第一章 第14話「影と炎と稲妻と」

僕は気術ヴァイタリティを発動させる。


避雷針ライトニングロッド!」


いくつもの針が周りに出現する。そして相手の様子を伺う…


「君の気術ヴァイタリティは知ってるよ、避雷針ライトニングロッド…他の雷の気術士ヴァイタリストとは違い電気を空中に逃すことなくほぼ100%の威力で電撃を喰らわせることができる能力…」


ミチナリは自信たっぷりに僕の気術を言ってみせる。


「…だったらなんだよ」


「そんな能力じゃ僕に勝てないって言いたいんだよ」


案外言う人だな…

僕は負けじと「やってみなよ」と笑って挑発してみせる。

その瞬間ミチナリの目と持っていた端末が怪しく光った、と同時に地面から土の柱が勢い良く突き出し、僕に迫る。それを間一髪でかわし、針を飛ばす。しかし柱に阻まれる。


「君は外の方が都合が良いといったね?残念ながらそれは僕もなんだよ!」


言葉を発し終わると同時にまた土の柱が僕に襲いかかって来る。


「くぅっ!」


針を柱に刺すもすぐに呑み込まれ無効化されているみたいだ…


なんとかかわしてはいるがこのまま防戦一方では勝てない…と思っていた矢先、柱の先から更に柱が突き出し僕はそれをかわしきれず地面に叩きつけられる。


「くそっ…」


「相性が悪かったね…君は電気、僕は土…さらに君はその針を使わなければ射程範囲も短い…敵を見誤ったねぇ残念ながら君の負けだよ」


ミチナリは不敵な笑みを覗かせる。


「よく喋る人だなぁ…でも、君そんなに頭良くないでしょ、それに僕が逃げてただけだとでも?」


「あぁ?」


空をみると僕が呼んだ雷雲が不機嫌そうな音をたて山の上空一帯を覆っていた。


「雷雲を呼んだだけで何が変わるんだい?それに頭が悪いだと?」


僕はミチナリを睨みさらに針を出現させる。


「敵を見誤ったのはどっちか教えてあげるよ、僕はここから動かずに君を倒す!」


僕はミチナリに向かって針を飛ばす、がやはり柱に阻まれた。


「ハッ!君はどこからそんな自信が湧いてくるのか知りたいね!」


「そう、じゃあ教えてあげるよ」


ミチナリが眉をひそめる。


「…なんだと?」


「そもそも土…つまり大地の抵抗はそんなに高くない面積が広いから分散するだけでね、それにここは山だから他の場所より水分を含んでる…残念だけど電気を使う分には特に問題ないんだよ。そして僕の避雷針ライトニングロッドがあれば分散させずに地中に電気を走らせられる…」


そこでミチナリは気付いたようだ、自分の置かれている状況に…自分は今、圧倒的不利になっていることに…


「はぁああ!」


何本もの柱を伸ばし僕に向かわせようとする、しかし…バギッという鈍い音とともにミチナリのすぐ下の地面からでてきた針が端末を貫く。


「なにぃ!!」


その瞬間、迫っていた柱がピタッと動きを止める。


「君の本当の射程範囲はそこみたいだね…」


ミチナリから僅か1m、土の柱達はそこから一向に伸びてこなくなった。


「君はその端末を媒体にして能力の増強をしてたんだね、それを見る限り本来は守りの手段として使う能力みたいだ」


僕は徐々に電気を纏い、辺りには雷が落ちはじめる。


「ちょっやめ…」


ミチナリの周りを囲うように地面から針が顔を出す。


「追って来られても困るし、今までのお返しもあるしね…」


とミチナリを見るとガクガクと震え、浮いているイスから落ちかけている。


「ご…ごめんなさい…」


「…気持ちだけ貰っておくよ」


針達が光り始め雷雲の音が大きくなる。


超電圧フルボルト落雷らくらい


爆音とともに一瞬辺りが光に包まれた…

あとには気を失ってるミチナリが倒れていた。


「直撃はさせてないから安心してよ」


と言って先に行ったみんなと合流するために僕は施設へと入っていった。


◇◇◇


「ハッてめぇも炎か!」


リュウタは拳を合わせその青い炎をさらに激しく燃やす。


「最近体を動かせなかったからなぁ、ストレス発散に付き合ってもらうぜぇ」


俺も体に炎を纏う。

部屋の中央で揺れている青い炎を挟み対峙する…そして同時に床を蹴り間合いを詰める。


蒼炎と火炎が交わる。

殴り殴られを繰り返す、拳のぶつかる音が部屋にこだまする。


「ハハッなかなかやるじゃねぇか!」


「何いってやがる!まだ準備運動だぜ」


と言ってお互いに火力を上げる。


豪炎ごうえん向火葵ヒマワリ!」


怒蒼炎アングリーファイアァ!」


お互いの拳が衝突する。

四隅にあった燭台の炎が消えるほどの衝撃、力は均衡していると思いきや片方の炎が弾き飛ばされる。


「くっそ!なんだあの蒼い炎、変な感じがする、それに熱い…」


自分の炎より熱い炎に少し戸惑う。


「ハハッ!まだまだだよなぁ?」


リュウタは指を鳴らしながら余裕の笑みを浮かべる。


「当たり前だろ?」


と俺も笑ってみせる。「アレを使うか…」と俺は一度深呼吸する。


衝炎しょうえん


体に炎を纏うのではなく体内に溜め、気力ヴァイタルの消費を抑えさらに瞬間的に炎を使い爆発させることでで瞬発力を上げる技だ。

少ししゃくだが力で負けている以上正面からぶつかるのは賢くない、これが真剣勝負でなければ突っ込むのだが…

体から線香花火のように火花をあげながら軽くステップを踏む。


「いくぜぇ」


発砲音のような音を立てながら瞬間移動に近い動きをする。

一瞬で炎を纏うリュウタの真横まで詰め寄り拳を放つ…しかし


「なっ!」


蒼い炎に触れたところでこちらの炎が掻き消される。

リュウタがニヤァと笑う。


「てめぇの炎と俺の炎じゃあ格が違うんだよ」


「なんだと?」


俺は間合いをとる。


「俺の炎と格が違うだと?色が違うだけじゃねぇか」


「色が違うだけだぁ?ハッてめぇも気付いてるだろ何かが違うってなぁ」


リュウタは続ける。


「俺の炎は神の創りし聖なる炎だ、そんじょそこらの炎とはわけが違うんだよ」


と言うとリュウタは炎を巻き上げ攻撃の体勢に入る。


「てめぇはここまでだ」


チッやばそうな雰囲気だ、俺は衝炎を解き豪炎へ切り替える。


「ゴッドブレス!!」


蒼い炎の激流が迫る。避けるなんて選択肢はねぇ、受けきってやる。

俺は炎の壁を作り激流を防ぐ、しかしジワジワと蒼い炎は俺の炎を呑み込んでいく。


「ぐっ!何が聖なる炎だ!そんなもん逆に呑み込んでやる!」


フルパワーで迫る炎を自分の炎で呑み込んでやろうとする。


「無駄だぁ!」


その瞬間、部屋の炎が蒼い炎だけになる。

仰向けに倒れた人影がひとつ。


「ハッ気力切れか…俺の勝ちだな」


ゆっくりと近づく。


「俺は嫌だが殺せと言われてる、じゃあな」


そして刃の形をした炎が振り下ろされる。


「あ?」


だが俺はリュウタの腕を掴みそれを止める。


「気力切れ?あんまり…なめるなよ…」


俺は掴んだ手から蒼い炎を出し起き上がると同時にリュウタを投げる。


「ぐっ!てめぇなんで!」


「へぇ…蒼い炎か悪くねぇなぁ」


リュウタは「まさか」と部屋の隅を見る。


「燭台に俺の炎が…それを纏ったのか!」


「よくリンクでヒロトの影を纏ってたからなぁ燭台にある炎なんて簡単に纏えたぜ」


俺は蒼い炎を増幅させる。


「来いよ…」


「ハッ!なめやがって!」


リュウタも炎を纏い攻撃に入る、俺もそれに応じるように技を繰り出す。


蒼い噴火ブルーイラプト!!」


蒼炎そうえんくず牡丹ぼたん!!」


リュウタは下からのアッパー、俺は上から叩きつける技で燃え盛る2つの蒼炎がぶつかり合う。


凄まじい衝撃と熱の後2人ともがボロボロの状態で立っていた…


「…やるじゃねぇか」


と言って巨漢の男が倒れる。


「はってめぇもな…」


と言って俺はひざをつく。


「くそ…さすがに気力切れか…」


その場に倒れこむ。


「しばらくは…動けそうにねぇな」


俺は何もない天井を見ながらゆっくりと目を閉じた。


◇◇◇


「フッフッフッ君の実力はその程度かね?月永つきながくん」


「てめぇだってさっきから全く近寄って来ねぇじゃねぇか」


「すぐ終わらせてしまっても興ざめだろう?」


こいつの気術ヴァイタリティがつかめない…何か能力を暴くてかがりがあるはずだ…


「いつまで考えてるつもりなのかね、動いてもらわないとこちらも退屈なんだがねぇ」


「……!」


「おや?諦めたのかね?」


そういうユウイチロウに俺は無言で迫り床から顔に向かってに斬り上げた。するとまた姿を消しこんどは右側から声がする。


「なんだ、やる気でもなくなったかね?」


俺はうつむく。


「やれやれ、サブサイドの人間だからもう少し骨のあるやつだと思ったんだがね」


とユウイチロウが腰に差していた剣を抜きながら近付いてくる。


「これでお別れだ…死ね」


ユウイチロウの剣が俺の首へ迫る。しかし、すんでのところで首元に剣を造り防ぐ。


「なっ!影が!」


「離れられねぇだろ?」


防いだ瞬間、剣に影を伝わせ手をがっつりと掴みユウイチロウの動きを止める。


「ユウイチロウ…お前の能力、全てじゃないがわかったぜ…ずいぶんと面倒な能力じゃねぇか」


「なんだと?」


「瞬間移動の類いだと思ってたが違う、“お前が動いてた”んじゃない“俺が動かされてた”んだ」


「っ…」


ユウイチロウは眉をひそめる。


この反応、図星だな。

これでユウイチロウが現れたときの違和感の正体がわかった。


「さっき俺が斬り上げた時、床に小さなキズを付けておいたんだ、そしてお前が能力を使った後それを見ると明らかに方向が変わってた、それにお前の能力、発動条件があるんじゃないか?」


「チッそこまで…」


さっきまで余裕だったユウイチロウの顔がじょじょに険しくなっていく。


「お前は“動いてもらわないと”と言った、俺は俺が気術を発動させていることが条件だと思ったがどうやら違うみたいだな、恐らくは“お互いが向き合っていること”現に今、俺を殺そうとした時、方向を変えれば確実に殺せたのにお前は方向を変えなかった、いや変えられなかった」


ユウイチロウの顔が怒りで歪む。


「クソが!べらべらとっ!」


俺は余裕の笑みを浮かべて言う。


「まだ言ってやろうか?俺たちと会った時もその能力を使いあたかも突然後ろに現れたように演出した、そしてお前は能力がバレないようにこのどこ向いても真っ白な部屋を使い恐怖を煽った」


俺は言い放ったあと影を戻し力を込めユウイチロウを弾き飛ばした。


「お前の敗因はひとつ…俺と闘ったことだ」


「黙れ!まだ私は負けてない!能力がわかったところで何もできないだろう!!」


奴の目が何回か光る。恐らく能力を発動しているのだろう、だが…


「なっなぜだ!なぜ能力が効かない!なぜ動かないんだ!」


困惑するユウイチロウに足を見るようにジェスチャーする。


「なっ足に影が!?」


俺は方向を変えられぬよう足の裏から地中へ長い剣を差し体を固定していた。


「残念でした、ただ上半身にはかなり力かかってるけどな」


ユウイチロウをよそに俺は空中を見る。すると、さっきユウイチロウの剣から取った小さな金属のカケラが勢いよく左右へ行ったり来たりを繰り返している。


「なるほどな…これでお前の能力全てがわかったぜ、この瞬間的に人の方向を変える能力の正体…磁力だな?正しくはその反発か」


N極とN極、S極とS極のように同じ磁極を近付けると反発する、それと同じで俺の体内の磁極を操作し、さらに空中に強力な磁場を発生させることで今の俺では捉えきれないほどのスピードで方向を変えられる、ということだ。


「動かさなくとも今お前は動けない!そのまま我が剣の鯖にしてくれるわ!」


剣を抜き、鬼のような形相で迫ってくる。


「…七天抜刀しちてんばっとう夜天やてん迦具土カグツチ 】」


夜天【迦具土】、なんの変哲もないただの剣、だが強度・斬れ味・重さなどすべてが最高のクオリティの剣。


「上半身しか動けなくても俺がお前に剣で負けるわけないだろ…」


一閃…折れたユウイチロウの剣が部屋の隅に転がる。


「父…上…」


バタリと背後でユウイチロウが倒れる。

ふぅ…と一拍おいてユウイチロウを一瞥したあとハヅキたちに合流するべく俺は部屋を出た。

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