揺らぐ現実性

「さて、それでは次の単語、種別Wの説明に移るか。それではちょっと失礼」

 そう言って神流先輩は目に手をやりカラーコンタクトを外した。

「まあこのカラコン、既にバレているようだけれどな」

 佳奈美も雅も頷く。

「それぞれ事情がありますでしょうから」

「個人的には外した方が自然だと思うのですよ」

 2人の反応に先輩は微笑む。

「ありがとう。そんな反応ばかりなら私も楽なんだけれどな。さて」

 僕がバイキングの時に見たものの再現だ。

 右手の平の上に火球が出現する。


「おお、これは本物なのですか。熱を感じるのです」

「一応本物だ。熱を発していて触れるとただじゃ済まないという点ではな。さて朗人。今の測定器の値は幾つだ」

 火球の方に視線を向けていたから気づかなかった。

 慌てて視線を測定器に戻す。

 明らかに今までと違う数値が表示されていた。

「0.73、値は0.73です」

「という訳だ」

 昨日同様に火球はふっと消える。

 痕跡は何も残っていない。

 僕は測定器の表示を確認する。

「少しずつ値が戻ってきています」

「このまま放っておけば1に戻る。ご苦労だった。もう席に戻って良し。測定器はスイッチを切ってその辺に置いておけ。またどうせ使うだろうからな」

 そんな訳で測定器を置いて僕も着席する。


「今の現象の説明をしよう。

 私がこの世界本来の法則と違う方法でさっきの火球を生み出した。結果、周辺の現実性が変化させられてヒューム値が下がった。

 つまり私は現実性を変化させる能力を持っている。種別W、魔女witchとしてな」

 実は僕はあまり驚かなかった。

 昨日見たあの火球を説明できる理由。

 そして地下道探索中に出た種別Wという言葉。

 結果、Wがつく単語として思いつくのは魔女witchだろう。


「凄いのです。他に何か魔法が使えるのですか」

 身を乗り出す佳奈美とちょっと何か考え込んでいる雅。

「まあ、その辺はおいおいってところだな。あとこの学園内でも種別については知らない人間が多い。だからその辺は気をつけとけ。さっきのおっさん顔は例外だ。奴は奴で別の種別をカミングアウトするマーカーを付けていたからな」

 神流先輩もおっさん顔だと思ったんだな、というのは別として。

「なら他にも種別はあるんですね」

「ああ、色々な。ただカミングアウトするしないは本人の判断だ。

 私もここではあっさりバラしたけれどな。クラスとかでは一切この件については話していない。面倒だからな」


 雅が小さく頷いたのが見えたような気が売る。

 今の言葉はひょっとして……

 そう思い形作っていく想像を取り敢えず僕はそこで止めておく。

 まだこれは僕の考えすぎだと思っておこう。

 そう、今の段階では。


「さて、これで単語説明は終わりだ。次はさっき地下道から脱出した理由だな」

 そうだ、それも説明がまだだった。

「さっきヒューム値が下がったと言っただろう。ヒューム値が下がる理由というのはだいたい3つだ。

  ○ 私のような種別持ちが魔法のような力を使ったか

  ○ 現実性を下げるような出来事が発生してしまったか

  ○ 現実性を下げるようなものが近くにあるか

という感じだな。

 例えば本物の魔術書があれば近くのヒューム値は下がる。

 もっと極端な事を言うと、大人数が犠牲になる事故。そんなのが発生したらそれだけでヒューム値が下がる。こんなの現実であって欲しくない、現実ではたまらない。そう思う人が多ければそれだけでヒューム値は下がるんだ。

 良く出来た映画なんかでもちょっと位はヒューム値が下がったりする。

 まあ、そんなものだ」


 僕が思っていたより現実とは脆弱なものらしい。

 少なくとも先輩の説明では。

「それでさっきの地下道では何が起こっているのですか」

「確認していないからなんとも言えないな。

 私みたいな種別持ちが能力を使わざるを得ない状態になったのか。ヒューム値を下げるような化け物が出てきたか。星辰とかの関係で何か出来事が発生したのか。

 ただヒューム値が低い場所へ慣れない人間が行くと危険だ」


「何故なのですか」

「ヒューム値が低すぎると、ヒューム値1の普通の人間でもその場の現実を変えられるからな。

 現実改変は、

  ○ その人間が持つ固有ヒューム値と

  ○ その空間や対象のヒューム値の

差が大きいほど発生しやすい。

 大体固有ヒューム値が対象ヒューム値の倍を超えるあたりが目安かな。

 例えば私の固有ヒューム値が10ならば、対象ヒューム値が5以下のものに影響を与えられる。ヒューム値1の普通の人間でもヒューム値0.5以下の空間にいれば色々と出来てしまう訳だ。

 そんな訳で普通は妖怪だの化け物だのを想像して創造してしまう。それによって更にヒューム値が下がり化け物が更に増えていく訳だ。

 だから慣れていない人間がいる場合はヒューム値のあまり低い場所に行かない方がいい。それでさっきは安全の為脱出した訳だ。さて」


 神流先輩はにやりと笑う。

「そろそろ地下道の疲れも取れただろう。そこで提案だ。

 これからさっきのヒューム値低下の原因を探りに行ってみたいか。勿論危険な事はしない。基本的には地上から調べてみるだけだ。

 どうせさっきのおっさん顔も色々やっているだろう。その辺のお手並みも拝見といこうじゃないか。どうだ、皆の衆」

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