第4章 再挑戦!2つめの塔

翌日の朝

 5月5日祝日、朝8時過ぎ

 寝袋はこのまま干すというのでそのままにして僕は朝食の準備にかかる。

 なお先生は朝6時に全員を起こした後、日課のランニングへと出かけた。

 九十九里浜の砂の上を走って足腰を鍛えるそうである。

 本人申告によると約2時間、8時半までには帰宅予定だそうである。

 もう鍛える必要は全く無いと思うのだけれども。

 なお他の面子は二度寝中。

 さっきつい寝顔を見てしまった。

 困った事に、寝顔は三人三様にそれぞれ美少女だったりする。

 佳奈美がよだれを垂らしていたのは減点材料だけれども。


 さて米を量って研いで炊飯器に入れてスイッチオン。

 本日の朝食の準備にかかる。

 まず昨日余るはずだったポテトサラダが無くなったのでジャガイモをレンチン。

 潰してマヨで味付けしてディップ状態に。

 ゆで卵を茹でつつ、ハムエッグを大きいフライパンで量産。

 余った時間でキュウリ等を切ってスティックサラダに。

 レタスは適当な大きさにちぎって誤魔化す。


 せめて味噌くらいはあるかと思ったが冷蔵庫には入っていなかった。

 仕方ないので塩と蕎麦つゆとレタスと溶き玉子でありあわせのスープを作る。

 ハムエッグは各自用の皿に盛る。

 サラダはガラスボウルに小鉢を中に入れてディップを入れた状態で盛りつけ。

 スープは冷めるので最後でいいか。

 御飯もとりあえずそのまま。

 そんな感じでリビングへ戻る。


 3人は二度寝から起きる気配が無い。

 やることが無いので僕はテレビのニュースをつける。

 余り目新しいニュースは無さそうだな。

 そんな事を思いながらなんとなくぼーっとしていると。

「ただいま」

 家主が帰ってきたようだ。

 時計を見ると8時半少し前。

 ばたばたと女性陣が起き出す。


「ただいまー、荷物がもう来ていたからついでに受け取ってきましたよ」

 そう言って部屋に入ってきた先生がかなり長い段ボール箱を出した。

 こんなの持って走っていたのだろうか。

 そんな余分な事を僕は思わず考えてしまう。

「それじゃ私はシャワー浴びてくるから。食事の準備お願いしますね」

 先生はそう言って扉の向こうへ消える。

 ちなみに服装は汗で肌にくっついているTシャツ。

 下は短いジョギングパンツ。

 そう言えば廊下の向こうに洗面所と風呂があったな。

 つまり先生は今頃は……

 うん、この考えはここで強制終了が無難だ。

 面倒な事を考えたり想像したりしてしまう前に、僕は食事の準備をする事にした。


 ◇◇◇


 そんなこんな色々した後の午前10時過ぎ。

 先生は無事僕らを例の林道入口に送ってくれた。

「どうしようもなければまた電話してもいいですよ。昨日と同じ条件なら喜んで迎えに来ますから」

 ちなみにGWは6日まで、つまり明日までは休みだ。


「着替えがあればそうしても良かったんだけれどね」

 先生の服は先輩と雅には小さすぎ、佳奈美には大きすぎるそうである。

 そんな事を話しながら林道を歩くと。

 昨日と同様、塔が目の前に現れた。

「朗人、測定器はどう」

「この場所で0.9、昨日と同じです」

 つまり危険の原因在中のままという事だ。


「それでは用意をしますね」

 雅がディパックを下ろし、長い入れ物を横から外す。

 ちなみにこの長い入れ物は先生曰く釣り竿入れだそうだ。

 勿論中に入っているのは釣り竿では無い。

 大麻おおぬさ、または大幣おおぬさと言われるお祓いの道具だ。


「朗人、もう少し扉に近づいてくれ。大丈夫、最悪の場合は奥の手を出すから」

 そう言われて僕は扉に近づいてみる。

 扉から1メートルのところで中からカリカリいう音が聞こえた。

 扉をひっかいているような音だ。

「扉をひっかいているような音がします。測定値は9、いや0.09です」

 指数表示を一瞬読み間違えた。

「よし、敵として不足は無い。向こうも扉でこっちに出てこれない様子だしな」

「ランタン2個、こんな感じでセットでいいのですか」

 大体僕の両脇位のところに佳奈美がランタンをセットする。

 既に明かりがともっているが何せ日中、そんなに明るさは感じない。

「充分です。それでは朗人さん、場所を代わって下さい」


 ディパックを下ろし、大麻を片手に持っただけ。

 あとは雅は何も変わっていない。

 服装も紺のポロシャツにデニムのレギンスパンツ姿。

 でも何か凜とした雰囲気が感じられる。

 雅はさっきまで僕が立っていた場所に立ち、そして一礼して大麻を構える。

「天清浄、地清浄、内外清浄……」

 何かを唱え始めた。

 僕らはただ黙って見ている。

 ある意味雅に見とれるように見ている。

「其身其體の穢れを……」

 確かにこの時の雅は何か普通と違う感じだった。

 悪い意味じゃ無い。

 どういう表現を使えばいいかわからない。

 でも綺麗だ。

 最初激しくなった扉内部からの音は次第に低くなり。

 そして聞こえなくなった。

 雅が大麻を振るう。

 そして袂から取り出した小瓶から何かを振りまいた。

「祓いの儀式はこれで終了です。念の為朗人さん、測定器で調べてみて下さい」


 僕は測定器を持って雅と位置を変わる。

 測定器の数値は1.0で安定している。

 中からの物音も聞こえない。

 念の為僕は更に近づく。

 扉直近、扉に触れる位。

 それでも測定器の数値は変わらない。

「測定器、値は1.0のままです」


「よし、それじゃこれの出番だな」

 先輩は鍵を取りだした。

 あの佳奈美がプラスチックで作ったものである。

「一応念の為皆下がっていろ。あとランタンはもう消しておけ」

 言われた通りにして皆下がった後に。

「それでは、ポチッとな」

 鍵を入れて、回す。


「よし、これで大丈夫だったようだぞ。中でカチリと音がした。

 それでは皆のものよろしいか、御開帳!」

 扉を一気に開く。

 何も出てこない。

 動くものも何も見えない。

 中に見えるのは何か置かれたテーブル、本棚、そして階段だけだ。

「消したけれどそのガスランタンの方が明るいな」

 そう言って先輩はランタンを拾い、ガスボンベの方を持って火をつける。

「さて、中へ行くぞ。朗人はヘッドライト装備。測定器を注意して見ていろよ」


 扉が閉じないようもう1個のガスランタンで扉を止めて。

 それで中を僕らは観察する。

 下に下りる階段。

 テーブルと、その上にアクリル製らしい透明カバーに入ったメモ。

 そしてガラスの扉付きの本棚。

 これだけだ。


 メモは日本語、それもワープロかパソコン打ちだ。

『図書館に置いておくと危険な書物をここに保存する。色々な存在を寄せる事があるので取扱には充分注意すること。なおこの図書館別室の存在と在庫書籍については、管理者、真にその書籍を必要とする者、及び自力でここに辿り着いた者以外は秘密とするよう願いたい。初代図書館館長、団田理音』

 しばしの沈黙の後。

「こういう事だったんですね」

 雅が頷いた。


「将来必要になるもので、将来進むべき指針。そういうにはちょっと内容的にエグく微妙なのです」

 佳奈美は本棚の中にある本のタイトルを確認している。

「何か面白い本はあるか」

「面白すぎて手に負えない本ばかりなのです。きっと見なかった事にするのが正しいと思われるのです」

 佳奈美がそう言うという事はまあ、それが正解なのだろう。

 だからあえて僕はどんな本があったのかを聞かない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る