誰か助けて~学園探検部、夜の調査探検~

 本日の夕食は味噌と生姜仕立ての鍋。

 要は白菜と人参、白滝、つみれ、薩摩揚げ、豆腐、豚肉。

 そんな感じに具材を適当に入れた味噌鍋だ。

 最後にうどんをいれる関係上、御飯は5合と控えめに炊いている。

 取り敢えず鶏ガラスープの素と蕎麦つゆで出汁にして。

 あとは味噌味というしごく簡単な料理だ。


 ちなみにテーブルの上には

  ① 例の背板を敷き

  ② ガス缶接続口とバーナー部が別体式になったガスバーナーを置き

  ③ 鍋代わりの大型フライパンを置いている。

 家の中でも微妙に登山気分が抜けない。


「随分色々なガスバーナーをお持ちで」

「便利そうなアウトドア用品を見るとつい買ってしまうんです。ちょっと怪しいメーカーの製品なんですけれどね。ガセットガスもアウトドア用のガスも両方使えて便利なんです。重心が低いから風にも強いし。火力はちょっと弱めなんですけれどね」

 うん、気を抜くとアウトドア道具のうんちくが山ほど出てきそうだ。

 あまりつつくのは止めておこう。


 さて鍋は既にある程度煮えてから持ってきた。

 だからいつでも食べられる状態だ。

 そんな訳で。

「いただきます」

の後には激烈な空中戦が展開される。

 こんな鍋でもやっぱり花形は肉。

 あれよあれよという間に全滅してしまう。


「朗人、追加無いのですか」

「取り敢えず今ある野菜と他の具材を食べた後です」

 勿論こんな事態は予想されているので、予備はしっかり取ってある。

 でも今出したらすぐに無くなるのは明白だ。

 ここは少し他の具材で胃袋を満たして貰おう。

 そんな訳で鍋の中が寂しくなったのを確認後。

 残しておいた具材なり肉なりを投入してキッチンのガスで加熱。

 ほぼ野菜が食べ頃になったのを見計らってから持っていく。


「よし、第2回、戦闘開始なのですよ」

「先生も負けないですよ」

「よし、返り討ちにしてやる」

「私も最善を尽くします」

 おいおいおい。

 そんな感じだと僕が取れるのはせいぜい肉一切れくらい。

 でも実はまだ奥の手は残っている。


「ほどよく減ったので、ここで最後の肉とうどんを投入しますよ」

「あ、それ汚いのです!」

「汚いのは佳奈美の喰意地です」

 更にちょい味変に玉子ととろけるチーズも投入。

 これがなかなか万能でよろしい。

 そんなこんなで。

「よし、満足したのです」

「美味しかったね」

 と夕食は終わるのだけれど……


「実は先生!最後のおつまみを残しておきました」

 先生がそう言って立ち上がりキッチンへ。

 お盆に缶ビールとウーロン茶。

 そしてアウトドア用らしい小型のフライパンを持ってくる。

「実は昨日ビデオで見てから、先生これをやりたかったんです」

 フライパンの中には厚切りベーコンが。

 完全に昨日のアニメに毒されているな、先生も。


 そんな訳で先生に酒が入ってしまったせいだろうか。

 話題がだんだん怪しくなってくる。

 厚切りベーコンも大分短くなった。

 先生だの先輩だの佳奈美だの雅まで直接ガジガジかじった結果だ。

 なお僕はいただいていない。

 別に潔癖症という訳ではないけれど、この4人と間接キスというのもちょっと……

 まあ男子の方がきっと女子よりこういうのを気にするものなんだろう。

 臆病だと言わないでくれ。

 リスクを避けているのだ。


 そうやってリスクを避けていても、災難は色々ふりかかってくる訳で……

「それにしても佳奈美ちゃんはいいわよね」

 先生が佳奈美のことを松戸さんでなく佳奈美ちゃんと呼んでいる。

 これは結構きこしめしているような……

「何がなのですか」

「柏君がいる事よ。何やかんや面倒見が良くて、料理も出来て、そしてそれでいて普通だし。色々な意味で便利でお得よね。私なんか28なのに彼氏すらいないし」

 おいおい先生、何という事を。


「そうだよな。焼き肉屋の時も思ったけれど、朗人は面倒見がいいよな。

 沢の時だってそうだ。佳奈美が疲れ切っているのを見て、何気にさらっと佳奈美の分の荷物持っていたりして」

 おいおいおい。先輩まで。

 それはその時面倒を見ておかないと後が面倒だという学習の結果だぞ。

 だから断じて愛情とかそういうのでは無いぞ。

「そうですよね。理解者がいるというのはいい事です」

 雅まで。


 しかしそこで佳奈美は不敵なとしかいいようのない笑いを浮かべる。

 これは不味い事を言いそうだ。

 僕の経験センサーが全力で警報を発している。

「おい佳奈美、何を……」

「何なら実力で奪ってもいいのですよ」

 遅かった。

 そして衝撃発言はなお続く。


「私にとっては朗人は必要なのです。でも実は朗人にとってはそうでもないと思うのです。今は私の魅力で何とか朗人を引き留めているだけなのです。

 だからその気になれば朗人を色々な方法で奪うのも可能ではあるのです。その戦いは好んで受けて立つのです」

 おいおいおい僕本人を前に何という事を言うのだ。

 しかも佳奈美の魅力で引き留めているだと!

「佳奈美さん、それ本気なんですか」

 先生までそんな事を聞いているし。


「本気も本気、朗人が選ぶ自由も間違いなくあるのです。それは残念ながら事実なのです。勿論私も受けて立つのです。私は代替品を発見するまでは朗人が必要だし、そう簡単に代替品が見つからない事もよく知っているのです」

 おい佳奈美、いくら何でもそれは……

「わかりました。それでは私も少し努力してみましょう」

 雅、その発言は危険だ。

 そして先生と先輩の視線も怖い。

 ああヤバい不味いと思わず震えが来てしまう。


「例えばこんな風に朗人が調子悪そうにしているとするのです」

 誰のせいだと大声で言いたい。

「そしてちょっと前に。男の人が元気になると言われる呪文があるSNSで流行ったのです。という訳で実行してみるのです」

 何かもう嫌な予感しかしない。

 そして佳奈美はその台詞を口にする。

「大丈夫、おっぱい揉む?」


 おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!

 教育的指導ものだろその台詞。

 しかし指導するべき先生は不敵に笑う。

「甘いわね。私は先輩からもっと強力な呪文を聞いた事があるわ」

 おいおい先生何を言い出す気だ。

「今夜どうかしら。私を好きにしていいわよ」

 うわああっちょっと待て、それ青少年には厳しすぎる!


「さすが先生。大人だな」

 先輩頷くな。

「私も努力が必要なようです」

 雅、努力するな。

 そして更に。

「雅はいいのです。いいものを持っているのです。こればかりは私には勝てない強力な武器なのです」

 佳奈美は雅の背後に回っていきなり雅の胸に手をやった。

「これが、これが私には足りないのです!」


 もう勘弁してくれ。

 僕はこっそりとこの場を逃げだそうとして……

「甘いな。動きがバレバレだぜ」

 先輩に捕まった。

「さて、ちょうど捕まえたところで」

「まずは色々調査の時間なのです」

 佳奈美も迫ってくる。

「学園探検部、夜の調査探検だな」

 先輩その台詞色々危険です。


 助けてくれ!

 そう叫んでもきっと誰も助けに来ない。

 先生や雅まで迫ってくる。

 ああ、誰か。

 救いの手を……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る