天然も養殖も勘弁して
午前中は生徒会によるオリエンテーション、内容は課外活動の紹介だ。
野球やバスケ等の一般的なスポーツ系も勿論ある。
爽やかすぎて僕にはきっと縁が無いけれど。
ああ、あっちの世界に行きたかったなという憧れは既に捨てた。
この前の入会届記入とともに。
さて、この学校の特異なところ、それは異様な文化部の多さだ。
文化部が異様に多いのではない。
異様な文化部、が多いのだ。
正直なところ学園探検部などまだまだ甘かった。
黒魔術研究会とか踊り念仏愛好会、浄●●宗●●会や●●●●教まである。
いや最後のは無かったかもしれないけれど。
さてオリエンテーションの後は昼飯休憩。
飯そのものは佳奈美とカフェテリアで一緒に食べた。
でもカフェテリアが混んできたので別れて教室へ戻ってきた。
別に佳奈美1人でも教室内でうまくやれない訳ではない。
奴は変人だがそれなりの処世術は心得ている。
中学時代も会話をする程度の友人は結構いた。
ただ僕に対してはその処世術を使ってくれないだけだ。
さて、僕は現在近くの席の男子同士で会話中。
具体的には前の席の交野、隣の席の小宮と3人。
今は僕と佳奈美との涙々の関係を説明したところだ。
「そんな訳でさ。腐れ縁というか疫病神というかそんな間柄なんだ。わかってくれ」
「なるほどな」
交野はうんうん頷いてくれる。
「なるほど、柏も苦労しているんだな」
「未だにここにいるのが冗談みたいな感じだよ。今朝起きてみて何処だと思った」
2人とも頷いてくれる。
ああ、こういう普通の友達がやっぱりいいんだよな。
僕にそう思わせてくれる。
「まあそうだよな。俺みたいに親が転勤族だとすぐ慣れるけれどさ」
「そうなのか。それで」
「ああ、転勤して高校変わったり独り住まいになるよりはましだと言われてさ」
「俺は家がうるさかったからなあ。寮の方がまだ楽しめると思ってさ」
「ああ、よくある動機だよな、それ」
そんな感じの会話で僕は交野達の誤解を解く事に成功した。
そして幾ばくかの普通の友情を育むことに成功した。
人間話せばわかるものだ。
よしよし、そう思ったところだった。
「柏朗人さんというのは貴方ですね」
右前から声がした。
顔を上げると長い黒髪のいかにも日本風美少女という感じの女子がいる。
同じB組の
名前は自己紹介の時覚えた。
何分この人の自己紹介、なかなかに印象が強烈な代物だったからだ。
それに僕も一応健全な青少年男子。
美人を憶えない方がおかしいだろう。
「僕だけれど」
取り敢えず呼び止められる理由はわからない。
だからそう、当たり障りない返事をしておく。
「今日の放課後からご一緒します
なぬ!
こういう自己紹介をされる憶えは無い。
過去にも現在にも多分無い。
というか直接話をしたのも今が初めての筈だ。
「あれ、何か……」
間違いじゃ無いよね、と言う前に彼女はそそと立ち去ってしまう。
そして生まれるのは誤解という訳だ。
「柏、よくわかった。昨日の佳奈美ちゃんは彼女では無い。つまり石動が彼女だった訳なんだな」
おいおい交野の声が妙に冷たいぞ。
「二股かもしれませんぜ、旦那。これは吟味しないと」
おいおいおい小宮、それは無いんじゃないか。
「誤解だ」
「何処が」
「いやこれには……」
何せ理由がわからないから説明もごまかしも出来ない。
「僕はなにも知らないんだ」
2人の視線が厳しくなる。
かえって藪蛇になったようだ。
「そうか。君はいい友達だと思ったんだがな」
「人生の成功者め。呪われるが良い」
そこまで言う事は無いだろう。
さっきまで育んだ友情は何処へ消えたんだ。
どうやって弁解しようかと僕が思った時。
無情にも休憩終了のチャイムが鳴り響いた。
すぐに教師が入ってくる。
ああ、僕の弁解が。
誤解だ……
心の声は勿論友には届かない。
これはとても悲しいことだ。
◇◇◇
さてここの高校、授業が多く1日7時限まで授業がある。
高校は皆そうなのかここが特殊なのかは残念ながら僕の知識には無い。
幸い今日の午前中は生徒会による課外活動オリエンテーションだけ。
それでも慣れない授業でくたくただ。
でもそれなのに心労の原因と誤解の原因がやって来たりする訳だ。
「さあ朗人さん、まいりましょうか」
雅さんに左手をひっぱられた状態で教室を出る。
流石の佳奈美もこのパターンは想定外らしい。
結果、僕の制服をひっぱった状態で無言でついてくる。
異様な状態に交野も小宮も茶化しすらしない。
ただ悲しい目で僕を見るだけだ。
頼む、そんな目で見ないでくれ。
そう思いつつ僕と佳奈美は異形の電車ごっこの如く廊下へ引っ張られて行く。
「どこまで行くんですか」
何とかその一言が切り出せたのは特殊教室棟への渡り廊下の処でだった。
「勿論、理化学実験準備室までですわ。
本日から
あ、思わず力が抜けた。
そういう事か。
「だったら先にそう言って下さい」
「あれ、言いませんでしたっけ」
「今日の放課後からご一緒します、としか言っていません」
「あらそうでしたかしら」
石動はそう言うと立ち止まり僕の手を離す。
そして僕と佳奈美の方を向いてまっすぐ立った。
「本日からご一緒に学園探検部で活動させていただきます
そう言って深々と頭を下げる。
「はあ」
仕方なく佳奈美とともに頭を下げつつ僕は思う。
これは天然か養殖か。
ちなみに教室内での自己紹介でも一言一句同じ台詞を彼女は言った。
だから僕も名前を覚えていた訳だ。
ただこの人は天然であろうと養殖であろうとわかっている事はひとつある。
相手にすると僕が疲労困憊するタイプだ。
「それでは行きますか」
「ええ」
僕らは歩き出す。
ああ疲れたもう充分だ、早く寮の自室に帰って寝たい!
本気でそう思いながら。
だが理化学実験準備室は渡り廊下を渡って2部屋目ととっても近い。
なので逃げる間も無くすぐに辿り着いてしまう。
まあ本当に逃げる気はない。
逃げても事態は好転しないだろうから。
さて、石動は理化学実験準備室の扉をコンコンコンと3回ノックする。
「入ってます」
中から声が聞こえた。
このチャンスを逃すな!
「お邪魔しました」
僕はとっさにそう言って逃げようとする。
案の定2人に捕まった。
「冗談だよ。まあ入りな。紅茶入れたから」
「では失礼致しますわ」
そう言って石動は扉を開く。
僕を左手で捕まえたまま。
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