第4話 ふり返り

 ローブの青年と青い女騎士は、なんとか身振り手振りで倉田との意思疎通を試みた。しかし文化が違いすぎ、倉田には何も伝わらなかった。


 ただひとつ、ついてこい、と言われたことだけはわかった。

 このままここに突っ立っている理由もない。そして、二人は自分に用事がありそうだ。

 倉田は二人の少し後ろにつき、花の草原を歩き出す。


 二人は仲良さげに話しながら草を踏みしめていく。

 ほとんどローブの青年が話している。おしゃべりな性格らしい。何か言っては快活に笑う。女騎士は軽く相槌を打っている。女騎士が頷くたびに、藍色のポニーテールが美しく揺れた。


 こんなこと、大学時代にもあったな。

 倉田は思い出す。グループワークの講義で、女子の仲良し二人組と同じグループに当たってしまったこと。二人はずっと二人だけで話していた。話しの内容は知らないサークルの噂話で、とても混ざれる気がしなかった。倉田は今と同じように少し後ろからついて歩いていた。講義室から実験室までの距離があんなに長く感じたことはなかった。自分がいなくなっても、二人とも気付かないんじゃないか。そんな気分にすらなって、何度このまま居なくなろうと思ったことか。


 今も、そう。どうして僕はこの二人についていってるんだ?


 不意に寂しさに襲われ、倉田は静かに立ち止まってみた。

 倉田の予想では、二人はそのまま話しながら歩き、遠ざかり、しばらく気付かないはずだった。しかし。


「XXX?」


 ローブの青年が、振り向いた。

 倉田に近寄り、顔を覗きこむ。大きなエメラルド色の瞳で、心配そうに倉田を観察する。


「XXX? XXXXXXXX」


 倉田はまごつく。

 すると女騎士が草原にどっしりと腰をおろした。 

 なるほど、とばかりの顔をするローブの青年。女騎士は、倉田が歩き疲れたと思ったらしい。思ってくれたらしい。ローブの青年もまた、倉田の腕をばんばん叩いて隣に座った。

 胸に熱いものがこみあげ、倉田はぐっと唇を噛む。 


 青年が空を指差す。つられて倉田が見上げると、空が赤橙色に変わっていた。夕焼け、だろうか。倉田が最後に見た夕焼けより、ずっと鮮やかで、澄んでいる。

 青年が何かの粉を草にまき、杖先で二度トントンと叩く。すると粉は燃え上がり、緑色の焚き火となった。


「……あったけぇ」


 倉田の冷え切った心と体が、あたたまっていく。

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