第10話「過去も、現在(いま)も無い世界」
第十話「過去も、
ーー繁華街、裏通り。
「てめぇが、俺の相手だと?ふざけんな!ガキじゃねぇか!」
バー”
「お客様、私どもは別に事を荒立てるつもりはありません、正規の料金さえ支払って頂ければ……」
怒鳴り声と執拗なガンつけで威嚇してくる人相の悪い男を相手に、マニュアル通り対応する俺、
「舐めてんのかぁガキ!何が正規の料金だ、ボリやがって!ちょっと飲んだだけで十五万だと!誰が払うか!」
興奮して俺に掴みかかる寸前の男に俺は……
「っ?!」
相手を制するようにスッと右手を差し出した。
別段、敵対行動を取ったわけでは無い。
ただ普通に、詰め寄る男の
ーーただそれだけの行為だ
「…………」
だが、男は面食らった多少顔をした後、警戒した面持ちで此方を覗っているようだ。
ーー勝手にピリつくなよ……たく……面倒臭い
「えっと、俺も忙しいんで……お客さん、払った方が良いとおもうけどなぁ」
平和裏に問題を解決しようとする無害な俺に対して、無用な警戒と敵対心を向けてくる相手に俺は面倒臭……友好的だと示すため、一転して砕けた言葉使いで支払いを促してみる。
「このガキが!俺が誰だか分かってんのか?俺は元日本ライト級チャ……」
「あんたさぁ、こんなトコにいるのに何でそんな熱くなってんの?」
俺は相手の言葉を遮っていた。
無意識だった……もう付き合いきれない。
ーー俺のクソッタレな時間でも一応限りは有るんだよ!ウダウダ付き合ってられるか、くだらねぇ……
「……はぁ?ガキ、なに言ってんだ、コラァッ!……」
ーー頭悪いなこいつ……
俺はこれ見よがしに、ため息をつきながら、差し出した手を降ろしていた。
「だから、失敗したんだろあんたの人生、で、こんな闇に居るのになんで人並みに不平を言ってるのかって聞いたんだよ」
ーータイムリミットだ、サービスタイム終了……
「!て、てめえ、俺が人並みじゃ無いとでもいうのか!」
「違うって……ああ、あんま違わないか?」
そんなことを考えながらも、すこぶる”
ーーこの男は気づいてないのか?
ーー何かに失敗して、何かに裏切られて、何かに……
ーーまぁ、何でもいいや
ーーとにかく、自分で望んだかそうじゃないかは関係ない、イヤになって逃げ込んだ底辺の世界で生きる同種の人間
ーー案外、居心地良いかもしれない世界だよなぁ……
ーーここに居れば何も考えなくて良い、借金に追われて日々の生活を過ごすのが精一杯、過去に何があったとか、未来に何があるかとか関係ない
ーーここにはそれが無い……あるのは生きることだけに執着する”
ーーいや、ちょっと違うか?……その”
ーー日々の生活を過ごすのが精一杯、生きることだけに執着する”
ーー
「…………」
ーーだから、
ーー過去の恨みも、
「なに、ぼーっとしてんだよ!ガキが!」
ボクサースタイルで拳を構えた男は怒りに真っ赤に顔を染め、既に襲い掛かってきていた。
ーーバキッ
ーードカッ
ーー
ーで、結果発表!
実際、戦闘はほんの数秒で終了していた。
「ああ、月が蒼いな……」
少しだけ熱くなった
そうして、俺は拳の力を解いて足下に倒れた男を見下ろしていた。
ーーあの女は……
ーー
ーーこの男も、俺も、……あの女も……同じなのに
ーーそもそも、なんで
そうして、だらしなく意識を失った、嘗て栄光と喝采の中心にいたであろう英雄の間抜け
「……くだらねぇ……」
ーー
ーー
ーーバタン!
ーー
「その顔だとー、話し合いはもう済んだのかしらー?」
生徒会室を出た
「……」
壁にもたれかかり腕を組んで
長い髪を後ろで束ねた、化粧っ気の薄い成人女性だ。
「……てめえは、いつも時間にルーズだな」
「あらぁ、
誰の目からも、品行方正とか真面目とかとは、ほど遠いイメージの男を捕まえて、そう言って笑う女。
「くだらねえ事ほざいてないで帰れよ
自身が
ーー
彼女もまた六神道の家の一人だった。
「半年ぶりくらいなのにご挨拶ねー……いいわ、じゃあ、
彼の言葉にこれと言って腹立たしい感情を覚えている
「!、ちょっとまて、
少し慌てて、
「……あ、はい……えっと」
淡いピンク色の薄いカーディガンを羽織った下は、薄いグレーのセーラー服と膝までの清楚なプリーツスカート、パールブルーのタイは一年生の女子ということを示している。
利発そうで静かな瞳と、控えめな薄い唇。
前髪を横に流した肩までのミディアムヘアの髪型は、清潔で生真面目な印象を受けるが、毛先を軽くワンカールしている辺り、オシャレにも気を遣っている最近の女子高生という感じだ。
制服姿の真面目そうな少女は短く返事した後、やや、動揺した表情で立ち尽くしていた。
「そこで偶然会ったのよー、なんだか、あなたに報告があるとか聞いたような気がするけどぉ……そういうことなら帰りましょうー、さあ、
傍らの戸惑う少女を促して、さっさと帰ろうとする
「何言ってんだアホ、てめえだけ帰れ、こっちは仕事なんだよ!」
「り、
「なぁによー、二人そろってー!」
途端に
「例の準備は
その報告に満足そうに口の端を上げる男。
「そうか、
「うわぁ、なんだか知らないけど悪い顔してるわー、
口に出した言葉とは反対に、
「あと、一つ気になる事があるのですけど」
報告の後、少し考えるような仕草をしていた
「なんだ、
「いえ、
「なんだ?」
少女の多少持って回った言い方に、柄の悪い男は不機嫌そうに先を促す。
「あの女……
「あ?
「ある意味……あの件が動き出せば、あの女の味方になるような事は無いとは思いますが、一応、保険として先に何か手を打っておいた方が良いのでは無いでしょうか?」
「…………」
いつもなら、”そんなもん、ぶっ潰せばいいだろうが!”と即答しそうなものだが……
「……危険な男か?その、なんとか太郎は」
そして
やはりこの男が気にとめるのは、相手の実力のみのようだ。
基本、弱い奴には何もできないと高をくくっているのだろう。
「
そもそも六神道の長老達からの
「そんな奴がいるのか?何者だ……」
「分かりません」
強いと解った時点で多少の興味を寄せる男。
そして、即答した
「じゃあ俺が仕留めてやるよ」
ーーやっぱりそう来たか!
彼女はきっとそう思っただろう、眉をひそめた表情を一瞬見せる。
こういう暴力的なところがウンザリとするのだろう。
「学園内のことは学園生が対応すべきです」
しかし
「ちっ、どこかで聞いた言葉だな」
日に二度も、それもかなり
「とにかく、私に任せてください」
「腕が立つんだろうが?
「敵になる可能性の
しかし、彼女は興味なさそうに壁に靠れて鼻歌を歌っている。
彼女は既にこの話題には興味がなさそうだ。
「…………」
「?」
会話の途中で、
「私に考えがあります、平和的かつ、効率的な方法が」
気を取り直した後、
「
そして彼女は、自信満々にそう言って”
第十話「過去も、
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