第一章 第18話「責任」

“絶対に助ける”その想いで叫んだ。すると、ショウスケが声に反応したのか顔を上げた。

しかし、触手が僅か数mまで迫る。ダメだ!と思った瞬間、ショウスケが消える。


「え?」


触手もさっきまでショウスケがいた場所に到達し地面をえぐる。

俺はすかさず触手を攻撃し無力化する。そして、地面に降りた時、その男は現れた。


「私の気術ヴァイタリティ、“磁力マグネティックフォース”がただ物の向きを変えるだけだと思わないでいただきたい」


「…大門だいもん…ユウイチロウ」


「彼は更に後方へと移動させた。磁力によってね…あっちには父上も清水しみずメグミさんもいるから大丈夫だろう」


「どういうつもりだ」


「『人を助けるのに理由などない』、有名な言葉だが?まぁ彼が顔を上げ、私に気づかなければやられていただろうがね…」


俺が叫ばなければ、ユウイチロウがこちらへ来なければショウスケは……と俺は考えるのをやめる。

「それに」とユウイチロウは自然の怒りナチュラルビーストを見る。


「あれは私たち大門家の責任だからね…」


「ほんといい迷惑だよ」


「我ら三兄弟がサポートするよ月永つきながくん、2人にはもう動いてもらってるからね…いこうか」


「ただ…」とユウイチロウは続ける。


「あなた達のせいで我々の気力ヴァイタルはあまり残ってない、そこは頭に入れておきたまえよ」


俺は強く言い返す。


「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」


俺はユウイチロウとの間に壁を感じながらも巨大なヤモリへと向かう。


◇◇◇


僕は、光丘ひかりおかさんと麗未うるみさんとの3人でこの超大型自然の怒りナチュラルビーストを倒しにかかる。


「月永くん、急降下していったけど大丈夫かな…」


僕は突如急降下した月永くんと姿が見えない発花たちばなくんを心配する。

だが、そんな想いも目の前の状況に呑み込まれる。


「こいつ!ビクともしない!」


いくら攻撃しても敵の攻撃の手は緩まず、やがて防戦一方となってしまう。

3人で一点を攻撃したほうがいいのか…

刹那、地中から触手が飛び出す、僕はかわしきれず飛ばされてしまう。すぐに立ち上がったものの目の前にまた触手が迫っていた。

針を全て使い全力で防御しようとする、だがその行動はいい意味で意味が無くなる…僕の周りから土の柱が突き出し触手を防ぐ。


「これは…!!」


「これで貸し1だよ…」


後ろを振り向くと宙に浮く椅子に座った少年がいた。


「大門ミチナリ!」


「まったく君にあの端末を壊されなければもっと早く防げたのにね…この古いタイプの端末じゃあそんなに射程距離伸びないんだ」


「いったい何しに…」


「手伝いに来たんだよ、こいつは僕らの母親から生まれたんだ…君達だけに押し付けるわけないだろう?」


そうか…この子もクニヤスに言われて邪魔してただけで悪い人でもなんでもないんだ…ちゃんと罪の意識があって責任も感じてるんだ…


「父さんから伝言、こいつは核を持ってるそれは恐らくマユコがしていた指輪だマユコが消えた時指輪は消えずに残りかなりの気力を纏っていた、そしてその指輪はこいつの体内にあるだろう、ってさ」


「核…体内…」


それが本当だとして、どうやってその指輪にたどり着くか…外から攻撃して無理なことは今この状況で分かる…こいつの口から入らないとダメってことか…


「何か案浮かんだ?」


「案も何も口から入るしかないんじゃ…」


「だよね、僕らはそれができるのが君しかいないと思ってるんだよ」


「え?」


「父さんの見立てだとこいつは外からの衝撃はほとんど表面を伝っているだけで内部へは届いていない、核へ攻撃するには大きな剣で真っ二つにするか、口から体内へ侵入するかだけだろうってさ」


「月永くんなら真っ二つにできるんじゃ…」


「君さぁ僕に頭がどうの言っといてそれはないでしょ」


「なっ」


「確かに早い話、“武具造形アーティファクト”の彼にやってもらうのがいいかもしれない、ただ核の位置がわからない状態で切って、もし外れたら?こいつは核を持ってるいじょう核を壊さないと死なない…それで更に暴れ出しても危険、何発もこいつを切れるほど彼も気力が残ってないだろうし、現実的じゃない」


確かにそうだ核はこの巨体の中のどこにあるかわからない小さな指輪…仮に位置が分かっても狙いを定めるのも至難の技ってことか…


「それにみんな先の闘いで気力を使ってる、確実に決めたいんだ」


「それで、僕だと?」


「そう、君の“避雷針ライトニングロッド”だよ」


そう言ってミチナリは作戦を話した。見ると光丘さんと麗未さんも大門リュウタと合流していた。


こうして、超大型自然の怒り討伐作戦が始まった…


◇◇◇


「ほんとにそんなことできんのかよ!」


「正直、それは我々の力によって変わる!」


「あいつらを信じるしかない…か」


俺とユウイチロウがデカブツの近くにやって来た時にはもうそれは始まっていた。


奴は信じられない量の触手を伸ばし攻撃している、しかし大門リュウタとアオイはそれに当たることなく凌いでいる。


「すげぇ…アオイとリヴァイアのやつあんな動きできるのか…」


見惚れるほどの速さで翻弄している。そして、今度はアオイとリヴァイア、リュウタが触手の方を向く。


「いくよ!リヴァイア!術式展開、【ロックオン】!」


アオイの目が光り、術式が展開する。

それと同時にいくつもの水の塊がアオイたちの周囲に浮かび始める。

そして、触手が目の前に迫った瞬間。


みだれ水龍閃すいりゅうせん!!!」


その名の通り水のレーザーが触手に向かって乱れ飛ぶ…アオイたちを追っていた触手が消し飛んだ。

そして、反対側では。


「全気力放出…!ハイパァァァ!ノヴァアッ!!」


リュウタを中心に蒼い炎が大爆発を起こす。耳をつんざく程の爆音が辺りに響き渡る…その後に触手など残るはずもなかった。

「頼むぜぇ…」とリュウタは倒れてしまう。しかしその2人のお陰で少しの間だが触手が全て無くなった。


磁力マグネットフォース!!」


「きゃっ!」


ユウイチロウがハヅキをミチナリの柱で囲われた場所から空へ移動させる。かなり速いのだろう、ハヅキが小さく悲鳴をあげる、しかしその目はしっかり敵を見据えていた、そう、いつの間にか増えた2つ目の太陽と共に…


「術式展開!!【ロックオン】&【収束】!!」


大きな術式が展開され、準備が整う…

確実に前回使った時より術式展開からの発射までの時間が短縮されていた。


「いっっけぇーー!!太陽の怒りソル・レイ!!!」


放たれた光線は一瞬でデカブツの体に到達する。凄まじい光と熱量、このデカブツもこれには大きな口を開け悲鳴のような鳴き声をあげる。


「ギャア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!」


待ってましたとダイチが針を飛ばす、それも人の腕程もある大きな針を。

その針は真っ直ぐに奴の口へ向かう、この場にいる誰もが「決まった!」、そう思った…しかし、そこに伸びる地中から出た一本の触手…ついに、口に入る直前で弾かれてしまった…

弾かれて奴の口ではなく地面へ向かう針、ダイチがもう一度コントロールしようとする。


「ったく!俺にこんな役やらせやがって!!」


だが俺は既に弾かれた針の側にいた。


ーーー数分前


「は?聞いてる限り俺とミチナリの出番ねぇじゃねぇか」


「最後まで聞きたまえ…ミチナリには皆の防衛、月永くんには緊急時の対応をお願いしたい。」


「どういうことだ」


「今まで闘ってわかっただろう?あいつがどんな動きをするのか見当もつかない、つまり何が起こるか分からないのだよ…そこで何か起こった時に月永くんに登場してもらう」


「じゃあ一番いいのは俺が見てるだけの状態ってことだな」


「そうなることを祈ってるのだがね…あとあまり気を悪くしないでくれよ、あらゆる場面で対応できるのは月永くん、君だけだと思っての選出だからね」


俺は頭を掻きながら言う。


「わぁってるよ、まかせときな」


ーーーーー


俺は針に影を纏わせ剣を造形し始める、しかし、途中で良い事を思い付き別の形に変形させる。


「あれって」


ダイチが目を輝かせる、あいつこういうの好きなのか…

俺が造形したのはどこかの本で見た神のきね…それを振りかぶり狙いを定める。


「ダイチ!放電する準備しとけぇ!!」


ダイチに言い放ったあと、奴の口向かって力の限りぶん投げた。


「必殺!!金剛杵ヴァジュラァ!!!」


俺の投げた金剛杵ヴァジュラはそれを防ごうと伸びてきた触手を物ともせず奴の口へ吸い込まれるように入った。その瞬間、巨体が仰け反る。


「月永くん!その名前貰うよ!」


と言ってダイチが奴に向かって手をかざす。


炸裂する金剛杵ヴァジュラズスパーク!!!」


ダイチがかざした手をグッと握る、それと同時に奴の体内の金剛杵ヴァジュラから電撃が走る。

爆発音に似た音が聞こえたかと思うと今までビクともしなかった巨体が断末魔を上げながら傾きはじめた。


そして、その体は地につく事なく気力の粒子となって消える…

そしてそれは俺たちの勝利を意味する…


そうして巨体から発せられた光はまるで満天の星空のように美しかった…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る