湿った土の香りのするホラーなのかなと読みはじめましたが、安易な予想は見事に覆されました。これは、幾世代にも渡って受けつがれる、強い愛の物語です。
現在の時間軸で進む物語から手記という形で枝分かれする過去の物語が、どれも圧巻の出来栄えで、呪われていると自らを称する陰織一族の女性と、彼女と恋に落ちて共に生きる道を選ぶ男性のふたりの人生が、受け継がれる命と呪いが、避けられない死が、それぞれの時代の激動の中、圧倒的なスケールを伴って、輝かしくも切なく胸に迫ります。一番最初の明治時代の物語のクライマックスに差しかかったところで、読む手を止められなくなりました。
そして、それまでの物語で複雑に張り巡らされた人間関係が、解き明かされてきた幾つもの真実が、陰織一族の女性を救うための手立てが、一気に集約されて走りだす現在の物語がまた素晴らしいです。二転三転する数々のドラマティックな展開のあとに訪れる、重厚な、けれども静かで穏やかなエンディングに辿りついたとき、時積さんの傍で、夜空に輝く彗星を見あげているような気持ちになりました。
ホラーが好きな方、アクションが好きな方、歴史が好きな方、恋愛ものが好きな方、この圧倒的な読後感を是非味わってくださいませ。忘れられない物語になるはずです。
妊娠した恋人の失踪から始まる、呪いと闘う運命の系譜。
陰織家の女はある年齢に達すると、妖怪のような姿となり、
正気を失って飲食もできず、苦しみ抜いて死んでしまう。
天保年間に端を発するその呪いは、どうすれば解けるのか。
歴史ミステリとしての面白さは他のレビューに見えるので、
私は敢えて「ホラーアクションゲーム好きにオススメ!」
と声を大にして言いたい。日本刀でゾンビを斬るやつだよ。
群がる暴徒も斬るよ。手近な道具や医療器具も駆使するよ。
(ホラーゲーム、私はやらないジャンルなんですが、
「面白いよ!」とすすめられてシナリオや攻略本を
やまほど続々と読みまくることになった経験があり、
作中の絵面とすごく似ていると感じた次第でした)
明治時代編は1900年。サムライの世の名残と文明開化と、
双方の価値観が混沌とする世情を背景に物語が興される。
呪われた女を愛した男は、呪いを解くために奔走する。
激動する20世紀史を辿りながら謎はやがて解かれていく。
時代ごとに世相を反映したストーリーと人物設定が見事。
>読んだ方それぞれに、「ここが面白い」って箇所が絶対あると思います。
と卯月さんのレビューに書かれているが、まさにそれだ。
藤田五郎@最強クソ爺に進化した斎藤一が素敵! とか。
私事で恐縮だが、高校時代に隠れキリシタン調査の為、
ひとり自転車で五島列島(地元)を巡ったことがある。
これが歴史学の道に進む大きな契機の一つだったので、
第8話の昭和中期編にはちょっと特別な思いをいだいた。
惜しむらくは字数だな、と思ってしまう。
30万字クラスで終わらせるのは勿体ない。
駆け足だと感じてしまう箇所もあるので、
もっとガッツリ書き込んでいいですよー!
20世紀日本の闇や薄暗い謎に惹かれるかたにオススメ。
明治時代編の応援コメントが分厚いことになっていて、
大正時代以降にも書き込む読者が現れないだろうかと、
ひそかに楽しみにしている。近現代史わからないけど。
君の屍をこえて
愛を子に伝えて
未来に希望をつなげ
いつか願いが叶う迄
おどろおどろしいタイトルは、本当は、願いの証だ。
遺伝病によって早期の死が定められている恋人の運命を、なんとか変えようと奮闘する男の姿が明治・大正・昭和・平成と様々な時代背景のもと描かれています。当然複数世代にわたっての物語となるのですが、どれもこれもクライマックスへの盛り上げ方が上手くて胸アツです。
何がすごいって、各時代の話は、時代背景やその時の出来事やなども絡めてしっかり色が染め分けられていること。で、それなのに世代間でしっかり繋がりが存在していて、全体としてしっかり現代まで一本太い芯が通っていること。卓越した技量を感じます。読んでいて、その人そうなるんだ、とか、この設定そこに繋がるか、とか唸りっぱなしでした。
明治、大正あたりは純粋な歴史ミステリな感じですが、現代にかけてはパニックホラー色も強くなっているので、そういうのが好きな人にもオススメです。
至嶋時積の恋人・香沙音が、陽性の妊娠検査薬を残して失踪した。
彼女は、遺伝する病を背負っているらしいのだ。
時積と香沙音は現代の人物ですが。
彼女が存在するということは、血と病を継いできた一族がいるわけで。
文献としては明治、口伝では江戸時代にまで、起源を遡ることができる。
それぞれの時代で男たちは、陰織一族の女性と出逢い。
いずれ必ず発病して死ぬ、とわかっていても彼女を愛し。
妻を、生まれてきた我が子を、それぞれの方法で救おうとする。
そして果たせず、先立たれ続けていく。
私、下山事件や帝銀事件などの、戦後すぐの謎に関心がありまして。
背景を知るために、戦時中を扱った本にも手を伸ばすんですね。
満鉄とか731部隊とか里見甫とか。
という人間からすると、大正で既に「おお、あの人出た!」と思い。
昭和初期なんて、面白くて面白くてたまらないわけです。
……と思ってたら、昭和中期はもっと面白かった!
文献や家紋や絵画から、史学的に一族の出身地の謎を解こうとするのが。
発掘もするし。
もう、ものすごく歴史ミステリで超楽しい!
何が凄いって。
これだけいろいろな時代、広範囲の事件を扱っているのに。
作者様が書いてる内容に全部、説得力があるってことです。
読んだ方それぞれに、「ここが面白い」って箇所が絶対あると思います。