第一章 第8話「それぞれの気」

「2人ともサブサイドに入るの?」


「おう!で、世界狂騒せかいきょうそうの謎を解明して影の勇者になってやる」


「その言い方だと縁の下の力持ちみたいな感じに聞こえるけど…」


「たったしかに…ショウスケ、なんかいい呼び名ない?」


「“幻影の勇者”とか?」


「それじゃ存在しないみたいじゃないか…」


3人が笑い合う。


「まぁ見とけハヅキ、俺ら2人が最前線で大活躍する日は近いぜ」


発花たちばなくんは威勢だけはいいんだけどね〜」


「だけって…」


一拍置いてハヅキが言う。


「…2人じゃ不安だから私もサブサイド目指そうかな」


「「え!?」」


「私も勇者、なっちゃおうかな〜ほら私の気術ヴァイタリティの属性光だしっ」


「くっ…光ってだけで勇者になれると思うなよぉまず俺に勝たないと話にならないぞ」


「いいもーん月永つきながくんに勝てなくても自然の怒りナチュラルビーストに勝てばいいんだから」


「そりゃそうだ、別にヒロトに勝つ必要はないな」


そんな他愛もない話をしてた時代を夢で思い出す。

俺は深呼吸してベッドから降りると仕事へいく準備をはじめた。


◇◇◇


今日は朝礼はないそうだ。そもそも朝礼自体することが珍しいらしく何かイベントがあった時だけ朝礼で集まるらしい。


「さぁ全員いるな?」


郷田ごうだ隊長が第1訓練所に入ってきた。


「昨日はご苦労だった、発生したすぐとはいえ大型を2体倒したのは素晴らしかったぞ」


そう、自然の怒りナチュラルビーストは発生した後周りの植物に溜まった気力ヴァイタルを吸収しながら移動する。つまり大型とはいえ発生したすぐは俺たちのような新人でも対処できる、逆に言えば小型でも放っておけばかなりの脅威となる。


「さて、今日なんだが…やることがない!」


「えぇ…」


「いくら最前線とは言えこういうことは間々ある、俺たちの仕事は世界狂騒の対処だからな何も起こらなければ何も仕事がない!」


それもそうだ、と言うか仕事がないほうが理想なんだよな…


「各自、自由にしてていいぞ。訓練所で特訓するもよし、部屋で休むもよし、なんなら買い出しに行ってきてもいいぞ、ただ何かあったときはすぐ出れるようにしとけ」


と言うと隊長は訓練所を出て行ってしまった。


「どっどうする?」


「それじゃあたしは第3訓練所でリヴァイアと戯れてくるよ」


手をひらひらと振りながらアオイは出ていった。


「よし!じゃあ俺らも特訓いくか!」


「えええ!ちょっぼくも!?」


とショウスケはダイチを引っ張って行ってしまった。

残される俺とハヅキ


「…なんかやりたいことある?」


「じゃあ、私も特訓しようかな〜付き合ってくれる?」


「はいよ」


俺たちはこの第1訓練所で特訓をすることにした。


「で、何するんだ?」


「ちょっと大技を会得したいと思いまして、ご教授願いたいんだよね」


「また急だな」


「私の中では急じゃないもん、少し前から発花たちばなくんみたいな派手なやつやってみたいなぁって思ってて…月永つきながくんなら長い付き合いだし何かいい案ないかな〜って」


「そうだな…」と少し考えてみる。

光輝シャイニング”サポートを主とした気術ヴァイタリティで攻撃方法は主に気弾を飛ばすこと。確か光属性の付与も多少だができたはず…


「ん〜1つ思ったのは攻撃方法を増やすってのはどうだ?そこから大技に繋がるかも…」


「なるほど〜私、攻撃に関しては気弾を飛ばすぐらいしか能がないもんね」


「その気弾ってどうやって飛ばしてるんだ?」


「鉄砲と同じだよ、気弾をつくって飛ばしたい方向に飛ぶように小爆発する気力ヴァイタルを付けてるの火薬みたいに」


「その爆発はそれ以上でかくならないのか?」


「それができたら苦労してないよ〜」


気術ヴァイタリティの難しいところだ、ああしたいこうしたいがあっても自分の能力の限界にぶち当たるとどうにもならない。


「別の方法を考えるかぁ」


◇◇◇


ー第3訓練所


「どう?リヴァイア」


リヴァイアは気持ち良さそうに目を瞑る。

リヴァイアも元はと言えば植物、水草の一種から生まれた自然の怒りナチュラルビーストだ、やっぱり空気のいいところが好きらしい。


「すごい、ここの植物全部気力ヴァイタルを溜めにくく品種改良されてるやつだ…けど、同じような植物ばっかりで普通に迷うな…あたしはリヴァイアがいるから空へ飛べるけど」


品種改良されている種はそんなに多くはない、結果どこも同じような景色になってしまう。


「さて…」


あたしはリヴァイアと気力ヴァイタルの波長を合わせるためにリヴァイアを見つめる。

リヴァイアもそれに応え、あたしを見つめる。


あたしが手をかざすとリヴァイアがそこに頭を寄せる…そしてだんだんとリヴァイアのカラダが龍の形から球体へと変わる。

その表面はまるで水晶玉のようで全く波が立っていなかった。


「よし…いいこ」


そして、リヴァイアはもとの龍の形に戻った。


波長はちょう”、ビースト使いマスターが定期的に行わなければならない儀式だ。

人間と自然の怒りナチュラルビーストとの気力ヴァイタルの波長を合わせるために行う。波長が合えば今のように相棒が水晶玉のように綺麗な球体となる。

これが合っていなければどうなるかと言うと、表面に波が立ち球体の中に泡が見える、酷くなれば球体にすらならない。そして、完全に波長がズレてしまった自然の怒りナチュラルビーストは暴走し、世界狂騒の一部として処分される。

人間の方は、罪を問われ刑務所送りとなり、服役後も気術を使って生活する場合は、機関、主にサブサイドの監視下に置かれる。

まぁ、よっぽどのことがない限りは暴走までいかないのだけど…


「リヴァイア、もう少しゆっくりしてこうか」


あたしはリヴァイアと少し休息をとることにした…


◇◇◇


ー第2訓練所


「おお〜ここヒロトに聞いて来てみたかったんだよ!」


僕は発花たちばなくんに引き連れられて第2訓練所へ来ていた。


「なんでぼくを連れてきたの?」


「そうだな、先に言うと“リンク”だ」


「え?」


「俺とダイチでリンクしてみないか?」


また何か良からぬことを考えてるみたいだ。


「そんなすぐできるもんじゃないでしょ!?ましてや昨日今日会ったばっかりなのに」


「やってみないとわからんだろ?」


他にすることも無いし、出来たら出来たでおもしろいからとりあえず話だけは聞くことにした。


「まずリンクってのはお互いの気力ヴァイタルの波長を合わせるんだ」


「知ってるよ、波長が合わないとお互いの能力で相手を傷つけちゃうからね」


「知ってるなら話早ぇじゃねぇか、やってみようぜ」


展開が早いなこの人は…

2人で向かい合って波長を感じようとする…けど全く感じない。当たり前だ、人によって波長は全然違うし、影炎えいえんの2人みたいに幼馴染でもないし、会ったばかりの僕たちでそうやすやすとリンクなんてできるわけがない。


「んん〜ダメだなぁ」


「そりゃそうだよ…」


「ちょっとこの辺の鎧相手に2人で闘ってみようぜ」


そういうと発花くんは炎を纏い攻撃をはじめた。

この人の思惑おもわくは分からないけどもう少しつきあってみるかな…

その後、僕たちは鎧相手にひたすら息を合わせる練習をした。


◇◇◇


ー第1訓練所


早めに昼をすませた俺とハヅキは技の開発を続けていた。


「最初の倍ぐらいは速くなったんじゃないか?」


「でしょ?」


今は大技の開発は一旦置いて気弾の性能アップを図っていた。

火薬気力を2倍にして2段階で加速させたり、気弾を引っ張って飛ばしたりといろいろ試している。そして今のが、ねじりながら引っ張って飛ばしさらに火薬気力で加速させた弾だ。ただここまですると同時に2発が限界らしい、能力面ではなくてハヅキの技術面での限界だから練習を積めばもっと数を増やせるのだろうが…


「弾はとりあえずもういいんじゃないか?そろそろ本題に戻ろうぜ」


「そうだね、と言っても何かいい案浮かんだ?」


「いや…」


と言ったところで訓練所に誰かが入ってきた。


「おっ声がすると思ったら新人じゃん」


「あっはじめまして、任務お疲れ様です」


「おう、ありがと」


茶髪に赤い服を着た彼は一見すると親しみやすそうなお兄さんって感じだ。


「俺は安堂あんどうリク。ここの第2隊の隊員だ、気術ヴァイタリティは“焔剣フレイムソード”ってのを使ってる。よろしくなっ…あぁっとそっちの紹介はいいぜひと通りの情報は知ってるから」


彼はニッと笑うと続けて質問してきた。


「精がでるな、トレーニングか?」


「彼女の技の研究をしてまして、少し行き詰まってるところなんですよ…」


「なるほど〜確かサポート系の能力だったよな?だからそうだな…」


その時訓練所の扉が開いた。


「いた!リク!早く報告いくぞ〜」


「あっ今行くから!」

「すまんな、新人!時間あればもうちょっと考えられたんだが…」


「いえ、大丈夫ですよ」


「っと何も浮かばなかったわけじゃないぜ?俺からひとつアドバイスするとだな“視野を広く持て、なにも使えるのは自分の力だけじゃない”ぜ?」


じゃあな!と彼は訓練所から出て行った。

「使えるのは自分の力だけじゃない」か…


「どういう意味だろね?リンクってこと?」


「いや、さすがに違うと思うけど…」


その時光を届けていた太陽に雲がかかりすこし暗くなる。


「太陽…」


「どうしたの?」


俺は1つの可能性を見いだした。


「ハヅキ、太陽光線ソーラービームってのはどうだ?」


◇◇◇


「第2隊、ただいま戻りました!」


「ごくろう、報告をたのむ」


私の前にに第2隊の4人が並ぶ。


「はい、南方の森にて発生していた中型自然の怒りナチュラルビースト群の討伐完了、周囲の調査も行いましたが特に変わった様子はありませんでした。」


「ひとつ気になったのは、奴ら何故か一ヶ所にかたまってたってことですね、べつの場所で発生してそこへ集まったのか、その場所で一気に発生したのかは分かりませんが」


「ふむ…一度清水しみずを送った方がいいかもしれないな」


「そういえばこちらでも何かあったと聞きましたが…」


「ああ、都市近郊の平原で大型が2体同時発生した…」


「それって」


「そのことはまた話そう、お前たちは一旦体を休めてくれ」


はいっ!っと全員一礼して支部長室を出ていった。


「最近妙なことが増えて嫌になるな…」


と私は次の行動に移すべく郷田ごうだに連絡を入れる。


「新人の仕事ができたぞ」

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