第3章 2つめの塔
本来活動始動中
4月30日火曜日放課後の理化学実験準備室。
「先日は合宿ご苦労だった」
神流先輩が重々しく話し出す。
「我が方の被害は甚大であったが、取り敢えず顧問にして担当である小暮先生への義理は果たした。その点については皆に感謝したいと思う」
うん、言いたい事はわかった。
佳奈美もうんうん頷いている。
雅だけはわかっていない様子だけれども。
きっと雅は被害が無かったに違いない。
僕も佳奈美も翌日酷い筋肉痛だったけれど。
「なお最新の小暮先生情報を伝えよう。先生はGW後半の5月3日4日の日程で、今度はワンダーフォーゲル部の新人歓迎合宿に参加するそうだ。場所は奥多摩。
我々としてはせめてここで彼らの冥福を祈りたい」
先輩、その表現だとワンゲル死んでいます!
でも言いたい事はわかる。
佳奈美も手を合わせて目を瞑っていたりする。
鎮魂の鐘でもあれば鳴らしたいところだ。
チーンという感じで。
「さて、後顧の憂いは晴れた。そこでGW後半戦は我々の本来の活動、つまり学内探検を執り行おうと思う」
「異議無し!」
何処かの社員総会みたいな表現で佳奈美が賛意を示した。
まあ、僕としても異論は無い。
雅も頷いている。
「それでいくつか学内の謎に挑むプランを用意した。これがレジュメだ」
合宿の時の注意書きでもそう思ったけれど。
何でもパソコンで打ってレジュメにしてくる。
しかも説明が何気に細かい。
僕、佳奈美、雅はそれぞれ配られた紙を読む。
■ 厳選・学内の謎究明コース
○ 視線の行方
各園内には6箇所の偉人像が存在する。
何故かその偉人像は全て西方を向いている模様である。
この理由は何か解明する。
※ 難易度 初級
○ 時計塔の謎
大学人文教育連本棟の前に立つ時計塔。
この時計塔には入口らしきものが何処にもない。
どこから入るのか。
そして中には何があるのか。
※ 難易度 初級~中級
○ 2つめの塔
伝承によればこの学園には時計塔の他にもう1つの塔がある。
それは建築時の資料及び費用等からみても明らかである。
この塔の所在を明らかにするとともに、内部を探索する。
※ 難易度 中級~上級
おいおい、ゲームかよ。
そう思いながら読み切ってしまう。
きっと先輩はこのレジュメを作るのにTRPGを意識したのだろう。
でもなかなか面白そうだ。
しかも学内地図まで裏面に印字してある。
相変わらず作業がマメだ。
全部読み終わったらしい佳奈美が神流先輩に尋ねる。
「地下道の謎は無いのですか」
先輩は頷いた。
「あれはこの前のようにモンスターが出るからな。でもこの辺の謎も解く過程で地下道探検が必要になってくると思うぞ。これは私のカンだけれどな」
「なら、どうせなら一番
おいおいおい。
「私は反対です。こういう場合はやはり簡単な方から解いていくのが正しいと思います。TRPG等でもそれがセオリーですし」
おいおいおい。
TRPGなんて言ってしまっているし。
ここはれっきとした僕らの現実だ。
でもまあ意見としては。
「僕も雅に賛成だな」
となる。
「うーん、仕方ないけれど2対1なら多数決を認めるのです」
佳奈美、今日はなかなか素直で宜しい。
この前の合宿で懲りたのだろうか。
「それではまず、視線の行方から行くことにしよう。
それでまずは3人に宿題だ。
この問題に関係すると思われる文献や資料を出来るだけ読みあさってこい。
その中にこの視線の解答があれば探索の必要は無いからな。
この学園関係の文献はだいたい大学図書館に揃っている。うちの図書館は資料も全て電子化されているからパソコンで検索も可能だ。
また疑問や調査事項、必要資材等があれば随時報告してくれ。私は大体放課後はここにいる。ここでもネットで大学図書館の検索が出来るしな。
実地調査開始は5月3日金曜日朝9時。いいな」
「任務了解」
佳奈美の妙な返事とともに次の活動がスタートする。
◇◇◇
とりあえず3人で図書館へ。
学生証がICカードで入館証にもなっている。
そんな訳で中へ入って。
「どうする。本の検索でもするか」
僕は二人に尋ねる。
「任せなさいなのですよ」
自信ありげな佳奈美に僕と雅はついていく。
佳奈美は図書館の中程の階段を登り、資料検索室と札が出ている部屋へ入った。
中にはパソコンが40台位並んでいる。
「おとなしく見ていて欲しいのです。この学校関係の文書が全て電子化されているという話が本当ならば、これで探すのが一番早いのです」
そう言って自分の学生証をICリーダーに読ませて検索画面を起動させた。
「全文献、文章全文……だと時間がかかるからNDC使って対象文章を絞るのです。それでキーワード検索で……」
「慣れているな、佳奈美」
「この図書館では初めてなのです。でもこんなの別に説明などいらないのです」
僕と雅は顔を見合わせる。
一方、佳奈美は順調に色々と設定をして。
「取り敢えず『秋津学園、功労者、銅像』あたりから検索してみるのです」
そう言いながら単語を打ち込んだ。
◇◇◇
佳奈美の活躍のおかげで色々とそれらしい情報が拾い出されていく。
その情報を実際に読んで判断するのが僕と雅の役目だ。
工程は、
① それぞれの端末から共用で使えるフォルダ内を佳奈美が設定。
② そのフォルダに佳奈美が検索で見つけた情報を保存。
③ それらを雅と僕が読んで確かめる。
という感じ。
なお全部佳奈美の指示である。
「印刷する情報には書名と著者名を必ず入れておくのですよ。そうすれば次回必要になった時に簡単に文書を探せるのです」
そんな感じで指示を飛ばしながらも佳奈美の手は止まらない。
今までに僕と雅で、
○ 銅像になっている人物(全部で6人)の
・ 氏名生年月日と略歴
・ 銅像として顕彰している理由
○ 銅像の場所
○ 設立に要した費用
等を印字した。
僕と雅だけではここまで情報を探してまとめるのに何日必要とするだろう。
やはり佳奈美の頭脳は特別製だ。
それは中学時代から重々感じていることだけれども。
ただ、銅像が何故西を向いているのかという具体的な情報。
その最重要な情報がまだ全く何も見つかっていない。
佳奈美も色々手を尽くしてはいる様子だ。
情報を探索する範囲を広げているのがわかる。
でもおかげで拾ってくる情報源が
○ 学園史
○ 設立時の書類
○ 新聞記事
から
○ 毎月発行の学内誌
○ 大学や高等部の新聞部発行の新聞
○ 校長やその他お偉いさんの講演内容
なんて雑多な感じになってきた。
当然拾ってくる情報の内容も微妙になってくる。
○ 東岡氏の銅像にカラスが糞をして頭の一部が腐食した。
大学新聞部がこれを『東岡氏、ハゲた』と報道。
学園事務局から指導と是正勧告が入った。
なんて感じになってくる。
やはり実地で銅像そのものを調べないと何も出てこないのか。
そう僕が思った時だ。
「ゲタグリ!なのです」
小さく佳奈美が叫ぶ。
「何だゲタグリとは」
「Get a grip!船影補足!見つけたのです」
「どれどれ」
僕と雅が佳奈美の端末の画面をのぞき込む。
『……です。銅像となった功労者の皆様の視線は、学園の将来必要になるものをじっと見つめています。これは我々が将来進むべき指針でもあります。このように……』
「3年前に退任した初代校長の訓示なのですよ。つまり当時の校長は具体的な何かを知っているし、銅像の視線の方向は『学園の将来必要になるもの』を見ているという事なのです」
おーっ!
思わず僕と雅が小さく拍手してしまう。
さすが佳奈美だ。
「取り敢えずもう少しこの方向性で調べてみるです。ついでに今のところの状況を学内メールで先輩に送っておくです」
佳奈美はそう言うと、またキーを連打し始めた。
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