第11話 グロッシュラーと彼の鏡

「へ?」


 倉田は思わず間抜け声をだす。自分はここにいるのに、大魔導士と神の鏡がすでに王居についている。

 大魔導士と神の鏡はもう一組いるのか。それとも偽物なのか。

 困惑してウバロバイトの横顔をうかがう。ウバロバイトは少しだけ考えていたが、すぐ何か思い当たったようだ。門番に言う。


「いいから入れて。彼の髪と瞳の色を見れば神の鏡なのはわかるだろう? ボクが大魔導士であるのも、これを見ればわかるだろ」


 ウバロバイトはマントの正面をとめていたブローチを見せる。

 美しい細工の施されたブローチだ。少しずつ色味の違う、多種多様の緑の宝石が飾られている。土台は金だろうか。かなり重そうだ。

 門番は顔を見合わせ、頷きあった。


「確かにおっしゃる通りです。お通りください」


 ウバロバイトは早足で門を抜け、王居に続く大仰な階段をのぼり始めた。倉田も門番にへこへこ会釈しながらウバロバイトに続く。

 ウバロバイトの後ろ姿から、少しカリカリしているのが見てとれた。



 

 階段をのぼりきると、これまた大仰に文様が彫刻された大扉があった。無防備に開け放されている。

 ウバロバイトはなんの臆面もなく扉をくぐっていった。

 謁見室とおぼしき、大広間。あちこちに召使いが控えている。再奥に一段高い場所があり、立派な椅子。

 座っているのが王だろう。長い髭をたくわえ、灰銀色の髪に鮮やかな花冠はなかんむりを被っている。冠の花は新鮮だ。召使いが毎日作ってるのかな、と倉田はぼんやり思った。

 両脇に男女が控えている。女は魔術師風で、男は分厚い本を抱えている。

 そしてその三人を前に、今まさに謁見している男。


「グロッシュラー」


 ウバロバイトが声をかけると、男は振り向いた。

 長身を飾るくすんだ金髪。体型の良さを見せつけるような、体にぴったりした服。手には短い杖。ウバロバイトの杖とデザインが似ている。

 早足に近づくウバロバイトを見、薄緑の目が細められる。


「やっと着いたか、ウバロバイト」

 

 滑らかなテノールボイス。

 男の胸には、ウバロバイトと同じブローチが飾られていた。それを見てウバロバイトがまたさらに不機嫌そうになる。

 王は興味深そうに「ほう」と呟き、グロッシュラーに言った。


「おや? お主がウバロバイトではなかったかね?」


「誠に申し訳ございませんが、違うのですよ。どうしてもここでウバロバイトに会いたく、待ち伏せさせていただきました」


 ウバロバイトとグロッシュラーが王の面前で向き合う。


 と、グロッシュラーの足元から幼い女の子が顔を出した。グロッシュラーの脚にしがみつき、恥ずかしげにしている。黒髪に、琥珀色の目。倉田は思わず呟く。


「その色、まさか神の鏡……」


 女の子を見、ウバロバイトがグロッシュラーを睨む。


「なるほど。得意分野に磨きがかかったね、グロッシュラー。


 

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