第二章 第2話「神速の男と剣と舞う女」
僕はいきなり始まった霧ヶ峰さんとの鬼ごっこに勝つべく針を周囲に漂わせ気配を探っていた。
「どこだ…」
彼に“避雷針”を当てれば僕の勝ちだ、だが全く気配を感じない…それどころか音も無い、この状況はすごくマズイ…
「あっ言い忘れてたっす!」
急に僕の目の前の木の上から声がする。
「え!?」
全く気づけなかった、ずっとそこにいたのか?それとも今そこへ移動したのか?どちらにせよ僕は彼を察知できなかった…
「一応、範囲は決めてあるっす、近づくと見える壁の術式を張ってるっすからそれが範囲っすよ、あと俺に当てるのはあくまで“避雷針”っすからね、電撃を当てても勝ちにはならないっすよ」
なるほど、範囲は一応確認しておいた方がいいかもしれない。避雷針だけっていうのは難易度を上げるためかな?
「もうひとつ…」と霧ヶ峰さんは続ける。
「ちょくちょくヒントをあげるっすから頑張って俺を捕まえるっすよ〜」
と言って霧ヶ峰さんはまた姿を消した。
今の言葉、それはすぐには絶対に捕まらないという自信があるんだ…
「絶対捕まえてみせますからね!」
と僕はどこかでこちらを伺っているであろう霧ヶ峰さんへ宣言してみせた。
僕はひとまず、範囲を確認しに動く。
壁はそんなに遠くなかった。そのまま壁伝いに歩いてみたがあまり広くもない、斜面がなだらかになっているこの周辺、半径100mほどの面積…
確かにただ鬼ごっこをするには丁度いい広さかもしれない…
「けど…」
こうも見つからないと鬼ごっこもクソもない、壁を確認している時も注意して探していたが全くだ…
「こうなったら!」
僕は射程圏内すべての木に針を飛ばし刺す。
「スパーク」
そして、一気に電流を走らせた。
すると…
「わお!」
と後方で声がする。
「いたっ!」
僕は声のした方へ走り出す。とにかく声のした方に針を飛ばしまくり電撃を走らせた。
さすがに自由に動けなかったのか霧ヶ峰さんの姿を捉える。
「おっ見つかったっすね〜」
「逃がしませんよっ!」
僕は霧ヶ峰さんの周りへ針を集め当てにかかる。しかし…
「おっとっと〜危ない危ない」
全ての針がいとも容易くかわされていく。
挟み撃ちにしたり、周りを囲ったりするも速すぎてカスリもしない。
僕の針の猛攻を避けながら霧ヶ峰さんが喋る。
「ちょっと早いっすけど、ここでヒント俺の気術、“神速”についてっす」
「そんな余裕あるんですかっ」
そう言ったものの僕は完全に翻弄されていた。
ただ針で霧ヶ峰さんを追いかけるだけになっている。
そして、霧ヶ峰さんはなおも針をかわしながら自分の気術について話し始めた。
「俺の神速は言ってしまえば自分の速度を速くする気術っす、今の速坂っちには捉えられないほどまで、そしてこの神速使用中はエネルギーが溜まるっす、機械なんかと同じで熱を持ち始めるっすよ」
そこまで言ってピタッと止まる。
「そんでもって、それを冷却するためにその熱を熱波として放てるっす!」
そう言うと霧ヶ峰さんは針に向かって蹴りを放った。
その瞬間、足から凄まじい熱波が放たれる、針は全て吹っ飛び、霧ヶ峰さんの前方にあった木も数本なぎ倒された、そして離れていた僕も踏ん張らなければ飛ばされるほどの威力。
「この距離でこの威力…」
「これで40%ぐらいっすね、神速を使えば使うほど威力は増すっす」
「よ…40%…?」
100%威力だとどうなるんだ…
「さぁ!また1時間頑張るっすよ!」
と言って霧ヶ峰さんは走り出した。
「あっ!」
僕が針を構えた頃にはもう姿はなかった…
◇◇◇
「リヴァイア!」
あたしは腰につけている瓶の蓋をあける。
そこから大量の水が溢れ、その水が龍の形を成していく。
「ふむ、よく躾けられているようだな」
アズサさんはあたしとリヴァイアを見て感心してくれる。
「では私のパートナー達も紹介しようか…」
アズサさんは持っていた大剣をふりかざす。
すると、その大剣の剣先から円状に術式が展開する。
「…
そうアズサさんが呟くとその術式から次々とふりかざした大剣と同じものが出現しアズサさんの周りを舞い始める。
そして、術式からやっと剣が出てこなくなったと思うとその大剣達がアズサさんを囲うように整列する。
「これが私の気術、“百剣”だ。私はこの百の剣と共に闘う」
あたしは大剣達がまるで姫を守る騎士のように見えた…
「さぁ…この私から一本取ってみるがいい」
「…っいくよ!リヴァイア!“
あたしはリヴァイアと一体になり、水の槍を手に出現させる。
「いきますよっ!」
あたしとリヴァイアはアズサさんに一気に詰め寄る。その瞬間、いくつかの剣が動き出す。アズサさんの元へ行かせまいとその切っ先をこちらへ向ける。
あたしは槍で、リヴァイアは尾や手で応戦する。
剣の数は10本、あたし達はその10本を相手するのに精一杯だった…
アズサさんは90本の剣に囲まれこちらを見ている。
…この剣はアズサさんが操作してるはず、なら…
「リヴァイア!」
あたしが呼びかけると隙を見てリヴァイアがアズサさんへブレスを吐く。
そして、それを防ぐためにまた数本の剣が動きアズサさんの前に壁を作った。
「いくよ!」
そう、今ならアズサさんはこちらが見えていない、つまり剣への支持が不安定になるはず。
そして、思った通り剣の動きは鈍り、あたし達はその剣の壁の目の前まで来た。しかし…
「甘いな…」
あたし達は数十本の剣に囲まれ、身動きが取れなくなっていた。
「ここまで来たのは褒めてやろう、だが、10本程度で必死になっていたお前が残り90本、どうにかできると思ったか?」
「くっ…!」
アズサさんの周りへ剣が戻っていく。
「ふむ、私も考えが甘かったようだ…」
「え?」
「今のお前に私から一本取るなど不可能だ、せめて50本ほど相手にできるように鍛え直してやろう」
正直その通りだった…あたしはアズサさんに近づくことすらできないのに一本など取れるはずもなかった…
「返事はどうした?」
見下すように言われる、けどあたしも強くなりたい…アズサさんの顔をしっかりと見て応える。
「はい!どうかよろしくお願いします!」
「ふっなかなか強い奴だ…すぐに50本など相手にできるようになるさ…」
アズサさんはそう言いながら訓練所の壁際まで下がる。
「さて、早速だが始めよう。見る限り私の剣に全くキズが付いていない、その程度の力では50本など夢のまた夢だ…」
両手に剣を持ち構え、訓練の内容を言う。
「私がここから剣を投げる、お前はそれをかわすでも受け流すでもなく弾け」
「百本全部ですか…?」
「当たり前だ」
「ひぃぃい…」
あたしは小さい悲鳴をあげる。
「いくぞ…」
「…はい」
あたしの返事を聞くとアズサさんはまず一本の剣を投げる。
あたしはそれを弾くためにしっかりと剣を見据え振りかぶる。
そして槍でその剣を弾くことに成功した。
「くぅぅ手がぁ」
しかし威力が高い、一本目にして手が痺れる。
「大丈夫そうだな!お前には相棒もいる、さぁどんどんいくぞ!」
容赦がないとはこのことだね…と思いながらアズサさんを見る、すでに二本目と三本目を投げるところだった。
今度は2本同時、あたしはリヴァイアと息を合わせる。
剣が弾かれる音が響く、「よしっ」と言っている暇もなくアズサさんは剣を投げてくる。
まだまだ始まったばかりだぞと言うアズサさんの目が怖い…
そうして、アズサさんによる大剣百本ノックが始まった…
◇◇◇
「そろそろいいっすかね…」
俺を探す速坂っちを見ながら呟く。
彼の成長は速いものでチラッと姿を見せては追わせ、見せては追わせを繰り返していると徐々にこちらを捉えられるようになってきている。
俺は速坂っちの前に姿を出す。
「見つけた!」
とこちらを振り向き一瞬で針を飛ばしてくる。しかし…
「ヒントの時間っす」
俺は熱波を放ち針を蹴散らす。
「ああぁ…」
「これで今日最後のヒントっす、速坂っちはなぜこんな訓練をしているか分かるっすか?」
「え?」
少し考えているようだ。
「僕の能力向上じゃないんですか?針のコントロールとか瞬発力とか…」
「まぁそれもあるっすけど…もっと大きな理由があるっすこれは速坂っちだけじゃなくて、第4隊全員に」
◇◇◇
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「ラスト一本だ!」
私は麗未うるみへ最後の大剣を投げる。彼女は相棒と共にその剣を弾いた。そして、それと同時に完全調和ユニゾンバーストが切れる。倒れこむ彼女を相棒が受け止める。
「ありがと、リヴァイア」
私は訓練所中に散らばった大剣を見る。
「弾けなかったのは3分の1程度か…」
「どうですか?アズサさん…」
彼女が弱々しく聞いてくる。
「あぁ、“今の状態”のお前にしては上出来だ」
あえて強調する。
「どういうことですか?」
「お前、いやお前達、どうすればこの大剣全てを弾けたと思う?」
「もっと力を…」
「違うな…」
回りくどいのが嫌いな私はもう言ってしまうことにした。
今回なぜ第4隊が訓練しなければならなかったのか…
そう、最前線合同訓練に勝つ、それ以外の理由を…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます