ONE LIFE

「よく来たね。まあ座って」


「ここは?」


「気にする必要はない。初めて飛んでみてここにたどり着くなんて、君はなかなか運がいい」


「いや、さっきまで俺は原っぱにいたはずだ。それに彼女が目の前で消えて、神さまになれなくて、それで」


「まあ落ち着いて。こっちに来て座りなさい」


「わからない。瓶の中にカケラを入れて、それを集めないといけない気がして」


「まずお茶でも飲んで……そうそう。落ち着いたかい?」


「色々と聞きたいこともありますし、何が起きているか全くわかりませんが、一旦は落ち着きました」


「そうかい。まず、ここはなんの変哲も無いカフェだ。オリジナルのお茶が売りのね」


「なんでカフェになんて…どうやって? どうして俺は」


「僕はその疑問に答えることができる。なんせ僕は君たちの言う上位存在、簡単に言えば神様なんだからね」


「神様? 何を言っているんですか?」


「人の話は最後まで聞くものだよ。いや、神の話は、かな?

ここは死んだ人の魂が集まる場所だ。ここで魂はさばかれて、色々される。この辺のことについては細かくなるから省くよ」


「じゃあ俺は死んだのか」


「いや、君は死んではいない。肉体を持って、生きたままここに来た。そんな人間は君で2人目だよ。

まあそんな特別な人間には神様からのご褒美って事で、欲しいものをなんでも与えようって決めてるんだ」


「君は、何が欲しい?」




「俺は、俺の勝手な都合で消してしまった彼女を、アルビノを取り戻したい」


「そうか……死んだ人間を生き返らせることだけは、やっちゃいけないことなんだよ。悪いけどそれはできない」


「やっぱりな。死者の復活がダメなのはセオリーだもんな」


「ただ、方法を教えることはできる。君の言うアルビノという子、まだ死んではいない」


「本当ですか? 彼女を取り戻す方法があるなら、ぜひ教えてください! 俺にできることならなんだってしますから!」


「そのくらい大したことないよ。教えるだけなんてね。まず、君が拾ったというカケラを見せてくれるかい?」


「これですか?」


「ああ、これだ。これを集まるんだ。いくつもの次元に散らばったその女の子のカケラを、全部だ。

でも、このカケラはこんな風にわかりやすく存在するものじゃ無い。彼女の痕跡となるものに含まれていることが多い。例えば絵の中とか、数ある星座の一つとか」


「でも、別の次元とか言われてもどうやっていけば良いんですか?」


「そっか。そこから説明しないとだね。まず、この世界というものはいくつもの次元が何層にもなってできている。ミルフィーユみたいな感じだ。で、本来は別の次元と干渉する方法は無いんだ。

でも君には別の次元へ行く力がある。誰に授けられたものかは知らないが、次元に空いた穴を移動する程度の力は」


「アルビノが最後にくれた力……」


「次元を移動する方法は簡単。扉を開ければ良い。

どこの、どんな扉でも良い。君が次元を移動できるドアだと思えればなんでも良い」


「彼女のカケラを集めれば、また彼女に会える……」


「そうだ。きっと、君は目が回るくらい沢山の次元を旅することになるだろう。でも、その子ともう一度会いたいならそうするしか方法は無い」


「わかりました。俺、頑張ってみます」


「そうかい。実はね、君があまりにも可哀想だったから私が君をここに呼んだんだよ。突然移動させてしまったすまなかった」


「いえ、やるべきこともわかりましたし、お茶も美味しかったです。ありがとうございました」


「なら良かった。では行きたまえ、その扉が君の大いなる旅の第一歩だ!」


「はい! ありがとうございました! 」


若者は扉を開くと、別の次元へと飛び出して行った。

コーヒーと茶葉の匂いで満たされた空間に、再び静寂が訪れる。


「君の次元で行われようとしていることは、自然の摂理から離れた蛮行だ。利用するようで悪いが、君には頑張ってもらうよ、テネスムス君」


カウンターに置かれたお茶からは、金木犀の湯気がうっすらと匂っている。

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