第一章 第4話「第3支部の長」

俺たちが話をしていると、郷田ごうだ隊長が奥の扉から現れた。


「よぉし、じゃあこの第3支部を案内するぞ〜付いて来い」


そして、第3支部の中を6人で歩き始めた。


「えっとまず今俺たちがいたのが第1訓練所、基本的なフィールドでの戦闘訓練ができる。他に訓練所は第2、第3とある。それも後で見ていくから、よし次だな」


案内とか教育とかは慣れてないのだろうか、事務的に処理していっている。もしくは早く終わらせたいのか。


「ここが食堂だ、寮とも直接繋がっている。全員住み込みということだからここは多く利用する場所のひとつだろう」


しかしこの建物基本的に白い、ずっと影ばかり見てきているせいか目がチカチカする。


「で、ここが第2訓練所だ。第1より小さいが、ギミックがたくさん置いてある。また時間が空いたときに来てみるといい。」


ちらっとだが剣を持った鎧が見えた、あれは昔ジジイの工房で見たことがある。おそらく自立し動く訓練用の傀儡くぐつだろう。性能にもよるが割と撃ち合いなんかの練習になる。


しかし郷田隊長、もうちょっと質問とかそういうのの時間を取ってもいいんじゃないだろうか、さっきからダイチがそわそわしてるんだが。

というか、ちゃんと話きいてるの俺とダイチとハヅキだけだけどな。あとの2人は完全に右耳から入って左耳から抜けている。絶対あとで「訓練所ってどこだ?」とか「トイレどこ?」とか聞いてくるやつだ、絶対教えてやらん。


「とここで窓からあの山を見てくれ。正面に見えるあの山、あれが第3訓練所だ」


「え?」と思わず声が出る。第3支部はデカイ訓練所があるとは聞いていたが、ひと山全部訓練所なのか…


「すっすごい!」


ダイチも興奮気味だ、ていうかこいつメモを取るスピードはっえぇな。


「また行く機会もあるからな、さて次からがメインだぞ」


と、大きな扉の前で止まった。


「ここからはここ第3支部を支えるおさ2人に会ってもらう、まずここから各任務に行ってる隊員に指示を出したりサポートをしている、司令部の司令長だ。」


司令長か…どんな人だろうか、支部長みたいな人なんだろうか。あの人、今日の朝でだいぶ苦手になったんだよな…


そして、司令部の扉をくぐった。

そこには俺の予想を覆す人がいた。


「あっどうも!新人さんですね、私は第3支部司令長の北潟きたかたカスミと言います!」


童顔でさらにピンクの髪にツインテール、そして服は朝のままスーツような服を着ている。服変えなかったんだな…

しかし、まさかこの人が司令長だとは、支部長の秘書か何かかと思っていたが…

ひとつ疑問なのは、この人ほんとに何歳なんだろうか、若き天才なのか、見た目があれなだけなのか、と推測を立てているとバカが口を開いた。


「あの、司令長は何さ…うっ!!」


アオイとハヅキがショウスケが言おうとしたことを止めるべく同時に腹にエルボーをかました。

さすがに2人からの不意なエルボーはかわせずまともにくらったようだ、その場にうずくまる。


「どっどうしました!?」


「いえ、司令長に無礼なことを言おうとしていたので」


「お気になさらないでください。」


「そっそうですか…では聞かなかったことにします…。仲良くしてくださいね?」


「「はい」」


女子って怖え…


「では、もう少し私の自己紹介を。私の気術ヴァイタリティ神の聴覚ゴッドヒアリングといいます。同時にいくつもの情報を正確に聴き取れる能力です。そして今まさに気術を使っています。」


彼女は耳にしているインカムを指差した。


「試しに付けてみますか?一度にたくさん情報が入ってくるので壊れたりした時用の予備があるのです。」


と俺たちに自分のものと同じ情報が入ってきている、予備のインカムを渡してきた。

恐る恐る付けてみる。


「んん?…これ付けてみ」


と他の4人に回す。

「え?」「なに?」「ノイズかこれ?」「……」

みな同じような反応だ。


一言で言うと訳がわからない。大勢の人が口々に何か喋っているというのは辛うじてわかる。

これ聴き取るのは至難の技、とかそういうレベルじゃない。無理だ。

仮に能力でひとつひとつ聴き取れたとしても頭の中で整理して、理解して、さらに指示を出すなんて頭がひとつじゃ足りないぞ…


…なるほど、彼女が司令長にまでなったのは気術だけでなく、そのズバ抜けた頭脳のおかげということか。

となると、余計年齢が気になる…いや今はガマンしておこう。と横にいる女子2人をチラッと見る。


「さて、自己紹介はこのあたりにして司令部について少し話しましょうか。」


北潟司令長は司令部について話し始めた。


「司令部は、ここから任務に行っている各隊員をサポートしています。各チームに1人オペレーターが付いて、対象、つまり自然の怒りナチュラルビーストなどの情報や地形の情報などをこちらで解析しチームへ送信しています。そして、それを総括しているのが私というわけです。

もし、緊急事態が起これば私もオペレートに入ります。

ちなみに、我が第3支部にはそこの郷田隊長を含め隊員が13人います。あなた達を入れると18人ですね。

「サブサイド」は前線になればなるほど少数精鋭になるのは知っていると思いますが…」


長い。この人喋り出すと止まらないやつだ。


「コホンッ司令長、この後もあるので今日はこのへんで…」


慣れているのか、俺たちの顔を見てなのか、郷田隊長が話を中断させる。


「あっそうですね…私としたことがまた喋りすぎてしまっていたようですね…」


今思ったが、俺たちに話している間も膨大な量の情報がインカムから流れてきてるんだよな。

見た目では分からないがきっと頭はフル回転しているのだろう。


「では、司令長ありがとうございました。」


「はい」と言うと仕事に戻って行った。


「じゃあ、次は支部長室にいくぞ。」


支部長か…苦手な人だがあの重力操作の気術は少し気にはなる。


「支部長かぁ…ちょっと緊張するね」


「そうか?ハヅキはちょっと緊張しいなんだよ」


月永つきながくんはもうちょっと緊張感持った方がいいんじゃない?」


朝のことがあるから緊張というか胃が痛いんだけどな。


◇◇◇


「なぁ、あの2人付き合ってんの?」


麗未うるみアオイがコソッと聴いてきた。


「ん?ん〜超仲良い感じかな、ちっちぇえ頃からの幼馴染だからなぁ。それに俺はそういうのよくわからんからな。」


「だろうね。」


ていうかこいつ、それを聴いてどうするんだ?

こういうのを横から見てニヤニヤするやつなのか、他に何かあるのか。

うん、よくわからん。


◇◇◇


「さあ付いたぞ。」


支部長室と書かれた扉の前で止まる。

驚いたのは、なんと扉が黒い。

白の中に1ヶ所だけ黒、何か意味があるんだろうか。

そして、支部長室の扉をくぐる。


「支部長、新人を連れてきました。」


まさに校長室のような部屋だ、しかも中も暗めの落ち着いた色で統一されている。

そしてその中に綺麗な長い黒髪の女性がいた。

その人が俺たちの前に立つ。


「まずは自己紹介をしようか、私が第3支部支部長、斎條さいじょうレイコだ。これからよろしく頼む。…まあすでに朝一度顔を合わせたやつもいるが。」


と一瞬こちらを見る。

他の4人は不思議そうにしていたが、俺は気づかないフリをした。


「まあいいだろう。私の気術は「重力グラビティ」だ。あまり詳しいことは言わんが、ある程度想像はできるだろう。後はこれといって私から言うことは何もない、そうだな強いて言うなら規則は守るように。」


失礼しました。といって支部長室を後にする。

気術についてほぼ触れてくれなかったな、少し残念だったがまたいずれ能力を見える時が来るだろう。

というか、最後の言葉、完全に俺に言ってたよな。別に規則を守らない人じゃないんだけどな俺。


「さて、これで第3支部の案内は終わりだ。昼休憩が終わったらまた第1訓練所に集合だ。では解散。」


「はい」


俺たちは5人で食堂に向かった。


◇◇◇


ー支部長室


「速坂ダイチか…聞いたことある名だと思ったが、顔を見て確信した…。あいつの子か…」


自分の現役時代を少し思い出しながら、椅子に座る。

その時電話が鳴った。


「…斎條だ。」


〈おう、レイコ元気かぁ?〉


チッ、噂をすればなんとやらだな。


「はぁ…何か用か、リョウ」


〈今から第3行ってもいい?〉


「ダメだ」


〈なんで〜息子をひと目見るぐらいいいだろう?〉


「あいつはお前が父親だと知らんだろう、それに加えてお前がくるとややこしくなるから来るな」


〈なにがややこしいんだよ〜〉


「存在がだ、それにお前も支部長の仕事があるだろう、第1支部支部長“雷殿らいでんリョウ”」


〈おっ久々にフルネームで呼んでくれたね〜、まあそっちも忙しいだろうしまた合同訓練の時の楽しみに取っとくよ、じゃあね☆〉


と言って電話をきった。


「まったく…」


合同訓練か、嫌なイベントも思い出してしまった…

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