第12話「折山 朔太郎の事情」
第十二話「
ーーガシィィーーー!
ーードカッ!
俺の
ーードサッ
最終的に俺の顎先は完全に天を指し、背中側に弓のようにしなった
「ちっ、相も変わらず、うめき声の一つも出さねぇな」
地面に転がった状態から、立ち上がろうとした俺の後頭部の上だ。
「……」
両手をついた土下座のような格好のままで、俺は地面を無言で見つめ静止している。
「
「
ーーガシィィーー!
予期せぬ質問に俺がわずかに反応した瞬間、
「がはっ!」
後頭部を
「油断してんじゃねぇよ、ガキがっ!」
「…………」
ーー俺は……
顔面は鼻血に塗れているが、患部を押さえるどころか、それをぬぐうこともしない。
普通は痛みで咄嗟にそうするであろうことは解っている、しかし俺はそうしない。
人間らしい反応を拒む
俺は、正面でポケットに両手を放り込んだまま、不貞不貞しく立つ男を見据えていた。
ーー俺は小学生の頃、親に売られた……
新興宗教に嵌まった両親は、その宗教に騙され、多額の借金を作って消えてしまった。
俺が九歳の時だ。
借金の債権は、胡散臭い金貸しに渡り、
法律なんて関係ない、それがその男のやり方だった。
時には弁護士とかいう肩書きの大人が訪ねてきて、見ず知らずの俺に、色々と骨を折ろうとしたが、俺はそのどれもを拒んだ。
ーー理由?
ーーそれは……
ーーとにかく俺は、その
児童愛好者……異常性欲者……殺人願望者……売り先なんて様々だ。
一つ言えることは、人を売るような輩と買うような輩、そんな輩にまともな人間など居ない。
金持ちの歪んだ道楽……金や
穿った見方だと言われようとそれが真実だ、紛れもない、俺が経験した真実だった。
「おまえ、
初めて会う鋭い目つきの男は、何が可笑しいのか、そう言って口元を歪ませて笑った。
ーー歪な笑みだ……
心臓を鷲掴みにされたような恐怖に、俺の
「……にげようとは……してない」
精一杯虚勢を張って相手を睨み、そう口にするが、多分この男には通用しない……当時子供心にも解ってはいたが、それでも俺にはそれしか出来ることが無かったのだ。
その時の俺は、
「あ?、あの野郎、前歯三本ほどもってかれたってぶち切れてたぞ」
「おれは、あんなクソ野郎あいてに、にげない……あいつが、俺の服を……」
「服?」
男の挑発的な態度に、つい、それを口にしてしまった俺は、しまったと思ったが遅かった。
その男は俺の言葉から、ちょっとした違和感に気づいたのだ。
「てめぇ、ガキ、ちょっと脱いでみろ」
「……」
俺は無言で目の前の鋭い目つきの男を睨んだ。
「ガキが!」
男は無理矢理俺を捕まえ様とする、俺は
ーーガッ!
「ぐっ」
ーービリィィィ!
暴れる俺を
ーーくそっ!
俺は鎖で繋がれた足を踏みつけられ、冷たくて汚れたコンクリートの床に、顔面を打ちつけられて、うつ伏せに組み伏せられていた。
俺は捕まった後、腹いせに
素っ裸の上に、九歳児に対しては長めの小汚い上着一枚を羽織っただけの格好だった。
ーーくそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっーーーーーー!!
ーーまたもや俺は玩具にされるんだ……
殴られ、蹴られ、嬲られ……興味が無くなるまで貪られた後は、ゴミのように放置される……
しかし、その男の反応は俺の予測と少し違っていた。
「ほぅ……」
俺の露出した裸身を、妙に納得したような顔で眺める男。
「父親にやられてたのか?」
「……」
ーーこの男はなんだ?……何か違う……俺を見る目は……他の下衆共とはまるで違う……けど……けど……下衆共の方がずっとマシな……俺にとっては楽な……相手だったと思えるような、恐ろしい眼光だ!
「聞いてんだよ、ガキ!」
「……りょうほうだ」
俺の口は、俺の意思とは裏腹に、それこそ”蛇に睨まれた蛙”のように怯え、自然と根をあげていた。
「ふふふ、くくく」
俺の答えに、男はまたもや何が可笑しいのか笑い出す。
傷だらけの俺の
「ガキ、おまえは俺が買ってやる、せいぜいこき使ってやるから楽しみにしとくんだな」
ゾッとするような、とんでもなく邪悪で純粋な笑み。
それが俺と
ーー俺は今も変わらずこき使われている、それこそ三百六十五日、朝から晩まで
ーーその境遇は、誰かを恨むことなのか?
頭に
--
ーー俺には解らない……ただ、俺は確認がしたかっただけなんだろう……
ーー俺の人生を変えた人物がどんな人間なのかを
ーーその人間はどういう人生を過ごしているのかを
「オラッ!ガキ、さっさとおっ
俺の正面に立つ男は、そう言うとポケットに突っ込んだままであった両の
「……」
頷いた俺も、力なくダランと下げたままの拳に軽く力を通わせ、構えるのだった。
第十二話「
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