第6話 黒髪と琥珀目
「っーーーーだぁーーーー!!!」
ばしっ。
倉田の手から林檎が叩き落とされた。
驚き振り向くと、ローブの青年が血相を変えてチョップしていた。
「ちょっと何やってんのさ! それ猛毒! 吐け!」
バンバンバンバンと容赦なく倉田のみぞおちにパンチを入れてくる。倉田は身をよじって逃れようとするが、青年に襟首をつかまれている。
「吐なさいなさいほら! ぺっぺのげー! ほら!」
「ちょ、やめてください痛い痛い痛い! 吐いちゃいますから!」
「いいんだよだから吐けって! ……え?」
不意に二人はぴたりと動きを止め、互いの目を見合わせた。
そして同時に言う。
「言葉が」
「通じてる」
改めて焚き火に戻ってみたが、相変わらずなぜか言葉が通じる。
青年が経緯を、倉田が猛毒の実を食べたとたん話がわかるようになったと女騎士に告げる。
「奇怪な」
女騎士が呟く。見た目通りの硬派なアルトボイスだ。
倉田は頭をかきながら言う。
「というか、あれ猛毒なんですか? 俺の住んでたところでは普通に食用なんですけど……」
「肝臓が丈夫な民族だねぇ」
青年が笑う。そういう問題ではない気がする。
林檎が「禁断の果実」や「知恵の果実」と呼ばれることもあると倉田は思い出したが、話がややこしくなりそうなのでやめておいた。
「さて! せっかく言葉がわかるようになったし、これで自己紹介できるね」
青年が満面の笑みを倉田に向ける。
「ボクはウバロバイト! 風の塔の大魔導士さ」
女騎士も立ち上がり、倉田の方を向く。
「私はラズライト。ウバロバイトの護衛」
「よろしくお願いします、『神の鏡』さん。この世界へのご降臨を感謝いたします」
ウバロバイトとラズライトが手を複雑に組み、恭しく俯いた。
最敬礼の気配を感じ、倉田は慌てる。
「え? 何ですか『神の鏡』って。俺はなんか道に迷ったら、急に綺麗なところに出ただけで……」
「ボクが
人懐こい笑みを崩さないまま、ウバロバイトは丁寧な口調で告げる。
「ボクが魔法で召喚いたしました。この世界を救えるのは、異世界より来たる黒髪に琥珀の瞳を持つ人間『神の鏡』だけなのです」
「世界を……救う……?」
「はい!」
スケールが大きくてついていけない。そもそも。
「黒髪に茶色の瞳の人間なんて、どこにでも……」
倉田はハッとして二人を見比べる。鮮やかな緑の髪と瞳。深い藍色の髪と瞳。こんな色が普通の民族なのだとしたら。
「そうなんです、いないんですよ。この世界には。一人も」
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