地下再探検
お買い物の後は当然、またあのレストランに来る事になる。
そう、寿司から焼き肉からデザートまで食べ放題のすた●な太郎だ。
「こういうところに来るのは大学以来ですね。ちょっと楽しいかも」
そう言って先生まで前のめりに色々取ってきた。
でも28歳女性が幼児と混じって綿飴を作っているのはどうかと個人的には思う。
まあ食後どうなったかは僕が何か言う必要も無いだろう。
ちなみに僕はドリンク以外何も取ってきていない。
ただ先生自身がけっこう食べたのと佳奈美と雅が前回よりは抑えたのとで結果的には前よりましだったという程度だ。
何とか車に乗っても吐き気を憶えないという程度には。
それでもスーパーの買い出しは決行。
そして先生の自宅で皆で倒れる。
フローリングの床にマットと寝袋で雑魚寝するという先生宅の文化。
これには流石に新人2人がちょっと戸惑っていたようだ。
でもそれももう、些細な事だ。
翌日、探検装備をディパックに入れて先生の車で学校へ。
先生は少し仕事をするというので理化学実験準備室に残る。
そして6人で学園内を西に歩いて、大学部の講義棟Bから地下道へ。
本当は理工学研究施設AやBから入るのが最短。
でもあそこは日中でも鍵がかかっている。
自由に入れる場所で目標に一番近い入口は、今入った通称DB地点だ。
「こういう暗いところに入ると、何か探検という感じです」
「早く何か出てくると面白いんだけどな」
美菜実が物騒な事を言っている。
「ヒューム値はまだ1.0ですよ」
「わかっている。これでもある程度の走査能力があるんだ。本日現在時において、あの地図にある地下道内に入っているのはうちの他2パーティ。その2パーティは北側の通路を攻めるつもりのようだな」
美菜実は便利な能力持ちの模様だ。
「よくわかるな。だとすればそのパーティ、残念だな。あそこは先週、雅が掃除したからな。もう化け物はいないだろう」
「化け物がいない方がむしろラッキーなんじゃないですか」
そんな事を言いながら歩いて行く。
そして。
リングの南西角分岐を過ぎたところで、だ。
「ヒューム値0.9。下がっています」
お約束の展開がやってきた。
「この様子だとEX1の扉の向こう側だな」
「私の走査能力にかけて扉までは何もいないぞ」
「ならどうする。扉の前で祈祷するか」
「取り敢えず近づいてからですね」
全く危機感の無いまま、行き止まり部分に到着。
正面には北西の場所と同様、点検口のような蓋がある。
内部からひっかいているような音が聞こえるところまでがお約束だ。
「ヒューム値0.5ですね」
扉の前で確認する。
つまりこの前図書館分室にいたものよりは小物という事だ。
「どうしますか。安全に処理するならここでまた祈祷しますけれど」
「その必要は無いです」
朋美さんがそう言いきった。
「その必要は無い、って朋美」
「そういう事です」
微妙に朋美さんの雰囲気が変わっている。
大人しい、ちょっとおずおずとした感じから、何か戦闘的な感じがするまでに。
「皆さんは念の為5メートルは下がっていて下さい」
「大丈夫か」
「前に誰もいない方が楽なんです」
「ここはお手並み拝見と行こうぜ」
神流先輩はそう言って真っ先に後ろに下がる。
僕らもそれに従う。
そんな訳で点検口から3メートル離れて朋美さんが立つ。
「では始めます」
点検口のボタンが何かに押され、取っ手が自動で出てくる。
誰も触っていないし近づいてもいない。
つまりこれが。
「超能力、なのですか」
「まだまだです」
朋美さんはそう答え、そして点検口が一気に開かれる。
出てきたのは以前見たのとよく似た不定形の塊。
ゆらゆら全体を動かしながらこっちへ出てこようと試みている。
「甘いです!SHOCK!」
その言葉とともに塊の全体に無数の穴が空いたように見えた。
そしてそのまま塊は蒸発するように姿を消していく。
その事象を皆が理解するのにちょっとだけ時間がかかった。
「凄いな、その力」
「確かに強力だ。それは認めよう」
「今のは何なんですか」
雅は無言だけれども笑顔で朋美さんの方を見ている。
「テレキネシス、つまり一番簡単な超能力です。ものを動かす事しか出来ない初歩的な能力です」
「でも、今の敵を倒したのは何なのですか」
「あれは相手の体組織の一部だけを後方へ急加速させたんです。だいたい直径1センチ位の円形範囲を0.5秒間だけ100G程度加速させる。それを30箇所ほどやっただけです」
朋美さんの口調が明らかに元に戻っている。
雰囲気まで。
「これは強力かつ役に立つ能力だな。離れた場所のものを操作したりも出来るし、攻撃もこんな感じに出来るしさ」
「でも超能力としては本当に初歩の能力なんです。私はこの程度しか出来なくて」
「いやいや、十分以上なのですよ。そこの口ばかりの奴とは大違いなのです」
「悪いが私は頭脳労働専門だからな。攻撃力は一切無い。ただ空間が繋がっていればレーダー代わりには使えるぞ。例えば前方40メートル、今と同じような化け物が接近中とかな」
「それ位なら大丈夫です。問題ありません」
あ、また朋美さんが戦闘モードに。
そんな感じで化け物と出会う事3回。
撃破する事当然3回。
そんな感じで進んでいき、そしてついに。
「この先30メートル右折で急に広くなるぞ。幅30奥50高さ4位の空間だ。これで空間自体は終わっている。扉とかはあるかもしらんがな。中はちょっと色々濃かったり薄かったりする感じ。何がいるかよくわからない」
美菜美がそんな事を言う。
「何か微妙な物言いだな」
「今までの化け物ははっきりとした物質だった。でも今度はちょっと違う。霊体とかそういうイメージだとすれば理解できる」
雅が頷いた。
「私の出番ですね。ランタンの準備をお願いします」
「了解」
僕は自分のディパックの肩紐を片方外して前に持ってくる。
上の蓋からガスセット済みの小型ランタン2個を取り出して。
そしてディパックを背負い直してから。
ランタン2個を前に持っていって点灯する。
「おお、明るいなこれ」
「明るいけれど熱くなるから扱いが面倒でな。普段はだから電池式のランタンを使うんだ。これは祈祷に使う篝火の代用品だな」
その間に雅は自分のザック横から大麻を取り出す。
下に置くとザックが汚れそうなので雅からザックを受け取る。
「それでは始めます」
雅はそう言うと大麻を正面に構えて、僕のわからない言葉を唱え始めた。
「天清浄地清浄内外清浄六根清浄と祓給う……」
前も感じたのだが、この儀式のような事をしているときの雅は本当に綺麗だ。
僕には魔力とか超能力とかは一切無い。
それでも雅を中心に付近が浄化されていくのが感じられる。
ここは地下道の中。
でも爽やかな空気が広がっている感じがする。
あの合宿の時に朝御飯を食べた場所で感じたような、あの清涼感が。
雅が大麻を振るう。
まるで光の粒が大麻に吸い寄せられ、そして散っていくのが感じられるようだ。
「終わりました。もう大丈夫です。ですけれど明かりが必要なので、済みませんが佳奈美さんと朗人さん、ランタンをつけたまま持ってきて下さい」
「了解なのです」
「わかった」
「もやっている感じはなくなったぞ」
という事で僕らは角を曲がる。
その先にあるのは簡素な社だった。
鳥居もちゃんとある。
参道はちゃんと敷石が敷かれていて社の前まで続いている。
社は木製だろうか。
簡素ながら確かに神社だとわかる作りだ。
「この扉は何だ?」
通路の参道と反対側に小さな扉がついていた。
人が通るにはちょっと小さい。
縦40センチ横40センチというところだろうか。
金属製で割と近代的な作りだ。
きっとこれだけは別の時代、もっと言えば現代に作られたと思われる。
「そうですね。それも開けましょう。ヒューム値を測るまでもありません。ただ向こう側に落ちないように注意して」
そういう事で美菜実が真っ先に駆けていって扉を開く。
「おお、外だ。しかも高い!」
外の光が差し込んできた。
僕や佳奈美は火のついたランタンを持っているから危なくて駆け寄れない。
「外はどんな感じなのですか」
「崖だ。崖の途中にこの穴が空いている。下は10メートル以上あって外に出るのは無理そうだ。ついでに方向的には多分真南だ」
雅が頷く。
「おそらくはそれが今の神様の通り道でしょう。昔は修行者が崖経由でこの社に訪問したのかもしれませんね。
さて、炎はそれぞれ佳奈美さんはこの場所、朗人さんはこっちへ置いて下さい」
僕らは言われた通りにランタンを置く。
「それでは少しこのお社の整備をしましょう。まだ口をつけていないミネラルウォーターをお持ちの方はいませんか」
「僕が2本持っています」
「私も1本あるのです」
「私も持っているぞ」
簡単に4本ほど集まった。
雅はそれを社に供える。
「それでは少しここで整備の儀式をします。少しお待ち下さいね」
そう言って雅は参道の端を歩いて行き、そして社のすぐ前に立つ。
そこで二礼して。
そしてまた祝詞を唱え始めた。
「高天原に神留まり坐す……」
◇◇◇
「さあ、これで当分はここも大丈夫でしょう。でも出来たらまた掃除道具を持ってここへ来たいですね。本当はお掃除を丁寧にしたいところなのですけれど」
雅の台詞で片付けにかかる。
外へ通じる扉を閉じてランタンを消す。
そして僕らは地下道を戻り始めた。
「それにしてもここの神社、何だったのですか?」
「この辺りは修験道にも近い山岳宗教がありましたからね。その行場のひとつだと思います」
「でも何故学校の地下道と繋がっているのでしょうか」
「途中妙なカーブとかありましたしね。きっと社に通じる地下道が先にあって、それを発見したうちの学園の誰かがつなげたのではないでしょうか」
「その辺は図書館で要確認な。まあ平日作業だけれどさ」
そんな事を言いながら。
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