概要
そう書き置きを残し、ある日突然恋人の香沙音は消えた。残された妊娠検査薬は陽性。ネットの検索記録には「自殺」。
香沙音を捜すうちに明らかになる、陰織一族に伝わる悲しい血脈。江戸、明治、大正、昭和、平成と続いていく、その悲しき歴史の先にあるものとは。
もらい子殺し、食人の村、山の民サンカ、関東大震災、戦争、731部隊、細菌兵器、感染拡大、社会主義革命、新興宗教…。
苛酷な運命に翻弄されながらも、必死に命をつなぐ女達と、それを支え続ける男達の物語。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!幾多の時代の激湍をこえて、呪われた血族が受けついできたのは、確固たる愛
湿った土の香りのするホラーなのかなと読みはじめましたが、安易な予想は見事に覆されました。これは、幾世代にも渡って受けつがれる、強い愛の物語です。
現在の時間軸で進む物語から手記という形で枝分かれする過去の物語が、どれも圧巻の出来栄えで、呪われていると自らを称する陰織一族の女性と、彼女と恋に落ちて共に生きる道を選ぶ男性のふたりの人生が、受け継がれる命と呪いが、避けられない死が、それぞれの時代の激動の中、圧倒的なスケールを伴って、輝かしくも切なく胸に迫ります。一番最初の明治時代の物語のクライマックスに差しかかったところで、読む手を止められなくなりました。
そして、それまでの物語で複雑に張り巡ら…続きを読む - ★★★ Excellent!!!日本近現代史×ミステリ×パニックホラー! それは呪いか、未知の病か。
妊娠した恋人の失踪から始まる、呪いと闘う運命の系譜。
陰織家の女はある年齢に達すると、妖怪のような姿となり、
正気を失って飲食もできず、苦しみ抜いて死んでしまう。
天保年間に端を発するその呪いは、どうすれば解けるのか。
歴史ミステリとしての面白さは他のレビューに見えるので、
私は敢えて「ホラーアクションゲーム好きにオススメ!」
と声を大にして言いたい。日本刀でゾンビを斬るやつだよ。
群がる暴徒も斬るよ。手近な道具や医療器具も駆使するよ。
(ホラーゲーム、私はやらないジャンルなんですが、
「面白いよ!」とすすめられてシナリオや攻略本を
やまほど続々と読みまくることになった経験があり、
…続きを読む - ★★★ Excellent!!!たとえその命がいつか終わるものだとしても――
遺伝病によって早期の死が定められている恋人の運命を、なんとか変えようと奮闘する男の姿が明治・大正・昭和・平成と様々な時代背景のもと描かれています。当然複数世代にわたっての物語となるのですが、どれもこれもクライマックスへの盛り上げ方が上手くて胸アツです。
何がすごいって、各時代の話は、時代背景やその時の出来事やなども絡めてしっかり色が染め分けられていること。で、それなのに世代間でしっかり繋がりが存在していて、全体としてしっかり現代まで一本太い芯が通っていること。卓越した技量を感じます。読んでいて、その人そうなるんだ、とか、この設定そこに繋がるか、とか唸りっぱなしでした。
明治、大正あたりは…続きを読む - ★★★ Excellent!!!それぞれの方法で妻を、娘を救おうとした男たちの明治~平成史。
至嶋時積の恋人・香沙音が、陽性の妊娠検査薬を残して失踪した。
彼女は、遺伝する病を背負っているらしいのだ。
時積と香沙音は現代の人物ですが。
彼女が存在するということは、血と病を継いできた一族がいるわけで。
文献としては明治、口伝では江戸時代にまで、起源を遡ることができる。
それぞれの時代で男たちは、陰織一族の女性と出逢い。
いずれ必ず発病して死ぬ、とわかっていても彼女を愛し。
妻を、生まれてきた我が子を、それぞれの方法で救おうとする。
そして果たせず、先立たれ続けていく。
私、下山事件や帝銀事件などの、戦後すぐの謎に関心がありまして。
背景を知るために、戦時中を扱った本にも手を伸ばすん…続きを読む