第一章 第13話「大門家」

「ふん…来るか…」


わしは嫌な予感を察知する。


「どうしましたか父上?」


「愛する息子達よ準備しておけ、サブサイドの連中がわしをひっ捕らえにくるぞ」


長男のユウイチロウが怪訝そうな顔をする。


「それはいけない、父上の研究を邪魔させるわけにはいかないね…」


次男のリュウタが椅子にもたれかかりながら拳を掲げる。


「そんな奴ら俺1人で十分だぜ」


「…………。」


三男のミチナリはいつものように無言で端末をいじっている。


「それは頼もしい限りじゃ」


と言って大きな装置の方へ向く。


「さて、これをフル稼働させる日が来たか…」


濃縮気力付与装置のうしゅくヴァイタルふよそうち、一度に4体の自然の怒りナチュラルビーストを生み出すことができる。

ただウィルスマーカーが装置のメイン動力というのが少し難点だが…


「今から稼働させておけば奴らがくるまでに10体以上は生み出せるじゃろ」


設定を確認し起動ボタンを押した。


◇◇◇


「みんな乗ったね?」


「はい」


俺たち5人は車に乗り込み出発しようとしていた。後方にはもう一台、第2隊の4人が乗った車も待機している。


「どこへ向かうんですか?」


「この間行った森、あるでしょ?そこから西に行ったところにある山よ。その山が大門家と弟子の私しか存在を知らない研究施設になってるわ」


山ひとつが研究施設か…植物に満ち溢れてるから研究にはもってこいだな


「メインインカムは月永つきながくんでいいね?あとはこのサブインカムでお互いを繋げば大丈夫だから」


「了解です」


そして車に揺られること数時間、ある山のふもとで車は止まった。


「さぁここよ」


「ぱっと見は普通の山だな」


確かに一見するとごく普通の山だ、ただ…


自然の怒りナチュラルビーストの気配がぷんぷんするね」


「アオイちゃんなんでちょっとワクワクしてるの」


「僕たちの任務は装置の破壊と大門だいもんクニヤスの確保…だよね?」


「あぁ装置も見つけ次第破壊していいそうだ」


少し遅れて第2隊が到着した。


自然の怒りナチュラルビーストは俺たちに任せとけ!お前らは中の研究施設に入り込んでこい!」


「はい!」


安堂あんどうリク達はニッと笑うと車で山の裏側へ走っていった。


「…行くわよ」


とメグミさんが山へ入って行く。

俺たちもそれについていった。


少し歩いたところでメグミさんが止まる。その目の前には長方形の岩、その岩はどこか異様で周りの景色に全くではないが馴染んでいなかった。


「これが入り口なんだけど…開け方が分からないの…」


「無理矢理こじ開けるか」


「ダメよ発花たちばなくん、ここは穏便にいきたいわ」


すると岩の向こうから声がした。


「いい判断だね、こじ開けるなんて野蛮なことはしないほうがいいよ…」


「誰だ!」


「うるさいなぁそんな殺気立てなくてもいいでしょ…」


その青年が姿を現わす、宙に浮いた椅子に座りダルダルの服にフードを深く被っている。


「あなた、大門ミチナリね」


「正解、さすがは父さんの弟子だね」


彼は手元の端末をいじりながら答える。


「そんな構えないでよ、僕はこの扉を開けにきてあげたんだよ?」


「じゃあさっさと開けろよ」


ミチナリはショウスケを一瞬睨む。


「ただ開けるには条件がある、ここに僕の遊び相手を置いていくこと、そこの清水しみずメグミ以外ね」


「なんでメグミさん以外なの?」


「父さんがお呼びだからね、で僕たち息子で邪魔な君らを相手するってわけだよ」


ミチナリは余裕の表情を浮かべる。


「ほう…ずいぶん自信があるみてぇだなぁ」


ショウスケが拳に炎をチラつかせる。

だがダイチがショウスケを制止する


「発花くんここは僕が引き受けるよ」


「なんでだよ」


「僕の気術ヴァイタリティは外の方が闘いやすいからね、それに…」


というとダイチはミチナリを睨む。


「弱そうだし」


ピクッとミチナリの体が反応する。


「へぇそっちも余裕そうじゃん…決まりだね君は僕が相手しよう」


といいながら端末を触る。

すると岩が動き地下への階段が姿を現した。


「さぁ入りなよ中で兄さん達が待ってるから…」


「まかせたよ」とダイチが頷く。


俺たちはダイチとミチナリを外に残し研究所内へと足を踏み入れた…


暗い廊下に俺たちの足音が響く、地下だからか少し肌寒く、周囲は静寂に包まれていた。


「なっなにかでそうじゃない?」


「ハヅキは怖がりなんだからぁ」


そういうアオイも周りをキョロキョロしながら少し震えている。


「しっ!何か聞こえる…」


「「キャッ」」


女子2人が小さい悲鳴をあげる。

メグミさんが辺りを見回し耳をすます。

俺も耳をすますとどこからかパチパチと何かが燃えているような音が聞こえる…


「そこの扉から…?」


大きな扉の向こうから確かにその音は聞こえていた。

そ〜っと開けようとしたその時、扉が勢いよく開いた。


「なぁにこそこそしてんだよどうせいるんだろ?大門の息子が」


このバカは…

と開いた扉の先を見ると部屋の真ん中には聖杯の台座の上に大きな炎が揺らいでいた。

そしてその炎の向こうに男が1人仁王立ちしていた。


「ハッ!来たか!」


その男は郷田ごうだ隊長に負けず劣らずの体格をしていて、拳に炎を纏っていた。


「炎か…ここは俺がいくぜヒロト」


ショウスケも炎を纏い闘う気満々だ。


「あんたら父さんのとこへ行くならあっちだぜ」


その男はドアを指差す。

俺たちが不審そうに見ていると


「なぁにこの大門リュウタ、嘘はつかねぇさ弟も嘘は言ってなかったろ?ハハッ」


と大門リュウタは笑う


「みんな装置は頼んだぜ」


「発花くん無理はしないでよ!」


今度はショウスケを残し俺たちはその大広間を後にした…


冷たい一本の廊下を歩く…さらに地下に潜っているようで廊下には少し傾斜がついていた


「あと1人息子がいるはずよ…警戒は怠らないで」


「警戒?誰をです?清水メグミさん」


「!!!!」


突如背後から声がした、振り返るとそこにはジェントルマン風の男がいた。

どこから来たんだこいつ…その時なぜか俺は違和感を感じた…


「っ!大門ユウイチロウね」


「そう、私こそ大門家の長男、大門ユウイチロウ。以後お見知り置きを…フッフッ」


ユウイチロウは不敵に笑うと俺を指差した。


「…君、名は?」


「…月永つきながヒロトだ」


「では月永くん私と剣を交えようじゃないか、女性をいたぶる趣味はないのでね…」


「だそうだ、行ってくださいメグミさん。ハヅキ、アオイ、メグミさんを頼んだぞ」


またユウイチロウが不敵に笑う…


「では行こうか…」


と壁を叩くとそこに道が現れた。


「この先は訓練施設になっている、こんな狭い廊下では君も嫌だろう?」


「あぁそうだな…」


俺は警戒しつつユウイチロウの後をついて行った。


少し歩くと広い空間にでた。そこは真っ白な部屋だった。床から天井まで真っ白、床と壁の境界線が分からないほどに白く、恐ろしく居心地が悪い。


「素晴らしいとは思わないかね?まさに純白、これ以上ない白さだ」


「あぁ…吐き気がする」


「フッ嫌でも分かるようになるさ、ここが君の墓場になるんだからねぇ」


ユウイチロウから突如激しい殺気が放たれた。

反射的に距離をとる、俺は両手に剣を構え戦闘態勢に入る。


「いい反応だ。けれど、いくら反応が早くとも私の気術の前では意味がないがね…」


と言った瞬間、目の前からユウイチロウの姿が消えた。


「なっ!」


背後に殺気を感じ、振り向きながら剣を振る。しかし、それは空振りに終わった。


「フッフッフッどうした?そんな剣ではとどかんぞ?」


ユウイチロウは俺と3mほど離れた場所に立っていた。

どうやったんだ…瞬間移動か?いや….もし瞬間移動なら移動する瞬間どの方向に移動するかわずかに見えるはず…それが一切見えなかった、それほどのレベルの気術士ヴァイタリストにも思えないし…


「フッ何か考えを巡らせているようだが無駄だ、私の気術を見破った者は1人たりともいないのだよ」


俺はユウイチロウを睨みつける。

“分からない”その感情が俺をイラつかせていた。


◇◇◇


長い廊下を急ぎ足で歩く私たち…

すると、突き当たりに扉が見えた。


「メグミさん、ここが…」


「ええこの先に大門先生…いや大門クニヤスがいる…」


メグミさんが扉を開ける、アオイちゃんと私はいつでも気術を発動させられる態勢をとった。

扉を開けた先はまさにリビングのようで生活スペースみたい…けどその奥からただならぬ気配を感じていた。

恐る恐る奥の部屋に入る…そしてそこには巨大な装置とその核の部分に入っている大門クニヤスの姿があった。


「来たか…メグミ…」


「先生…」


メグミさんが大門クニヤスへ近づく。


「メグミさん!危ないです!」


「先生、なぜこんなことをしてるんですか…私達ウィルスマーカーは世界狂騒の謎を解くための大事な存在だとこの能力は誇りだと言ってたじゃないですか!なのになんでこんなことに…」


「メグミさん!離れてください!」


だめだ、全然耳を貸してくれない…


「こんなことじゃと?残念じゃがわしはずっとこの研究をしてきた…その誇りをけなし、あざ笑ってきた奴らを見返し、そして世界狂騒をも自分の手に納めるためになぁ!!」


大門クニヤスが言葉を言い放った時左右の壁からロボットアームが伸び、メグミさんを掴んだ。


「きゃあ!」


「メグミさん!!」


「メグミよ…お前のウィルスマーカーの力も使わせてもらうぞ!」


「リヴァイア!」


アオイちゃんの腰の瓶から水の龍が現れロボットアームからメグミさんを助け出した。


「邪魔な小娘たちよ…」


すると、装置のドアが開き植物が1つ出てきた。

その植物は気力ヴァイタルを纏い徐々に怪物へと姿を変えていき、私たちへ襲いかかってきた!

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