ベゴニア

今日は流星群。幾つ流れ星が来るかはわからない。でも、ひとつくらい私の願いを聞いてくれる気まぐれな流れ星がいるだろう。


「空ってどこまで続いてるか知ってる?」


彼女の問いは共に星空を見上げているこの状況に即していたが、あまりにも突然だった。


「まるで空に終わりがあるみたいな質問だ……。そりゃどこまでもとしか言いようがないわ」


「みんなそう言うけどみんなが思っているより空は広くないし、身近だよ」


そう言うと彼女はレジャーシートから腰をあげると首に着けていたビーズのネックレスを外し、それの紐をほどいた。

ネックレスのビーズはバラバラと足元に落ち、彼女の手には紐と少しのビーズが残った。


「よく見ていて」


彼女は手に残ったビーズを星空の星の隙間に埋め込んだ。すると白いビーズはまるで数万年もの間そこで輝いていたかのように夜空の星達の中に収まり、他の星と見分けがつかなくなった。


「……」


「聞いたことある?空の手入れをしている人達がいるって話」


「絵本で見たことならある」


動揺を隠すために敢えてはっきりと答える。彼女のネックレスが星になってしまったという目の前の現象を受け止められなかった。


「私、その手入れしている人達の一員なの。」


「空を手入れ…」


「そう。知ってる?空って映画のフィルムみたいになってるんだよ。ひとつながりになっていて、それを大きな機械でぐるぐる回して。

季節が変わったら夏用から秋用に付け替えたり、流れ星がよく見えるように雲を減らしたり。日照りの時には雲を増やしたりとか。汚れたら洗濯して乾かして、虫が食わないようにたまに干したりして……そんな裏方の作業をしているのが私の家のお仕事なんだ」


「どうしてそれを突然あたしに?それに空がそんな洗濯物みたいなものだと思わなかった」


彼女は困ったような笑みを浮かべると、


「今日、流れ星を見ようって誘ったのは本当はこれを伝えるためだったの。しきたりで18歳になったら一番の親友に家の仕事について話すことになってるんだ」


「一番の親友だと思ってくれてることは嬉しいよ。でも空が洗濯物だとか、ビーズを星にしたりとか、わけのわからないことを話されたりされたりして正直混乱してる。家のことを話されても反応に困ると言うか、わけがわからないよ」


彼女は黙って足元のビーズを拾った。


「とりあえず、これは夜空にプレゼント!」


そう言って彼女が放ったビーズは夜空に溶け込んで新しい星座を作った。


「親友に隠し事をするのはもう嫌だったの。それに家族にも他の人にも聞かれたくなかった。だからわざわざここまできてもらったの」


新しい星座を作って、早見盤をめちゃくちゃにした勢いのまま言い放った。

彼女の告白は衝撃的で、私の全く知らない彼女の一面を見せられて、私から彼女がずんずん遠くなっていくようだった。


「実はあたしからも告白することがあるんだ」


遠くなっていく距離を埋めるように私は言った。


「あたしね、君のことがずっと」


「あっ!流れ星!やっと来た!」


彼女の星座から湧き出てくるように流星が次から次へと溢れ出てくる。


「願い事したい放題だよ!」


さっきまでの嘘か本当かわからない話や出来事なんて無かったかのように流星群が空を埋め尽くす。

彼女もさっきまで真剣な顔をして話していたことが嘘みたいにはしゃいでいる。


「ねえ、さっき何を言おうとしたの?」


彼女の問いかけを首を横に振ってやり過ごして、星空に願った。


私の想いが彼女に伝えられる日が来るように。


今日は誰が仕組んだのか雲一つない絶好の晴れ空。ついさっき作られた出来立てほやほやの星座にむかって手を組む。

今日は流星群。幾つ流れ星が来るかはわからない。でも、ひとつくらい私の願いを聞いてくれる気まぐれな流れ星がいるだろう。なんなら、彼女に頼んで明日も流れ星を降らせて貰えばいい。

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