第13話 穏和なる平原の民に代わって
気を許すなって、食わせ者って。
困惑する倉田。考え事に沈んでいるウバロバイト。時が止まったように棒立ちの二人を救ったのは、王の呟く「ほう」だった。
「面白いものを見せてもらった。礼と言ってはなんだが、今夜は泊まっていかれないか、大魔導士と神の鏡よ?」
ウバロバイトと倉田がはっと顔を上げる。
「あ、ありがとう」
「ありがとうございます」
「食事も用意させよう」
王の一声で、周囲に控えていた召使いたちが一斉に動き出した。場の空気が氷解する。倉田は大きく息をついた。
王、王の両脇にいた女魔術師と学者風の男、そして倉田とウバロバイトの五人で食事することとなった。
倉田は円卓の上、目の前に置かれた大皿を眺める。
様々な花がそれぞれの調理法で味付けされ、美しく盛りつけられ、まるで前衛華道のようだ。この世界の料理にも慣れ、美味しそうと感じられるようになってきた。倉田は食器を取る。
食事を進めながら、ウバロバイトは王と歓談している。
「ここを出たあとはどうするつもりかね?」
「んー、森の民の里をつっきって森側の登山道に入るかなぁ」
王様に対してそんな言葉遣いでいいのか?
倉田はちょっとヒヤヒヤする。ウバロバイトの態度は、門番相手のほうが丁寧だったくらいだ。
「確かにそれが最短経路だな。だがやめておけ」
「なんで?」
「孤児を引き取る政策をはじめて以来、平原の民嫌いが悪化しおった。あいつら、他人に取られるのはゴミでも嫌がる。とんでもない種族よ。わしが言えたことでもないがな」
その言葉で倉田は、王の耳が尖った形なのに気づいた。思わず尋ねる。
「王様は、森の民なんですか?」
「その通りよ。なぜか平原の民は政治をやりたがらん。だから代わりにわしが王を名乗り、数百年ここを治めておる。『泡沫の病』が出てくる前からな」
「こんな面倒くさいこと、誰もやりたがらないよ……。ボクは王が不思議でたまらないよ」
呆れ顔のウバロバイトに、王はカラカラと笑った。
「民族の気質というやつなのだろうな。そういう意味では先刻の、グロッシュラーといったかな、あの性格は平原の民には珍しい。わしは気に入ったぞ」
「手配いたしましょうか?」
倉田の隣の、学者風の男がぼそりと呟いた。王は頷く。
「かしこまりました。召し抱えましょう」
言いながら、学者風の男は手元の本に何かを書きつけた。
「ところで大魔導士よ、泡沫の病除けの研究は進んでおるかな?」
「いやーぜんぜん進んでないっすねー、風の塔ほぼ全員がその研究ばっかりってくらいなんですけど」
話の続きを始める王とウバロバイト。
倉田がそれをぼんやり見ていると、学者風の男がぼそりと話しかけてきた。
「神の鏡よ、王政補佐官のスギライトと申します。お尋ねしたいことが」
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