第15話「六神道」
第十五話「
「
俺の前席の住人、
ーーそんなたいしたモノじゃないだろうが……
珍しく俺から声を掛けた事に異様に興奮した男はそう言って意気込んでいるが、俺はただ、この街や学校のことが聞きたいと尋ねただけだ。
「この
「…………ああ」
「あっと、
「…………そうだな」
「だから
ーー終わりかよ!
というか、
「……憲法で信仰の自由は保障されてるだろ」
実際面倒臭い相手に、俺はぶっきらぼうに答える。
「表向きはね、世の中何でも建前と本音ってあるじゃない?」
「……」
「てなわけで、この
軽い口調で、とんでもない内容を話す
「おまえの家もその
軽薄を装う難儀な男はニッコリと微笑んだ。
三時限目後の休憩時間、また来ると言っていた
「
「ああ、越してきたのは小三の時だが、訳あってあまり世情には詳しくない」
「……訳あって、ねぇ……」
僅かな言葉の違和感も聞き逃さず、興味深そうに目を細めて俺を伺う
「…………」
「まあいいや、それで、実際この学園も実質、
突っ込まれると面倒臭いな、という俺の心配は杞憂に終わった。
多分……
「学生連の事か?」
ならばと、俺も知らんふりで会話を進める。
「うーん、正確には学生連の幹部達かな、毎年
「……」
自分のことを指さしながら笑う
「三年、”生徒会長”兼”学生連会長”の
「……」
一年の”とが”……なんとかはいいのか?とは思わない事も無かったが、俺は別にそのことは流した。
「お前達が
代わりと言ってはなんだが、俺はストレートな質問をぶつけてみる。
しかし
「……そう思ってるんだ?
「……状況的に普通そう思うだろ?」
俺は、懲りずにさも当たり前だという感じで答える。
「学生連は関係ないよ、少なくとも俺は知らない」
さらりと答えた
「……
「……」
俺は、答える気は無いとばかりに黙り込む。
「そういえば、ほたるちゃん来ないね」
そして、思い出したかのように教室のドアの方を見ながら呟く。
「別に来るとは言ってないだろ……」
ーー
ー
ーーカラーンカラーン
本日何回目かの俺の貴重な睡眠時間が終わりを告げる……四時限目終了だ。
授業終了の鐘が鳴り、目を覚ました俺は机から”カロリーメイド”を取り出した。
「今日は教室で食べるんだ?」
前席の男がまたもや馴れ馴れしく話しかけてくる。
「……面倒くさいことはごめんだからな」
鬱陶しがりながらも案外律儀に答える俺。
「
「ゴリラとの約束守るような、殊勝な人類がいるのか?」
仕方なく俺は口元をもごもごさせながら答えた。
ははは、と快活に声を上げた
「それはそうと、ほたるちゃんこないね……二限目のあとはいつもと変わりないようだったから、安心したんだけど……やっぱり堪えたのかなぁ」
実は四時限目の授業が始まる頃には、
「……」
俺はもぐもぐと何でも無いように昼食を進める。
「気にならないの?」
「……」
「えっと……あのさ……
ーーガタッ
次の瞬間、俺は急に立ち上がっていた。
「行くの?」
なぜか嬉しそうに俺を見上げる男……
ーーけどな……
「……だれだ?」
期待の籠もった
「?」
そこには見慣れない他クラスの少女が、俺を手招きしていた。
「
「……」
「ちょっと屋上いいかな?大事なお話があるんだけど……」
ーー……ほんとにだれだ?
「気分はどうだい
「う゛う゛ぅぅ……」
光の届かない薄暗い地下室の中、頼りなげに瞬く蛍光灯の下で拘束されている大男が一人。
「う゛う゛ぅぅ……ぐぅぅ……」
上半身裸で、丸太のような鍛えられた両の豪腕を後ろ手に戒められた巨漢の男。
ーー
太い首と肩の筋肉が隆々と盛りあがった彼自慢の肉体は、ギリギリと締め付ける金属製の鎖でグルグル巻きにされ、巨体は許しを請うように跪かされていた。
「むぅ……ぐぅ……ぅぅ」
四角いゴツゴツとした無骨な輪郭は彼の面影を残すが、その目の上には、ごつい革製のベルトが目隠しのように巻かれている。
グッタリとして生気の失せた顔は、普段彼を知る人物なら別人かと見紛う程だろう。
「儀式のね……準備はもう出来てるんだよ、だけどその前に……」
「っ!」
ーードガァァァ!
次の瞬間!
「が、がは……」
ーーどさりっ
頭を下に、地面に突き刺さった杭のようにピンと硬直して伸びきった足が直ぐにダランと重力に垂れ下がった後、崩れ落ちる巨体。
「ぅぅ…………」
最早、抵抗することを諦めた男は、ただ怯えたようにハニーブロンドの美少年に為すがままにされていた。
「あっ今思い出したよ、君も色々と僕のことを言っていたよね……異人の混血とか……」
ーーバキィィ!
先ほどとは反対の方向に回転した巨体は、コンクリートの床に今度は後頭部を打ち付けていた。
「ぐっ……か、勘弁……して、くれ……」
為すがままの物体がようやく絞り出した人語。
「…………」
その許しを請う男を見下ろす冷たい青い瞳。
「勘弁……とんでもない!君はこれから至高の存在になるんだよ!
笑いながらパンパンと両手のひらを打つ
「……まあ、試したことは無いから……死んじゃうかもしれないけどね……」
「!?や、やめて……くれ……俺を実験台に……するのは……」
「実験台?……そうか!そうそう、じゃあ、”至高”じゃなくて”試行”の存在!いや寧ろ”思考錯誤”の存在だね……くれぐれも”死亡削除”にならないと良いね、ふふ……ふふふっ上手いこと言うなぁ、
殆ど自分で口にした戯れ言に
「………………」
何を言っても無駄だ……この男は狂っている、
「あれ、諦めちゃったの?面白くないなぁ……」
しかし、
「…………まあいいか、お前を完成させたら次は
「!」
その名前にピクリと反応を示す
「ふふ、良いように利用されたのに馬鹿だねぇ君は……もてない男はこれだから……」
「
ーードカァ!
「ぐはっ!」
今度は
しかし、それだけにその男の苛立ちが如実に読み取れる。
「その名で呼ぶんじゃ無い!ゴリラ!」
そう怒鳴りつけると
「散々いたぶった後に楽しい人体実験の時間だ、で、その完成の暁には、
「…………」
地べたに丸まったままの巨体。
もちろん素人の蹴りによる打撃などさして効いてはいない。
尋常では無い男を前に自由を奪われた自分。
これから与えられるであろう理不尽を否応なく想像させられ、身体が縮みあがった
「あ……ぁ……ぁ……ぁぁ…………」
恐怖に打ち負かされ、ただ震える男の体は一回りも二回りも小さく見えた。
「じゃ、始めよっか?い・わ・い・えぇぇ」
第十五話「
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