第10話 王都の門と王居の門番
荷物が重いことを除けば、旅路はいたって平穏だった。
心地よい気温と風。揺れる花々。まばらな木。誰にもすれ違わない。動物の影もない。
ウバロバイトはずっと喋っていた。倉田が何も思いつかなくても、すぐ新しい話題を見つけた。ウバロバイトがたくさん喋り、倉田が少し相槌をうつ。雑談下手の倉田には心地よいバランスだった。
ウバロバイトの話の中から、倉田は世界のことを学んだ。この世界は科学の代わりに魔法があること。魔導士や魔術師は技師や科学者のような存在であること。ウバロバイトの持つ大魔導士の肩書きは、数百日に一度開催される試練を突破した者だけが与えられること。大魔導士は今、八人しかいないこと。
「たしか最年少の大魔導士なんですよね? ウバロバイトさんってすごいんですね」
「そうだね」
なんの謙遜もなく断言する。目が眩むような自信だ。
かと思えば、ふっとウバロバイトの笑顔が曇った。
「でも代わりに失ったものもある」
なにをですか?
倉田にはまだ聞けなかった。
聞く必要がないとも思った。でもこのまま一緒に旅をしていれば、いつか聞ける日がくる。もっと仲良くなれる。そんな予感がしていた。
『泡沫の病』が、ウバロバイトを奪わなければ。
「おあー、でかいですね」
日が傾いてきたころ、宝石の飾られた門にたどり着いた。
疲れから単純すぎる感想を言う倉田に、ウバロバイトは少し笑う。
「でかいよねー。でもボクが成長したからか、記憶の中よりちっちゃいや」
「子供のころに来たことあるんですか?」
「ボクの故郷だよ」
予想外の返答に倉田は言葉を失う。ウバロバイトは付け加えた。
「四歳まで住んでた。風の塔に連れ……招かれて以来だ。十数年ぶりだよ」
相槌に困る倉田をよそに、ウバロバイトはさくさくと歩き出し、門をくぐる。
「王都へようこそー。王様に挨拶していこう。なんかくれるかもしれないし、
意外とちゃっかりしてるとこあるよな……。
そう思いながらも、もし王に会えるならそれが最適解な気がした。世界を救う使命を背負ったウバロバイトを厚遇しないわけがない。
王都とは言っても、家々のほとんどが空き家だった。空が夕焼けに染まり、窓にあかりが灯っていくが、光がまばらだ。
大通りの両脇に露店跡のようなものがあり、住人がてきとうに好きな場所で店を開いているようだった。看板と売っているものが全然違う。余ったものを並べているといった風情で、露店というよりフリーマーケットに近い。
そうやって景色を見ている間にあっさり王居の前に着いた。王都というから長歩きを覚悟していた倉田は、拍子抜けする。
荘厳な門の前に門番が二人。武装しているが、本物の槍かどうか倉田にはわからなかった。
ウバロバイトが門番に声をかける。
「風の塔の大魔導士ウバロバイトです。神の鏡をお連れしました。王に経緯のご報告をしたい。入れてもらえないかな?」
門番二人は困惑したような様子で顔を見合わせた。ウバロバイトと倉田をちらちら見やる。
「ええっと……神の鏡さまと、大魔導士さま?」
「そうだよ」
相変わらず困ったように唸っている。ウバロバイトが語気強めに問うた。
「何? どうしたの?」
「ええっと、それが……」
門番は言いづらそうに目をそらす。
「先ほどもご到着いたしました。神の鏡さまと、大魔導士さまが……」
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