謎のアドレスの正体
「さて、このアドレスをどうするかだけれどな」
「パソコンをお借りしていいですか」
佳奈美がやる気だ。
「いいぞ。これは元々ここの備品だしな」
という事で神流先輩と佳奈美が席を入れ替わる。
佳奈美は何か知らないWebページを呼び出し、先程書かれていたアドレスをそこに入力した。
「これは目的のアドレスにウィルスとか有害なものが含まれていないか調べるページなのです。うん、特に問題は無さそうなので、ダウンロードしてみるのです」
佳奈美が操作すると画面上に白いアイコンがダウンロードされた。
「このパソコンでは3Dデータを表示できるソフトが無いようなのです。フリーの3D・CADを入れても問題無いですか」
「備品だけれど誰も管理していないからな。そのユーザもアドミニのまま使っているし。問題無いだろう」
「了解であります」
もうこの辺りは佳奈美に任せておくしかない。
彼女は何か英語のWebページを開いたり色々作業をしている。
「佳奈美は3Dデータを扱ったことが在るのか?」
「こんなのは大体
おいおいおい。
でも佳奈美は本当にそれで何とかしてきたからなあ。
そんな事を思いながら佳奈美の操作を皆で見守る。
そして約5分後。
「やっと表示できたのです」
という佳奈美の言葉で皆が画面を覗き込んだ。
先程の3Dデータが斜め上から見た形で表示されている。
形を見れば何かは一目瞭然だ。
「これは鍵だな」
「今時見ないシンプルな鍵ですね」
神流先輩や雅が言う通り。
昔ながらの形をした鍵の立体図が画面に表示されていた。
佳奈美も頷く。
「私も鍵だと思うのです。形と言い大きさといい、間違いないと思うのです。でもこの形を出力するには3Dプリンタが無いと無理なのです。業者に頼んでもいいのですが時間がかかるのです」
「3Dプリンタならあるぞ」
神流先輩があっさりとそう言う。
「本当ですか」
「この部屋に入らなくて隣の物理実験室の壁際に置いてある。この部屋からなら鍵無しで入れるぞ」
「ちょっと調べてくるのです」
佳奈美はダッシュでドアに駆け寄り、鍵を開けて中へ。
それを見送る僕ら3人。
「佳奈美さん、凄いですね。何か何でも知っているし」
「本人に前に聞いたんですけれどね。大体の機械は何となくで使い方がわかるらしいです。それこそパソコンでも何でも」
「私、スマホの使い方を覚えるのに3日近くかかったんですよ。でも今でも電話とメール以外の使い方は怖くて出来ないです。何かウィルスとか入ってきそうで」
「それってスマホを使っている意味あるのか?」
そんな事を話していると。
「この機械で大丈夫なようなのですよ」
という声が開いた扉の向こうから聞こえた。
すぐに佳奈美本人が戻ってくる。
「LANで繋がっていないのでUSBメモリか何か貸して欲しいのです。ここからデータを取って向こうに持って行くのです」
「ほらよ」
先輩が出したのは見覚えあるUSBメモリ。
僕が以前に合宿の献立計画を渡したときのものだ。
そう言えばまだ返してもらっていなかった。
佳奈美はパソコンからUSBメモリでデータを抜き出して向こうの部屋へ。
操作は向こうの部屋にあるノートパソコンでするそうだ。
「この形状ならエンプラでも何とか強度的に大丈夫だと思うのです。この大きさなら時間は1時間程度で大丈夫だと思うのです」
声だけ聞こえる。
「とすると、今日は佳奈美の作業で終わりにした方がいいな。崖を登って塔を探すとなるとそこそこ時間がかかるだろう。崖を下りるときに暗くなっていたら洒落にならない」
「そうですね」
「佳奈美はそれ、ずっと横で見ている必要あるのか。明日まで放置で大丈夫なら今日は終わりにしようぜ。どうせGW中は誰も来ない」
「了解なのです。作業終了後自動で電源断にしておくのです」
そう言ってまたパソコンを操作している音が聞こえる。
1分ほどで佳奈美が部屋に戻ってきた。
「これで明日は鍵も用意できるのです」
「なかなかいいペースだな。GW後半2日目でもう最後の謎突入か。学園の他の謎もピックしておいた方がよさそうだな」
「そんなに色々あるのですか」
「遊び場所には困らないんだな、ここは」
神流先輩はそう言ってにやりと笑う。
「まあそんな訳で今日は終了。明日も9時から宜しくな」
◇◇◇
翌日9時20分過ぎ。
僕らは学園の最西部。
グラウンドCの外れまで来ていた。
「これを登るのはさすがにヤバいのです」
目の前は思い切り崖だ。
崖でも岩ならまだ何とか登りようもあるだろう。
ただこの崖は土だの砂だの、そんな感じで構成されている。
下手に登れば上から土砂が崩れて生き埋めになりそうだ。
「ここからは無理そうですね」
「そうだな。少し回ってみるか」
そういう訳でまずは崖に沿って南下してみる。
崖は大体北北西から南南東という感じの方位で続いている。
そして登れそうなとっかかりの見つからないまま。
僕らは学園の端近くまで辿り着いてしまった。
後には理工学大型実験棟Bが見える。
そして左はもう学校の塀だ。
「これは無理だな。なら逆側も回ってみるか」
という事で今度は崖に沿って北上。
5分後。
同じ様子のままグラウンドBの西北端まで到着。
崖は同じ様子で続いている。
登れる様子は全く無い。
「これは学内からは無理な感じですね」
「そのようだな」
「折角鍵も出来たんですけれどね」
そう言って雅はプラスチック製の鍵を撫でる。
今朝方佳奈美が3Dプリンタから取り出した鍵だ。
プラスチックの割には硬く頑丈そうな感じである。
「仕方ないので一度
「ああ。それが確実だな」
という事で僕らはこのまま
◇◇◇
そんな訳でいつもの
パソコンを皆で囲んでいる。
画面にはグーグルアースと国土地理院の地形図。
つまり塔までの進路を探索中だ。
「道は1本しか無いようだな」
「尾根の反対側に回るので結構遠いのです。学校からだと片道だけで10キロ近く歩く必要があるのです」
佳奈美の言う通りだ。
電波塔まで道らしきものは確かに存在した。
国土地理院の地図で点線になっている。
グーグルアースでも何となくわかった。
緑が切れて道らしき状態になっている。
しかしその道に入る場所が学校から大分離れている。
学校からだと一度街まで出て西へ回り更に北へ回って川沿いに東に向かう。
それでやっと目標地点に向かう小道への入口だ。
「タクシーでも呼びますか」
「ここまでタクシー呼んでぐるっと回ってか。結構かかりそうだな」
確かに。
「取り敢えず地図と写真は出力しておくのです」
佳奈美がそう言ってパソコンを操作した。
「この小道そのものは500メートルも無いのですけれどね」
「バス等は無いんでしょうか」
「この学校から出るのがネックなんだ。休日ダイヤだと朝9時の駅行き便の後は午後5時まで無い。向こうの林道入口の方も似たような感じだ。コミュニティバスのバス停が500メートル歩けばあるけれど、もう行く便は15時過ぎまで無い。帰りは16時30分便があるけれどさ」
「なら明日の朝一番のバスで学校を出ましょうか。バスを乗り継いで林道入口まで行ければそれでも……」
「残念ながら乗り継ぎは不可能なのですよ。駅まで出たらタクシーですね。向こうからの帰りのバスは1時間待ちを我慢すれば学校から500メートルのところまで接続するのですが」
「つまり何とかして行ければ大丈夫という訳か」
「帰りは崖の上からロープで、はやっぱりあの状況だと無理ですよね」
「おそらく斜面を削り取った後、雨や地下水で柔らかい地層がえぐれたのですよ。だからあんな崩れやすそうな感じなのです。実際崩れた後があちこちにあったのです」
「つまりはおすすめしないという事だな」
詰んだ。
つまりは、
○ タクシーか何かで林道入口まで行く
○ 途中区間でバスを使って残りタクシーで林道入口まで行く
○ 10キロ以上歩いて林道入口に行く
しか無いという事か。
「よし、決めたぞ!」
神流先輩がそう力強く言った。
何か名案でも思いついたのだろうか。
「タクシー代を出す決心がついたのですか」
先輩は首を横に振る。
「いいや、現実逃避だ。ちょっと速いが朗人、メシの用意!」
時計は10時30分過ぎ。
ちょっとどころか大分早いのではないだろうか。
「あ、でもここでちょっと頭を冷やすのもいいかもしれませんね」
えっ?
「補給は重要なのですよ」
えっ?えっ?
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