Walk This Way!

 最近の100円ショップは気が利いている。

 ヘッドランプも売っているのはちょっと想定外だった。

 せいぜいゴム手袋と軍手、ヘッドランプ用の電池位だと思ったのだけれど。

「雨具と手袋はもう少しいいのをホムセンで買うから買うなよ。ヘッドランプは面倒だからこれでいいぞ。あと日用品で欲しいものがあったら別途購入な」

 そう神流先輩がいうので店を隅から隅まで探して文房具だのを色々追加。

 ノート等も含めてそこそこ買い込んでしまう。


 さて、佳奈美と雅は浮かれている感じだ。

 ただの浮かれ様ではない。

 盆踊りの夜店を物色中の小学生くらい浮かれている。

 佳奈美は家がうるさくて思うがままお買い物なんて事は出来なかった筈。

 雅もまあ似たような感じなのかもしれない。


「探検の時に武器に使えるかもしれないので、これは買っておくのです」

 そう言って佳奈美が取ったのは昔懐かしい銀玉鉄砲。

「いや常識で考えろ。銀玉鉄砲で倒せる敵なんていると思うか」

「銀玉鉄砲っていうんですか、これ。弾はどれくらい飛ぶのですか。100メートル位ですか。鳥の狩猟で使えますでしょうか」

「いやこれおもちゃだから。5メートルも飛べばいいんじゃないか。子供同士が遊んでも怪我しない程度の威力だからさ」

 そう雅に説明している間に佳奈美は次の獲物を持ってくる。


「おいおい佳奈美、次はなんだ」

「昔懐かしいけん玉なのです」

「あれこれ実家近くの民芸屋さんにもありましたわ。おいくら位でしょうか。2,000円位でしょうか」

「ここは100円ショップだから値札が無ければ100円です」

「まあ、お安いのですね。お店は大丈夫なのでしょうか」

「日本のデフレの象徴なのですよ」

 こんな感じで全然進まない。

 そして背後で微笑ましく見ている神流先輩に一言言いたい。

 見てないで少しは突っ込み&止め役手伝ってくれ。

 放っておくと動けなくなる位買い出しそうだ。


 そんな訳で怪しい安物コスメとかにもどっぷりはまった結果。

 戦利品でディパックぎっしりにした佳奈美と雅がなんとか店を出たときには、既に僕はラーメン屋の出汁がら状態という感じに疲れていた。

 しかし更に追い打ちがまっていたりする訳だ。

「次のホームセンターはどっちですか」

「その国道をひたすら真っ直ぐだな。だいたい1キロくらいだぞ」

 おい何だと!

「そんなに遠いんですか」

「探検には体力も必要ですわ」

「そうなのです!」

 2人はお買い物ハイになっているからいいけれど僕は既に疲れ切っている。

 我ながら田舎を舐めていた。

 田舎は車移動が普通で常識。

 だから歩く人の事なんて気にしない店配置なのだ。

 まわりの店も駐車場完備で車前提の感じだし。


「さあ、行くのですよ!」

 絶好調の2人と笑顔の先輩に挟まれ4車線道路の歩道を僕は歩き出すのであった。

 はあ、疲れる。


 ◇◇◇


  そんな調子でホームセンターでほぼ閉店までお買い物。

 いい香りのシャンプーとか厳選したヘルメットとか可愛い色を探し回ったレインコートとかをカートにのせまくった。

 もはや日用品を買いに来たのか探検用具を買いに来たのかわからない状態。

 結果2人の荷物が多すぎて僕も少し持ってやっている。

 神流先輩は手ぶらだけれど。


「折角だから飯を食って帰るぞ。この機会だからとっておきの店を予約した。運良くちょうど30分後に予約できた。ちょい高めの2,200円程度だが、大丈夫だろ?」

「何とか」

「余裕なのですよ」

「大丈夫ですわ」

 うん、買い物の様子を見てわかった。

 佳奈美も雅も僕より大分お金に余裕がありそうだ。


「では行くぞ。時間が惜しい」

 あ、まさか、ひょっとして……

「30分後に予約したという事は、まさか30分歩くという事でしょうか」

「聡明だなワトソン君。グーグル先生に言わせると厳密には27分少々の予定だ」

 おいおいおいおい。

「もっと近くにも色々お店が見えているじゃないですか」

 ファミレスもラーメン屋も牛丼屋も見える範囲にある。

「折角の機会だから特別な店で祝いたいじゃないか。そう思わないか」

「賛成なのです」

「いいですわね」

 僕に味方はいない。

 そんな訳で否応なしに歩き始める。

 さっきと同じ殺風景な国道をひたすら北に。


「ちなみに距離はどれ位ですか」

「大した事は無い。たった2.2キロ」

 さっきとあわせて3キロか。

 今日はよく眠れそうだ。

「その値段だと今日は前菜とかのアラカルトという感じですか」

 どうも雅の発想は微妙に通常の常識と違う。

 そういう世界で育ったのだろうか。

「安いイタリアンとかなのですかねえ」

 サ●ゼリアはさっき通り過ぎた。


「まあ取っておきの店だな。今日のメンバーにはちょうどいい」

 普通に考えると洋食屋とかファミレスなのだけれど、多分違う。

 ちょうどいい程度の店を何店舗か通り過ぎている。

 これは期待していいのか、受け狙いか。

 2,200円で受け狙いだと僕の財布が悲しすぎる。

 うん、悲しい現実を考えるのはやめよう。


「そう言えば雅の実家はどんなところだったんだ」

 何の気なしにそんな話題を振ってみる。

 ふと、何か雰囲気が変わった。

 雅が何やら真剣に考えている様子。

「うーん、うちは田舎ですわ。こんなにお店があるような場所ではありませんでした。だからここはなかなか楽しいですわ」

 あれ、今ひょっとしてはぐらかした?

 何か言いたくない事情でもあるのだろうか。

 確かに雅は色々とまあ変わっているけれど。

 それにしても今の雰囲気はちょっと変だった。


「うちはここよりはちょっと店が多いのですね。うちの家から朗人の家まで歩くと5分程度なのです。ここへ進学を決めるために何度も足を運んだのですよ」

 うん、佳奈美。

 内容はナイスじゃないけれどナイスだ。

 うまく話題を変えてくれた。

「佳奈美さんと朗人さんは幼馴染みというものなのでしょうか」

「中学からなのです。中1から中3まで同じクラスなのですよ」

「それってクラスがいくつもあるのでしょうか」

「5クラスあったのですが、常に同じクラスだったのです。ついでに課外活動も化学実験部で同じなのです」

 化学実験部のバルカン半島、それが佳奈美の二つ名だ。

 だいたいこの名前で彼女が学校でどう扱われていたか察して欲しい。

 わからなければ世界史をもう少し勉強しよう。


 さて。

「お店が見えてきたぞ」

 という神流先輩の言葉で僕は前方に視線をやる。

 瞬間、全てを察した。

 こういう事か……

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