第9話 もしやりなおせたら

 宿から出ると、ウバロバイトが街道で待っていた。目を細めて遠くを見ている。


 倉田もつられて同じ方を見た。

 宝石で飾られた門がある。木々にはばまれて見えないが、門の向こうには建物がたくさんあるようだ。さらに向こうには、城とおぼしき大きな建物も。あれが目的地の王都に違いない。


「ずいぶん遅かったね」


 ウバロバイトに言われ、倉田は正直に打ち明けた。間違ってロサの部屋に入ってしまったこと。森の民の里に届けてもらうつもりのノートが置いてあったこと。その最初のページに書いてあった内容。


「……俺、少し後悔してるんです」


 倉田はウバロバイトの足元を見ながらこぼす。


「ルブライトさんが最後に話したの、俺だったじゃないですか。ロサさんと会話させてあげたかったなって」


「しても仕方ない後悔だよ」


「わかってます。わかってるんですけどね。……それであるラノベ、えっと、物語を思い出したんです」


 太陽が昇っていく。宝石の門が眩しく光っている。


「俺みたいに異世界に送られた男の話なんですけど。その男は異世界で死ぬと、ある地点まで時間を巻き戻してよみがえるんです。使命を果たすまで何度でも生き返るんです。前に死んだときの記憶を持ったままで」


「自分におこる未来を知っているから、次は死なずにうまくやれるんだね」


「そう、そうです。そうやって少しずつ進んでいくんですけど。……俺もそうならいいのになって思ったんです。そしたらルブライトさんの死は防げなくても、最後にロサさんと話させてあげるくらいはできる」


「じゃあ試してみる?」


 ウバロバイトが杖を振りかぶった。倉田が慌てると、快活に笑う。


「冗談だよ」


「びっくりしました」


「はは、ごめんごめん。面白い話をありがとう。クラタは物語や伝承に詳しいんだな」


 そういうわけじゃないけれど……。

 倉田はちょっとはにかむ。異世界転生の物語が好きだった。ここじゃないどこかへ行きたいと、ずっと思っていた。


 ウバロバイトが杖を持ち直す。杖に飾られた緑の石が、朝日に光る。


「よし、行こう、クラタ!」


 ウバロバイトが明るく声をかける。


「はい!」


 倉田はおおきな返事をした。不必要なくらい元気に。



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