に起こっているって言うんですか?」


「そうだ。魔法のレベルや魔力の総量で、この世界の秩序が決められているのだ。力を求めて、ラファエリアを襲う学校や団体は後を絶たない。そしてこうした事件は世界各国で絶えず起こっている。だからこそ、世界の秩序を守るためにより強大な力を蓄えることが、ラファエリアに課せられた使命なのだ」


 まるで教科書通りの模範解答。だが、カナデが欲しいのはそんな言葉ではない。


「それはわかります。こういう世界だから魔法が全てなのはわかります。ですが先生、どうしてこの学校が襲われなければならないんですか?」


 ボルドは溜め息をつく。それを見てか、アマネが口元を緩めながら一歩前に出た。


「それにはアマネ先生が答えよっかなー。カナデ君はさ、そもそも魔法学校がどうして、魔法の教育機関に向いているんだと思う?」


「歴史や伝統があるからですか?」


「半分正解ー。じゃあ、どーしてその魔法学校には、長い伝統があると思うー? ここはリナちゃん」


 突然当てられたフェアリナは、愕然とした表情でカナデを見る。しかし、カナデには彼女を助けてあげることは出来なかった。


!」


 しんと静まり返る会議室。流石のアマネも、苦笑いを浮かべていた。


「えっと、どうして長い伝統があるのかというと、それはねー、この学校の中心には、巨大なマナの原石があるからなのー」


「マナの……原石?」


「カナデ君とリナちゃんには、魔法値の測定テストをしてもらったよねー? 最後耐久値が減って、割れちゃったけどー。あれよりも遥かに巨大な、それこそ人の背の3倍の高さはある大きなマナ石が、学校の中央広場に掲げられているのー」


 アマネは教官服のポケットから、小さく透明な石を取り出しカナデたちに見せた。丸くてキラキラしていて綺麗だ。それが1つのマナなのだろう。


「そしてー、そのマナ石がどうして伝統に繋がるかというとー、ある一定以上のマナ石には、魔法値の成長を飛躍的に上げる効果があったり、それから溢れ出る水から、魔力の回復薬を作ったり出来るのー。せっかく魔法の練習をしたくっても、魔力の総量が足りなければ、魔法は発動しないでしょー? だから、その貴重なマナ石を狙って、他の学校や外部組織が絶えずこの学校を狙っているってわけー」


 なるほど。だからこそ、マナ石を手に入れれば、世界を変えられるだけの力を手に入れることになるのか。最初は小さくても、いずれは巨大な国家にさえなり得る。そこでカナデに疑問が浮かんだ。


「じゃあ、アマネ先生。他の魔法学校や魔法の機関にも、そういった巨大なマナ石はあるってことですよね?」


「せーいかーい! この世界には、他国を含めておよそ7つの魔法学校があるの。セレスティアラ、ミカエラ、ヨハンブルグ、メタトロア、ガブリエ、レミエラ、そして当校である聖ラファエリア魔法学校ねー。そしてそれぞれに巨大なマナ石がある。だから、それらの国は、これまでそのマナ石をいしずえにして、繁栄してきたの。


 アマネは含むようにそう言うと、カナデとフェアリナの表情を確かめ、ゆっくりとその目を細めた。

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