第一章 第19話「疑い」

巨体なヤモリ形の超大型自然の怒りナチュラルビーストが消えた後の地面に俺は光るものを見つける。


「これが…」


そこに落ちていたのはあいつの核と言われていた指輪だった。

それを拾いあげると俺の手の中に小さな緑色の宝石を残し音もなく消えてしまった、俺はそれを握り大門だいもんクニヤスのもとへ向かう。


元々山があった場所の近くにクニヤス、メグミさん、ショウスケ、そしてクニヤスに囚われていた人達がいた、その人達は気力ヴァイタル切れでまだ目を覚ましていない。

まず、ショウスケが立ち上がる。


「すまねぇな、迷惑かけちまって」


「もう済んだ事だしいいよ、ただこの貸しはデカイぞ?」


と俺とショウスケは笑い合う。

そして、クニヤスへ宝石を渡す。


「これだけが消えずに残った…あんたへ返すよ」


「これは…」


とそれを見た瞬間、クニヤスは涙を流す。


「これはな、ペリドットという宝石でな、太陽の石とも呼ばれ、希望の光、前向きに明るくといったよう意味のある宝石なんじゃ…彼女はまさにこの宝石のようじゃった…」


「先生…」


メグミさんもひとまず落ち着いているようだ。

すると後ろで声がする。


「ちょっと!リヴァイアは乗り物じゃないんだからね!」


気力切れで動けなくなったリュウタを連れてきたアオイとリヴァイアがいた。


「しょうがねぇだろ、そんな大男連れてこれるのリヴァイアぐらいしかいねぇんだから」


「あんたの機械籠手ガントレットで連れてこれたんじゃないの?」


と迫られる。


「ごめんって…」


「まぁいいけど…とりあえず支部に連絡しないと、車は山の下敷きだし、第2隊はいないし、いたとしてもこれだけの人数乗れないでしょ」


「それがさっきのでインカム壊れたんだよ…」


と動かなくなったインカムを見せる。


「え…じゃあどうするの?」


俺はアオイと顔を見合わせる…

ふとハヅキが何かに気付く。


「月永くん、あれ…」


ハヅキが指差した方を見ると一台の車がこちらへ向かっていた。

そしてその車は俺たちのすぐ近くで止まり、中から見覚えのある人達が降りてくる。


北潟きたかた司令長に言われて戻ってみりゃとんでもねぇことになってんな!」


運転席から降りてきた安堂あんどうリクが周りを見渡し驚きの声をあげる。


「あなた達ボロボロじゃない!大丈夫なの!?」


「ま、まぁなんとか…とりあえず支部に連絡してほしいんですけど…」


「分かったわちょっとまって」


篠森しのもりユキさんが支部に連絡を入れる。

車を見ると中から相馬そうまアヤカちゃんがキョロキョロと外を見ていた。

そして、長内おさない隊長が俺に質問する。


「確かここには山があったと思うのですが、これいったい?」


俺はひと通りここであったことを説明する。


「ふむ、興味深い…人の手でここまで被害のだせるカイブツを産み出せるのですね…」


「まぁなんだぁ新人にしては良くやったよ、流石だな!」


とリクさんはいつものニッという笑顔を見せる。

ユキさんが車から顔を出す。


「支部に要請は出したわ。距離があるからすぐには来られないでしょうけど…あと、その倒れてる人達は私たちの車で送るわ」


それを聞いてふぅ…とため息をついて地面に腰を下ろす…あぁ久々に座った気がする…


30分ほど待っただろうか、クニヤスに聞きたいことがあった俺は少し離れた場所にいた大門家のところへ行こうとする、だがその時、こちらにヘリが近付いているのが見えた。


「おっあれか?」


とリクさんが立ち上がる。


「結構速かったわね、さっみんな準備しましょ」


まぁ移動中にでも聞くか…とそのヘリを見る。

みんな立ち上がったところで長内隊長が何かに気付く…


「あんなヘリ、第3支部にありましたかね…?」


「え?」と言った刹那、そのヘリから一本のレーザービームのようなものが発射される…そしてそれは大門クニヤスを貫いていた…

あまりにも唐突な出来事に俺たちは誰も動くことができなかった…


「ぐっ!!」


「父上ーーーー!!!!」


ユウイチロウが倒れるクニヤスを支える。

長内隊長がそのヘリに向かって銃を向け何発もの弾を放つ。しかし、その弾はヘリに当たる前に爆発した。


「何っ!?」


「逃がすかっ!!」


とリクさんが炎の剣を作りヘリに向かって投げる。

しかし、それもヘリに当たる前に弾かれてしまう。


「なんでだ!!」


そうこうしている間にヘリは引き返していってしまう。


「何故私の"爆する弾ブラスター"が着弾前に爆発したんだ…」


「なんなんだあのヘリ!!」


「もういい…」


とクニヤスが言う。


「どの道わしは死ぬまで牢屋の中じゃっただろうしな…当然の報いだ…」


「父さん!喋ってはダメだ!!」


「我が息子達よどうか生きてくれ…お前達が元気ならばわしはそれでいい…そしてサブサイドの者に警告しておこう…」


とクニヤスは俺を見る。


「"赤髪の男に気を付けろ"」


そう言ってクニヤスは力尽きた……


「赤髪の男…」


赤髪、そう聞いて同じ赤髪のショウスケを見ると怒ったような顔で遠ざかるヘリを睨みつけていた…


◇◇◇


「支部長、北潟です。第2隊の篠森ユキから要請、新人と大門を支部に送る手配をしてくれとのことです。」


〈許可する、手段は任せよう。〉


「了解しました。」


あの超大型自然の怒りナチュラルビーストとの戦闘中に突然インカムとの連絡が出来なくなったことが気掛かりだったが今の要請でひとまず安心したところだった。

そして、私は各所へ連絡を入れる。


「ヘリ部隊、出動要請です。対象は8名、場所の情報は端末へ送ります。救護班、受け入れの準備を。機械班、車ナンバー3がご臨終です、追加お願いします。郷田ごうだ隊長、第1隊帰投途中に今から送る場所へ寄ってください。山が崩れたので自然の怒りナチュラルビースト発生の危険があります。発生していた場合、処理した後帰投してください。」


「さてと…」と私は司令室から行ける司令長室へと入る。

そして、未だ情報が入ってきているインカムに耳を傾けながらも本部へと提出する報告書を書き始めた。


数時間後、彼らが帰投したとの連絡が入る。

私も出迎えるべく支部の入り口へ向かう。

入り口へ近づくに連れて人が慌ただしく行ったり来たりしている。

そして、受付の前にいた彼らに声をかける。


「お疲れ様です。」


「司令長、お疲れ様です」


「インカムはどうしましたか?」


「すいません、戦闘中に壊してしまいました…」


と月永くんが申し訳なさそうにポケットからインカムを出す。


「いいのですよ、君たちが無事なのなら、ただ…」


「…ただ?」


「超大型との戦闘報告書はいつもの倍以上に詳しく、より多くの情報を書いてくださいね。」


「は、はいぃ…」


うなだれる月永くんを発花たちばなくんが「頑張れよ」励ます、しかし、それに「お前も書くんだよ!バカ!」と月永くんが返す。


「そこまで急がないので今日は休んでください、大門クニヤスの件もありますし…」


「……。」


彼らは少し俯く。


「それに支部長も私もそこまで鬼ではないですから。では私はこれで。」


「はい、お疲れ様です」


その言葉を聞いて私はまた司令長室に戻った。

彼らは今回の件で“死”に触れた…それによってまた大きく成長できるでしょう、これからに更に期待ですね…。


◇◇◇


帰投から丸一日後、俺たち5人は支部長室にいた。


「…以上で報告とさせていただきます。」


ハヅキが報告を終える。


「ふむ、ひとまず良くやったと言おう。新人がよく超大型を討伐できたものだ。最後の謎のヘリについては調査中だ、何か分かれば連絡しよう…では解散」


「失礼します!」


俺たちは支部長室を出た。


「割と報告って緊張するなっ」


「発花くんは立ってただけじゃん!」


斎條さいじょう支部長、威圧感あるからね僕も緊張したよぉ」


「この後どうしようか…ヒロトはなにかあるの?」


「ん?任務も何もないし、今日は休むよ、まだ疲れが取りきれてないしな、アオイはなんかするのか?」


「あたしも何もないんだけどね〜あたしも完全調和ユニゾンバーストをあれだけの時間使ってたのは久々だったから体中痛いよ」


そうして、俺たちは他愛もない話をしながら各自室へと戻ったのだった。


俺はベッドに横になりクニヤスの最後の言葉を思い出す。


“赤髪の男に気を付けろ”


そいつが王都から来たクニヤスに手を貸した男なのだろうか…そして、あのヘリ…もしあのヘリが王都の物だとしたらクニヤスは口封じのために殺された事になる…口封じなら一緒にいた俺たちも狙われていたはずじゃ…いやクニヤスの言動があちらに筒抜けだった可能性もあるか…


今考えてもしょうがないと俺は目を閉じ、体を休めるためそのまま眠ることにした。


◇◇◇


新人達が出ていった少し後に第2隊が入ってくる。


「失礼します!報告に参りました。」


「あぁ」


「私達に興味を示さなかった人工の大型自然の怒りナチュラルビースト4体の件について報告します。」


「引き返すようにとの指令を受けるまで奴らを追っていたのですが、やはり4体ともが方向を変えることなくひとつの場所を目指しているようでした。さらに攻撃を仕掛けてもなお反撃して来ず進むのをやめませんでした。」


「長内はどう思うのだ?」


と聞くと長内は神妙な面持ちで話す。


「私はやはり奴らは王都を目指していたのではないかと思います。目的はわかりませんが王都の人間がクニヤスに手を貸したという事実がある以上その可能性が高いかと」


「ふむ、今日のところはもういい、次の指令まで待機だ」


「了解。」


第2隊が出ていった後、私は椅子に腰掛ける…


「王都か…」


確かに怪しい部分もある、が下手に手を出せば確実に闇に葬られるだろう…もし王都へ疑いをかけるなら…


「ネタが足りないな…」


そう言って、何気なくカレンダーを見る。そして、ある日を見て眉間にしわを寄せ、深くため息をつく。


「…面倒臭いイベントもあるしな」


【合同訓練】そう書かれた日を一瞥したあと私は仕事へ戻った。

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