気まぐれ金魚の玉手箱
ゆずりは わかば
無色
この世に生まれ落ちてから一度も、私は空を見たことがない。白い紙、黒い文字、白い肌、黒い瞳、白い服、黒い服、白い壁、黒い影……。色という概念があることは知っている。でも私にとっての色は白と黒、それだけ。
朝起きて、神様への捧げものになるための儀式をする。少しだけ塩気のある湯で体を清め、神様に種の永遠を祈る。祈りの後は白い着物に着替え麹の香りがふんわり香る米を神様に感謝しながら食べ、人間とは何か人間の永遠を望むには何をすべきかを本を読んで学ぶ。
身の回りのことを全てやってくれる人がいて私は人間という種族が永遠に続くように神様に身を捧げる準備を手伝ってくれる。
種としての限界を迎えた人類は見苦しくも生物としての限界を超えるための研究を始め、神の座へ登ろうとした。でもいくら人類が賢くても種族ごと神様になることは難しかった。そこで人類はこう考えた。とりあえず人類を基にした神様のサンプルを作ろう、と。
そのサンプルを作る研究施設の一つが私のいるところだ。
私は何百億人といる人類の中から無垢な部分を抽出されて作られた存在だ。材料と構造は同じだが私は人間ではない。人類産のヒトなのだ。製造された私は無菌室で育てられ、無害な言葉のみを与えられて神聖に清められたものだけを口にして12年間暮らしてきた。
私こそが数多いる人類の救いとなる存在、女神候補だ。未来を見通す神通力で人類を導き、神の座へ引き上げる。それが私だ。
でも全ての命に、全ての種に終わりがあるというのになぜ人はそれに怯えるのだろう。
分岐した先の幾多もの未来で、人は必ず滅んでいる。滅ぶことがわかっているというのになぜそれを受け入れず足掻くのだろう。私にはわからない。
この無駄なあがきは醜く浅ましい。こんな種族のために私は造られ、死んでゆくのは嫌だ。……でも私にできることは欲しくもない永遠を祈ることだけ……
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