第一章 第11話「護衛任務その3 痕跡」

分身を呼んだ蝶はみるみるうちに大きくなり、羽に大きな目の付いた怪蝶となった。


「いくよ!速坂くん!」


「うん!」


「シャイニー・レ


「スパークスピ


2人で攻撃を仕掛けようとしたその時、その怪蝶へ大きな炎が襲いかかる。


「燃えろぉぉおおお!!!」


◇◇◇


俺たちは3人のもとへ戻っていた。その時、インカムから焦った声が入る。


〈月永さん!本体を確認できました!正面約30m付近に出現しています!〉


「この正面だと?」


「ってことは」


「あぁ、あいつらのところだ!」


キィィィィィィィィ!!


「この声…」


「間違いないな、急ごう!」


俺たちが到着するとダイチとハヅキが奴と対峙していた。そこへショウスケが飛び込む…


「燃えろぉぉおおお!!!」


爆炎を纏いながら蝶目がけて突っ込む。


しかし、命中したものの分身を灼いただけで本体には当たってない、その証拠に再び蝶達は大きな蝶を形作っていく。


「くそっ!」


「「ちょっと!!」」


「え?」


「今私たちが攻撃しようとしてたでしょ!」


「もうちょっとタイミングあるでしょ!」


「はぁ!?知るかよ!なんで俺怒られてんだよ!」


あいつら呑気だな…

そうこうしてるうちに蝶が迫ってくる、恐らくあれも相当な威力だろう。


「アオイ、さっきみたいに水で止めるぞ!」


「OK!リヴァイア!ブレス!」


七天抜刀しちてんばっとう雨天うてん!」


2人の水をぶつける。そして蝶たちを全て水に閉じ込めた。


「ダイチ!頼む」


「俺もやるぜ!」


「スパークスピアー!」


向火葵ヒマワリ!」


しかし、技が決まる直前で蝶たちは水を弾き飛ばし回避する。そしてその時に分身を鋭くして飛ばした。


「くっ!」


「いっ!」


ショウスケとダイチに命中する。


「大丈夫か!?」


「あぁ…」


「これくらい平気だよ」


蝶がまた動く。


「月永くん!」


ハヅキが空を指差す。


「…オッケー!」


それを見た俺は奴の動きを止めにかかる。


「アオイ、もう一度ブレス頼む」


「いいけど、何するの?」


「まあ見てな」


リヴァイアが蝶に向かって水のブレスを放つ。そしてまた蝶たちを水に閉じ込めた。

水から出られる前に…


氷天ひょうてん!」


俺は水に捕らえられている蝶に向かって氷天ひょうてんを振り下ろし、凍らせる。

そして、俺は空に向かって叫ぶ。


「ハヅキ!!」


見ると上空に待機しているハヅキ。そして蝶にそれを撃つべくかまえる。


◇◇◇


ー数日前


「ハヅキ、太陽光線ソーラービームってのはどうだ?」


「そーらーびーむ?」


「そっ、まぁこれも光輝シャイニングの能力にかかってるんだけど…」


「とりあえずやってみよ!どうやるの?」


「太陽の光を使うんだ、太陽の光を吸収してそれを気力ヴァイタルに変える。んで、溜まった気力ヴァイタルを一気に放つ!」


「なるほどー私にかかってるのは太陽の光を吸収できるか否かってことか」


「そうなんだよな、その機構をハヅキができるかどつかで決まる」


「どうするの?」


「…自分の気術ヴァイタリティなんだからあとはできるかハヅキが試してみ」


「…う〜ん、光を…吸収…」


と言いながらハヅキはこぶし程の光の球をつくる。

そしてそれを眺めながら考え始めた。


「ちょっと飲み物買ってくるぞ〜」


「うん」


俺は食堂にある自販機へと向かった。

ついでに用を足して訓練所に戻る。


「買ってきたぞ」


とハヅキを見る、そこで俺は何か違和感を感じた。俺は未だ悩んでいるハヅキとその目の前の光の球を見比べる。

そしてその違和感に気づく。


「ハヅキ、それデカくなってないか?」


「え?」


そう、ハヅキがつくった球、それが先ほどより1まわり、いや2まわりほど大きくなっていた。


「そっそう?」


おそらくハヅキはずっと見ていたから気づかなかったのだろう、まじまじと光の球を見つめる。


「たしかに言われてみれば…大きくなってるような…」


「何かしたのか?」


「何もしてないよ見てただけ」


ハヅキの視線で大きくなるのか?いやそれは考えにくいか、ハヅキが眼を使う気術士ヴァイタリストならまだしも…


「ハヅキ、前にこういうことはあったのか?」


「…ないと思うけど、あったとしても今みたいに気づかないよ」


「うーん、少し実験するか…」


試行錯誤を繰り返し、いくつかの条件を試してみる。

するとどの条件でも光の弾は一定時間で大きくなっていた。


「となると、考えられるのは」


「うん…」


「「もともと光を吸収する能力がある」」


◇◇◇


「術式〔収束〕・〔ロックオン〕展開!これが私の大技!|太陽の怒り《ソル・レイ》!!」


ハヅキは太陽の光を十分に吸収した光の弾と蝶との間に二重術式を展開する。

そして、間もなくそれが蝶へと発射された。

凄まじい光線が凍って動けない蝶達に襲いかかる、そして奇声を上げながら分身もろとも気力の粒子となって消滅した。


ハヅキが上空から戻ってくる。


「やったな」


「特訓したからねっ」


「あたし横で見てたけど昨日やってたあれ?」


「そっまあ昨日やってたのは術式の調整だけどな」


「あれ結構難しいんだよ?〔収束〕で変な方向へ力が飛ばないようにして、〔ロックオン〕で狙いを定めてるんだけど、〔収束〕の調整が難しいの」


「広げすぎると力が拡散、絞りすぎると残留気力ヴァイタルが暴発する可能性があるからね」


「ダイチ、よく知ってるな」


「…術式は学生時代に習ってるはずだよ?」


こいつ…たまに術式使ってるのは無意識なのか…?


「さてと…」と言いながらメグミさんが立ち上がる。


「こっちも終わったことだし帰りましょうか」


「はい」


そして俺たちは森を後にし、第3支部へと戻った。


「何かわかったんですか?」


「ん?そうね〜わかったと言えばわかったし、わからなかったと言えばわからなかったわ」


「??」


「今回の調査は“中型複数発生の原因究明”だったのだけど、その原因が気力(ヴァイタル)の鱗粉を撒く蝶型自然の怒りナチュラルビーストだったわけじゃない?」


「はい、それが全てじゃないんですか?」


「そうね、あなた達が倒した大型2体いたでしょ?あれの発生原因聞いてるかしら?」


「…いえ」


「実は…あの2体、ウィルスマーカーの能力によって発生した可能性が高いの。で、この件もそうじゃないかって調査が入ったわけ」


「ウィルスマーカーの気力ヴァイタル付与…」


「そっ今回はあてが外れたみたいだけどねっまぁ分身を使うレアなケースを見れたから良かったんじゃない?」


「無事じゃなかったらシャレになってないですよ」


「ふふっそうね」


そして、報告はメグミさんがすると言って俺たちは寮へ戻った。


最後、「そうね」と笑っていたメグミさんの顔はどこか不安そうに見えたのは気のせいだろうか…


◇◇◇


ー支部長室


「ー以上が今回の報告になります。」


「ご苦労、分身を使いさらに気力ヴァイタルの鱗粉を持つ種か…未だ確認されてない種だな」


「はい、あてが外れた分、貴重な自然の怒りナチュラルビーストの情報が手に入ったんではないでしょうか」


「あてが外れた?」


「…?はい、今回はウィルスマーカーの痕跡を探す任務だったのでは?」


「何を言っている、この蝶型がそうじゃないか」


予想もしてなかった言葉に私は耳を疑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る