第一章 第1話「サブサイド」

「真逆だ…」


大きなキャリーケースを転がし、大きなリュックを背負った彼、月永つきながヒロトは端末に表示された地図に向かってつぶやく。


「なんで!なんで地図を見ながら歩いているのに道を間違えるんだ俺は!」


自分の方向音痴の酷さにイライラしながら街道を歩く、端末の世界と目の前の世界を何度も見比べ、その場所へと急ぐ。


「配属初日に遅刻はヤバイよなぁ…」


1人うなだれる。


「な〜にが「もう学生じゃないんだから1人で来ないとダメだよ」だよ、これで遅刻したらあいつら許さねぇ」


幼い頃からの幼馴染、発花たちばなショウスケと光丘ひかりおかハヅキ、2人のその時の顔を思い出しながら1人歩く。


「よくあいつら迷わずに行けるよな…っと着いた!」


ブツブツいいながらもなんとか集合10分前にたどり着いた。かなり時間を要したが、それを見越して家を早く出たのが正解だった。

そして、目の前の大きなコンクリートの建物を見上げる。白を基調としたよくある学校のようなつくりだ。

それに表示されている看板を見る。


世界狂騒対策機関せかいきょうそうたいさくきかん"サブサイド"第3支部】


世界狂騒、全世界で発生する怪物『自然の怒りナチュラルビースト』、別世界から迷いこんでくる人間『世界渡航者ワールドウォーカー』の総称だ。

サブサイドはそれの対処、原因究明をしている機関で、規模は大小様々だが数え切れないほど支部が存在している。


その看板を見た瞬間、自然と体に力が入る。「よしっ」と頷き建物の中へ急ぐ。


中に入ったあと邪魔にならないように荷物を置き集合場所を探す。


「つきあたりを右だな?」


案内の張り紙を確認し早足に右に曲がった瞬間、不意に体が重くなる。


ズンッ!


「あがっ!?」


支えきれず転倒、床に叩きつけられる。


「じっ重力操作!?」


そうだ、と背後から声がする。


「貴様新入りだな?この注意書きが読めんのか?」


その人が視界に入る。女性だ、白のライダースジャケットに黒のシャツ、そしてジーパン、かなり美人だしかも、その…デカイ…。

見とれていると、さらに体が重くなる。


「うぐっ」


「聞こえているのかぁ?ここになんと書いてある」


その人が指す壁を見る


「この建物内では訓練施設以外での能力行使を禁ずる……って使ってませんよ!」


「ならばその背中の剣はなんだ」


しまった…こうしているのが当たり前すぎて完全に忘れていた。


「あっ…これはその行使に入るんですか?」


「当たり前だ、貴様の能力はなんだ?」


「影の"武具造形アーティファクト"です…」


「そうだな、なら貴様は何かを造形している時点で力を行使していることになるだろうが」


ぐぅの音もでないとはこの事である。しかし、なぜこんなに偉そうなんだ。


「すいませんでした!以後気をつけます!…なのでそろそろこの重力、解いてくれませんか?そろそろ潰れそうなんですけど…」


はぁとため息をついたあと「今回はこれで許してやろう」と能力を解いてくれた。案外優しいのかもしれない。

その時、スーツのような服に身を包んだ小柄な女の子が近づいてきた。


「支部長〜!またそんな格好で!ダメですよ?新人たちと顔合わせなんですからもっとちゃんとしたのを着ないと!カスミを見習ってください?」


「ん?いいだろう北潟きたかた?そういうのは嫌いなんだ。それにお前は堅すぎだ。」


「そ、そうでしょうか…」


「堅すぎ」と言われ自分の服装を少し恥ずかしそうに見ている彼女は北潟カスミと言うらしい。しかし彼女、小柄で幼そうな割に母親のような口調で支部長と話し…って


「支部長!?」


ワンテンポ遅れた驚きが声に出る。

よく見るとジーパンのポケットの所に名札をしている、斎條さいじょうレイコ支部長…ほんとに支部長らしい。新人の俺に偉そうにするわけだ。

しかし、初日から遅刻ギリギリにルール違反と悪い印象を与えてしまった。すでに先行きが不安だ…とか思っていると北潟カスミがこちらに口を開く。


「おや?新入りさんですか?あなたも早く朝礼に行ってください。あと3分ほどで朝礼ですよ?」


「あっ!」と俺は方向転換し、支部長と北潟カスミの会話を背中に聞きながら朝礼が行われる第1訓練所に向かった。

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