こちら学園探検部
於田縫紀
プロローグ 旅の仲間?~ある同好会の悲しき仲間~
恋人?いいえ変人です
何の因果で……
そう思いつつ僕、
長い長いお偉いさんの話がBGMがわりだ。
快適なBGMでは無いけれども。
勿論そうしているのは僕だけじゃ無い。
新入生と称する100人強の集団と、教員と言われる30人弱の大人もだ。
つまりこれは入学式。
千葉県の奥地にある秋津学園高等部の入学式だ。
秋津学園は歴史のある学校法人ではない。
つい5年程度前に財界等の有志により創立された私立の学園体だ。
中学から大学まで持つ全寮制の総合学園。
大学生は寮に入らなくてもいいらしいけれど。
なんでこんな処に入学してしまっのだろうか。
その理由というか犯人は僕の場合明白だ。
犯人は新入生席の何処かにきっと一見おとなしく座っている。
奴の名は
彼女は中学の友人というか何というか、まあそういう関係だ。
外見は身長低い、幼児体型、髪三つ編みお下げ。
少なくとも恋人とかそんなロマンチックなものではない。
どんなにひいき目に見ても問題児と世話役といったところだ。
こいつが進路相談を控えたある日、
「なかなかパフォーマンスがいい学校を見つけたのです。朗人の分も一緒に資料を取り寄せたのです」
とここの学校資料を渡してきたのがそもそものきっかけだ。
「何のパフォーマンスがいいんだ」
「難易度に対する大学合格実績なのですよ」
確かに人数と難易度の割には有名大学合格数がかなり多い。
ここの大学部も設立は近年だが難易度は既にMARCH上位並だし。
でも正直、
○ 田舎すぎる点
○ 全寮制
という点でまずちょっと勘弁して貰いたかった。
僕は普通の高校生活を送りたかったのだ。
別に高校デビューしようという訳じゃ無い。
ごく普通の、ささやかな日常で十分だ。
○ 学校帰りにたまに友人とマックに寄る
○ たまにクラスメイトとカラオケする
とか程度の、ごくささやかな。
でもうちの親が佳奈美のセールストークに飛びついてしまったのだ。
確かにこの学校、
○ ぎりぎり僕が入れそうな難易度
でありながら、
○ 進学実績が非常に良い
○ 財界の出資で全寮制なのに学費が安い
という訳で。
まあ親としていい感じの
佳奈美の真の目的は僕にはわかっている。
彼女は単に家から出たかっただけだ。
佳奈美の家は結構過保護。
門限も夕方6時30分だ。
そんな生活よりは寮の方が自由だろう。
志望動機がそこにある事に僕は全財産かけてもいい。
ちなみに僕の全財産とはお年玉の貯金7万円弱。
しかし佳奈美は大人の前では優等生の芝居が上手い。
成績も文句なく優秀。
なので同じ生徒以外には見破られることもまず無い。
でっち上げた理由を堂々と通す度胸も演技力も充分だ。
佳奈美様の有り難い個人レッスンもあって僕まで巻き添え受験で無事合格。
そしてこの席に座っているという訳だ。
以上でここまでの悲しい経緯説明は終わり。
さて財界からの出資が多いという事で来賓がえらく多い。
そして話がとっても長い。
きっと今頃、佳奈美は真面目に聞いているような格好をしている。
でもそれは外見だけだ。
本体はきっと幽体離脱している。
勿論本当に魂が離れている訳では無く、脳内が妄想世界へ旅立っているのだ。
こいつの頭脳と妄想力は超強力で僕は何度もそれに泣かされた。
なお授業中もだいたい彼女は妄想世界に旅立っている。
万が一先生に指されても、板書等から問題を類推して即時に回答可能。
彼女の頭脳では授業の遅い進度についていけないらしい。
まあそんな訳で佳奈美のような術を使えない僕は姿勢を崩さずただ耐えるだけだ。
立ったまま話を聞く事にならないで良かった。
むしろそう積極的に考えよう。
残る来賓は2人で、プラス校長のお話が終わればこの拷問も終了だ。
◇◇◇
長い訓示だの挨拶だのといった難関を新入生の同志とともに何とか耐えきって、やっと放課後になる。
さてこの学校にはろくな娯楽は無い。
いや学校施設としては娯楽がある方だろう。
敷地内にカラオケボックスもあればコンビニもあるし小さい本屋もある。
でも学校外周囲5キロ範囲には何も無い。
7キロ歩けば確かコンビニが、もう1キロ追加すればJRの駅もある。
その駅前には確か民家が数軒あった筈。
タクシーも呼べばやってくるが迎車料金が高い。
そんな感じの場所だ。
別に外出禁止とかがある訳じゃ無い。
学校外に出ても何も無いだけ。
そんな訳で必然的に課外活動という名の暇つぶしが盛んになるらしい。
そんな訳で昇降口から生活ゾーン入口まで勧誘の皆さんが列作って待機している。
「柏は何処か課外活動入るのか?」
とりあえず話すようになった前席の
「うーん、ちょっと様子見だな。中学も帰宅部だったし」
これは本音だ。
「そうだな。明日に生徒会主催のオリエンテーションがある。その後でいいよな」
今度は僕から聞いてみる。
「交野は何か運動部やっていたのか」
「生憎生粋の帰宅部でな」
「同じかよ」
そんな感じで話していると小柄な女子生徒がこそこそという感じでやってきた。
「朗人、頼むのです。人混み相手は苦手なのです」
言わずもがな、佳奈美だ。
奴は隣の成績がいい方のAクラスにいる。
ちなみにここは成績並のBクラス。
もう1つ、もう少し頑張りましょうのCクラスがある。
なおクラスは男女混合で成績順わけだ。
佳奈美のクラスも一通り本日の色々が終わったらしい。
「あれ、彼女さん?」
「断固として違う」
「うーん、いけずなのです」
こら、誤解されるような発言はするな。
「断固として違う」
「そうか、じゃ、邪魔しちゃ悪いな」
交野はそう言ってカバンを手に持ち。
「じゃあ彼女さんと宜しくな。詳細は明日じっくり聞かせて貰う」
去って行ってしまう。
ああ交野、誤解しないでくれ。
僕の趣味はこんな幼児体型の妄想魔じゃない。
でも今日はもう手遅れだ。
誤解の訂正は明日やろう。
僕はため息をつく。
教室内は既に人数が少なくなってきた。
「しょうがないな。行くか」
「宜しくです」
見かけだけはおとなしそうに佳奈美は言う。
「何か入りたい課外活動はあるか」
「まだデータが集まっていないのです」
つまり今日は勧誘全てスルーの方針ということ了解だ。
「あと、コンビニと本屋に寄る方針で頼むのです」
はいはい了解。
そんな訳で僕は荷物を連れて教室の外へ向かう。
さて、昇降口の外には勧誘の皆様がずらっと揃ってお待ちになっている。
何か紳士協定でもあるのか扉の内側にはいないが抜け道は無さそうだ。
「それでは宜しくなのです」
そう言って佳奈美が僕の制服の裾をつまむ。
別に彼女は勧誘が怖い訳じゃ無い。
興味が無い話を聞くのが面倒なだけだ。
それよりは自分の妄想の世界に入っている方を好む。
なお妄想し続けたまま通常生活を送ることも可能だ。
つまり彼女が現在僕に望んでいるのは、
○ 勧誘を全てうまく切り抜けて
○ 人にや物に当たったりしないように
○ 彼女を上手く導いてこの場を乗り切ること
という訳だ。
面倒くさいがしょうがない。
行くか。
僕らは昇降口の外へと足を踏み出す。
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