第一章 第2話「獣王」

俺は2枚の重厚な扉を開けた。

そこに広がっていたのはいわゆる戦闘訓練用のフィールド、人工芝が引かれ所々に大きめの岩も置いてある。

その中心あたりで人が4人集まっている。


「…おはよ」


少し不機嫌にその内の2人に挨拶をする。


「おっやっと来たか、1人で来いなんて言っといてなかなか来ねえもんだからさすがにヒヤヒヤしてたぜ」


このイケメン風で赤い髪のよくいる主人公みたいな髪型してるバカが発花たちばなショウスケ、炎を身に纏う気術ヴァイタリティ烈火纏着れっかてんちゃく」の使い手。


「地図もあるのに遅すぎじゃない?さすがにそこまで方向音痴が酷いと思ってなかったよー、ゴメンねっ」


こっちの黒髪のショートボブの女が光丘ひかりおかハヅキ、光属性の後衛型の気術「光輝シャイニング」の使い手だ。


「てめぇらほんと後で覚えてろよ」


と言ったところで前の扉から1人の男が現れた。


「おっ揃ってるな〜、すまんなお前らだけで他のやつらは任務で出払ってるんだ」


かなり大柄な人だ筋肉もすごい、スポーツ刈りの頭を掻きながらこちらへ近づいてきた。


「えっとまずは自己紹介だな、俺は今日から新人の世話役になった“郷田ごうだコウイチロウ”だ。ここの第1隊の隊長をしている呼び方は…そうだななんでもいい。気術名は「獣王ビーストキング」っとここからさきはまた後で体感してもらうか…」


「えっ…」と5人がどよめく。


「おっと聞いてないか、この後一度俺と軽く組み手をするぞ」


聞いてない…初日の朝礼からこんな大男と組み手をするのか…


「じゃあ次は君らだな、資料はあるが一応朝礼だからな順に自己紹介してくれ。じゃあ青髪の君から」


そう言うと郷田隊長はそこにあった岩に腰を降ろした。

と同時に自己紹介がはじまった。


「あたしの名前は“麗未うるみアオイ”、気術は「水のビースト使いマスター」、よろしくお願いします、郷田隊長」


「うむ」


麗未アオイと名乗ったその子は、ウェーブのかかった綺麗な青い髪にスタイルもいい、が結構気の強い人なのだろうということが今の挨拶で伝わってくる。

そして、特出すべきはビースト使いマスター、「自然の怒りナチュラルビースト」を体に宿し共に闘う気術者ヴァイタリスト。腰に付けているビン、おそらくその中に水の自然の怒りナチュラルビーストを入れているのだろう。

本来、自然の怒りと人は相入れない関係だがごく一部の自然の怒りには人間と波長が合うものがおり、それとビースト使いマスターとが契約することで気術が完成する。


「次、緑髪の君」


「はっはい!僕の名前は“速坂はやさかダイチ”といいます!気術は「避雷針ライトニングロッド」です。よろしくお願いします!」


速坂ダイチ、緑髪で身長は俺と同じぐらいで男の中では低い方か、それに麗未アオイと違って気が強くはなさそうだ。

それより気になるのは彼の気術、“ライトニングロッド”聞いたことがない、避雷針ひらいしんという意味だろうがどうやって闘うんだろうか。


「次、ツンツン頭にバンダナの君」


っと俺の番だ。しかしこの人やたらと頭を見てるんだな。よくわからんが。


「俺は月永つきながヒロト、気術は「影の武具造形アーティファクト」で、主に剣と機械籠手ガントレットを使ってます。よろしくお願いします。」


「ほう、いくつか質問いいか?」


「はい」


質問が飛んできたか、まあおおかた予想はつくが。


「今、主に剣と機械籠手ガントレットを使っているといったがなぜその2つにしたんだ?」


予想は当たり。これをいうと大体この質問が飛んでくる。

武具造形アーティファクトは知識さえあればどんな武具も造形できる。そして数ある武具の中からなぜそれを選んだのかは当然気になるだろう。


「はい、まず剣は幼いころ剣道を習っていたので、それが生かせるように。機械籠手ですが、うちの祖父が機械屋をやってまして、これも幼いころにいろいろ変形する機械仕掛けの籠手をプレゼントして貰ったのがキッカケです。」


「ふむ、なるほど。ではそれ以外に造形する武具を増やそうとは思ってないのか?」


「そうですね、この2つを結構極めてきたつもりなのでこれ以上別のものをするとなると頭が足りないですよ」


そう、いくら武具を造形できるといってもまず頭でのイメージが大事になる。だからいろんなものを詰め込むとひとつひとつのクオリティが下がるので、結果的に武具造形アーティファクトを使う人は2つ程度が限度になってしまう。


「よし、わかった。次、赤髪」


そして、ショウスケとハヅキの自己紹介が終わった後、郷田隊長との組み手がはじまった。


◇◇◇


2チームに分かれ、隊長に挑むことになった。

1つは俺とショウスケ、1つはダイチとアオイ

ハヅキは後衛型ということで今回は見学ということになった。


「よし、まずは速坂麗未ペア来い!」


「「はい!」」


2人が隊長と対峙する。


隊長が「始め!」といった瞬間、隊長以外の2人が気術ヴァイタリティを発動させる。


「リヴァイア!!」


麗未アオイが叫ぶと、その小さなビンに入っていたとは思えない量の水が彼女を中心に渦を巻き始めた。

やがてそれは唸り声を上げながら龍の姿を型取り彼女のそばに落ち着いた。


ダイチのほうは、気術で作った電気を帯びた針のようなものを数十個自分の周りに漂わせている。足元には1つだけ地面に突き刺しているのが見える。そして自身も電気を帯びているのだろうか体全体が薄緑に発光している。


おそらくこちらの2人は準備完了なのだろう、相手を伺っている。


そして、隊長が動く。


「オオオオオオオオ!」


隊長の周りに気力ヴァイタルがたまっているのがわかる。凄い気力だ…空気が震えている。

たまった気力が一気に獣の姿を形作る。

牛、いやミノタウロスと言ったほうが正しいか。それはまさに「獣王」と呼ぶに相応しい姿、おそらく対峙している2人、いやここにいる新人5人全員が恐怖を感じているだろう。


「来い」


いままでこんなに気迫のある「来い」を聞いたことがあっただろうか…


「いけ!」


と麗未アオイが指示を出すと龍が凄まじい激流となって隊長に襲いかかる。


しかし、隊長はそれを避けもせず受け止めた。


「ふんっ!」


「んなっ!」


目を疑った、なんとそこからねじ伏せたのだ。麗未アオイも驚きの声を漏らす。龍を型取っていた水はまるで水風船のように弾けた。

そこへすかさずダイチが電気の針を飛ばし、隊長を囲うように地面へ針を刺す。

そして一気に放電した。それにより隊長の動きが止まる。濡れているのでよけいに電気が走っているのだろう。


「ぐっ!」


さすがの隊長もこれには耐えられなかったのかうめき声を漏らした。その瞬間ダイチが飛びかかる。


繋がる針の雷リンクボルト!!!」


ダイチの周りの針と隊長の周りの針が共鳴し激しい電撃を生む。それを体に纏い隊長へ突っ込む。


と同時に、散り散りになっていた水がまた龍の形になり背後から隊長へ突っ込む。


前からは電撃、後ろからは激流。このまま勝ってしまうのではと思ったが、まぁそう簡単にはいかなかった。


電撃が走っているのに「ふん!」と気合いで四股を踏み、地面の針を蹴散らすと背後から迫る龍を掴んだ。


「そらぁああ!」


そのまま投げるようにダイチのほうへ叩きつけた。

あの図体からは想像できないような早業。さすがは隊長としかいいようがなかった。


「え…」と困惑の表情のダイチ、そりゃそうだ隊長に向かっていると思ったら水の龍が目の前に降ってくるのだから。

勢いよく龍が地面へ叩きつけられる、しかしそこにすでにダイチの姿はなく、最初に立っていた位置に戻っていた。

最初に一本だけ地面に刺していた針、それに電撃とともに飛んで回避したのだ。


「めちゃくちゃじゃん」

「めちゃくちゃだ」


声をそろえて2人がつぶやく。


「はっはっは!ひとまずここまでにしようか!2人ともなかなかよかったぞ!」


笑いながら隊長は言う。

始まる前、俺たちと連続で闘って隊長は大丈夫なのだろうかと思っていたが、どうやら不要な心配だったらしい。


「よし!月永発花ペア来い!」


俺たちはすでに結構燃えていた。当たり前だ目の前であんなの見せられたら、勝ちたくなるのが性分だ。


そして、俺たちは獣王と対峙した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る