第18話「死という非日常」

 第十八話「死という非日常」


 「……話せよ」


 潰れた無様な格好の少女に問いかける。


 「だ、だれが……!」


 真理奈まりなは、顔を地面にひれ伏したまま苦しそうに言い返す。


 ーーグイッ


 俺は絡め取った両腕に更に角度をつけた。


 「いっ痛!……」


 少女の口から思わす悲鳴が漏れた。


 「こ、この!」


 睨んでも吠えても無駄だ。

 上半身を完全に殺され、下半身はその圧力で押さえつけられている。


 「…………」


 東外とが 真理奈まりなは、密かになんとか尻を浮かせようと試みているようだ。


 ーーっ!


 そして少しだけスペースのできた、尻と折りたたまれたふくはぎの間を使って足を横に崩そうとした。


 こうなっては、一か八か、無理な体勢での蹴り技か、最低、脱臼覚悟でのでんぐり返しくらいしか方法は無いと踏んだのだろう。


 ーーなかなか思い切りはいいがっ!


 「パンツみえるぞ」


 「っ!」


 ーーゴチン!

 「きゃん!」


 俺の不意打ちの言葉に一瞬怯んだ少女、俺はその隙にさらに腕を捻り上げていた。


 「く…………うぅ……」


 真理奈まりなの頭が再び軽く地面に接触し、より低くコンクリートにへばりつく。


 こうなってはもう脱出は不可能だ。


 「……この……さいてい……」


 潰れた蛙のような無様な格好で負け惜しみを漏らす女に俺は……


 ーーヒタリッ


 「!」


 背中にねじり上げられた両腕。

 強制的土下座で圧迫される両足。

 そして、コンクリートの地面に押しつけられた額……


 虜囚と成り下がり、完全に俺の支配下に収まった女の身体からだに俺は空いた方の左手を伸ばし、無防備に晒された彼女の白いうなじを鷲掴むように置いていた。


 「っ…………」


 襟足の髪を無造作にかき分けて無遠慮に触れる俺の手は、僅かだが力が籠もる。


 「……………………」


 「っ…………ぅ…………」


 息の詰まるような緊張感……

 少女は理解しただろう……俺の意図に……そして……それに抗えないと。


 「…………は……はぁ……はっ……」


 それが証拠に、目の前の少女は控えめながらも口をパクパクさせ、酸素を求める桜色だった唇は、見る影も無く紫がかって小刻みに震えている。


 ーー直ぐ目の前にある恐怖……


 それを植え付けることに俺は成功していた。



 「……二度目は無いぞ」


 静かだが、それ故、有無を言わせぬ真実味がある。


 「ひっ……あ……あぁ……」


 真理奈まりなの頭の中には、ポッキリと折れた首から、自身の頭がガクンと力なく項垂れる映像がハッキリと浮かんでいたに違いない。


 ーー死という非日常、それが簡単に日常と入れ替わる瞬間


 俺はそれを知っているし、そう意思表示したつもりだ。


 そして、少なくとも東外とが 真理奈まりなもそう理解しただろう。


 「あ……あ……」


 ーー何人なんぴとたりとも”死”という恐怖は克服できない


 より効果的に、”死”そのものよりも、俺はそれをもたらす者の恐怖を相手にすり込んだ。


 死とは絶対だ”六神道ろくしんどう”とやらの一人である彼女であっても、その種の畏怖からは逃れられないだろう事を、俺は経験からっていた。



 「か、守居かみい てるを……学園から排除するため、行動しました……」


 間もなく、少女は別人のような震える声で言葉を発した。


 「具体的には何を?」


 「か、彼女の過去を……広めました……」


 「……」


 その言葉を表面上は何食わぬ顔で聞く俺だが……


 ーーぐぐっ……


 「ひっ!あっ……あの!」


 ーーちっ!つい左手に力が籠もってしまったか……


 俺は無意識に堅くなった左手の握力を緩めてーー


 「……何のために彼女を?」


 改めて尋問を継続した。


 「それは……か、守居かみい てるの能力が……一年前にみせた能力が六神道ろくしんどうにとって驚異であったから……それで、ずっと」


 「ずっと監視をしてきた訳か……」


 「……う……はい」


 「じゃあ、なんで今更動く?」


 ビクリと華奢な身体からだが震えるのが解った……


 「なんで今更動くのかって聞いている」


 「い、今までの方針は生徒会長の……御端 みはし來斗らいと先輩の判断でした……それが、六神道ろくしんどうの各家の……長老達の意向で」


 ーー御端 みはし……來斗らいと……長老……


 「なるほど、急遽、強制排除に方針転換したってわけだな」


 「…………」


 「能力に脅威って言ったな、お前達、六神道ろくしんどうとかいう輩はそういう能力が?」


 「……」


 その問いかけには途端に口をつぐむ真理奈まりな


 「そうか……」


 俺は冷たくそう言い放つと、彼女の首筋を掴む俺の手に再び力を込めた。


 「あ、いやッ!まって……おねがいっ!!」


 しかし、俺は顔色を変えないで次の動作に……


 「”てんそん”っていうんだ」


 ーー!?


 俺と真理奈まりな、二人きりだったはずの屋上に、突如男の声が響いた。


 「!」

 「!」


 声の方を注目する俺と真理奈まりな


 聞き覚えのある声、この状況にも、あまり切迫していない緊張感の無い声。


 「波紫野はしの……か」


 屋上の出入り口付近、そこには波紫野はしの けんがにこやかに立っていた。

 正直俺は余り驚いていない……なんとなくだが、この展開を予測していたからだ。


 「さくちゃん、お盛んだね、ほたるちゃんの次は真理奈まりなちゃんって……結構面食いだね」


 下手をすれば殺人事件の現場になっていたかもしれない場所で、いつも通りの波紫野はしの けん


 「……”てんそん”ってなんだ?」


 俺は質問相手を変えてそのまま続けた。


 第十八話「死という非日常」END

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