第3話 魔法陣
どれくらい眠っていたかわからない。
倉田はかたい地面の感触で目を覚ました。
「うう、うう」
唸り声を上げるが、瞼を上げようとしない。
できることならこのまま野たれ死んでしまいたい。
まさに野たれ死にだ。酔って、雑木林で吐いて、道に迷って、そして……。
美しい池。そして美しい子の笑みを思い出し、倉田はハッと目を開く。
そこは雑木林ではなかった。青空が広がっている。視界が広い。
そして青年が倉田を覗きこんでいた。草色の髪にエメラルド色の瞳を持つ、現実離れした青年だ。こげ茶のローブを羽織っている。手には身長ほどもある長い杖まで。
倉田と目が合うと、青年は愛想よく微笑んだ。
「XXXXXXXXXX」
青年は何か言ったが、倉田には一つも聞き取れなかった。
青年が誰かを呼んだ。倉田が首を倒すと、ポニーテールの女性が振り向くのが見えた。髪は藍色、瞳はサファイア。抜けるように白い肌。なんと白銀の鎧をまとっている。腰には剣まで携えていた。
女性も近づいてきて、倉田を見下ろした。
「XXXXXX?」
相変わらず何を言っているかわからない。
青年は何度も倉田に呼びかけ、意識の有無を確かめてみたりもした。何を言ってもきょとんとする倉田に、困り果てているようだった。
やがて青年は鎧の女性と共に倉田から少し離れ、何事か話し合いはじめた。倉田も倉田で訳がわからず、草色と藍色の頭が囁きあうのをただ見ていた。
と、とりあえず、起きよう。
動きにくい安物のスーツ、デスクワークに痛んだ腰でなんとか体を起こす。
「……え?」
そこは、草原だった。
ただの草原ではない。どの草も大小の美しい花をつけている。花畑と言っても差し支えないほどだ。しかも地平線まで広大に続いている。
そして、色とりどりの宝石がごろごろ転がっていた。まるで普通の小石みたいに。
「嘘だ、ろ……?」
倉田は立ち上がり、足元を見下ろす。
芝のような草が繁茂する一帯。そこに、棒のようなもので引かれた線。倉田を中心にぐるりと、弧を描いて。時に記号を書き、時に宝石や花を添えて。
まるで魔法陣のようなものが、倉田を囲んでいた。
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