第25話 俺の真実

「っ!」


 図星だという表情になる。

 そこに淡々と言葉を突きつける。


「ついでに今回の冒険譚は全て、だってことも分かっているぞ。君だってあの世界の人間じゃないんだから」

「ど、どうしてそんなこと言うっすか?」

「一つ。俺らの漫画とか文化とかに詳しすぎる。二つ、カタカナに対応しすぎている。三つ、強力な能力を持っているのに何故かやすみちゃんのとこの役職じゃない。まだあるけど、結構な伏線は張ってあったぞ」

「そ、それは……」


 言い澱む彼女に更なる追及をする。


「目的も言おうか? 君はわくわくする戦いが見たかっただけだ。少年マンガみたいにな。だからそういう世界を探して、それらが出来る人材を探して、で、当て嵌まったのが俺とあの世界だ。君はピンチになることを望んでいたし、逆転できる戦いを望んでいた。良かったな。最終的に地味だけどそうなって」

「えっと、あの……」

「言い訳は聞かないぞ。だって最後、喉を潰された時にだってお前は助けようともしていなかった。徹底してそのスタンスを通していた」

「……」


 姫子は唇を結び、下を向く。

 そして――


「……最初から分かっていたっすか?」

「いいや。最初は分かっていなかったよ。分かったのは途中から。カタカナが判らない文化だって分かったところらへんかな?」

「えっ……? じゃあ最初のあの余裕はなんだったっすか?」

「ああ。慣れているんだ。こういうの」

「……慣れている?」


「世界を救うだの、異世界を旅するだのってやつをさ」


 この能力を持っていると、どうもそういう奴等を呼び寄せる傾向にあるらしい。ゴールデンウィークに世界を救ってきた、というのも嘘ではなかった。

 驚きに表情を硬直させている彼女に、俺は微笑を向ける。


「これは調査しきれていなかったか? 俺の能力の詳細まで調査しておきながら」

「調査していなかったっすね。私も能力で調査したんすが、調べ方が『世界を救える力を持っている人』という検索方法だったから、その人物像までは分からなかったっす」

「その検索法は『従来分からないことを分かる様に捻じ曲げる』ってことだよね?」

「流石。お見通しっすね」


 降参だというように両手を上げる姫子。


「私は何でもかんでも『捻じ曲げる』っす。相手の記憶だろうが認識だろうがなんだろうが能力の効果だろうが、っす」

「結構チートだよね。それ」

「アッキーに言われたくないっすよ」


 姫子は苦笑しながら人差し指を向けてくる。


「アッキーのは自分の名前さえ口にすれば、何でもかんでも従えて、命令できるじゃないっすか。それは人間だけに限らず――


――


 そう。

 俺の能力は極めてチートだ。


「だが少し違うぞ」

「?」

「俺は何でも出来るわけじゃない。無理だと思ったら命令は実行されない。まあでも、裏を返せば――『』出来るんだけどね」


 俺の能力は実行する相手が無理だと思うことが出来ないわけじゃない。

 俺が無理だと思わなければ何でもできる。

 最初に上げた壁を走るのだって、俺が「そんなことが出来る訳がない」と認識しなければ余裕で出来る。


「でも結構しんどいんだぞ。出来ないことを出来るって認識するのって。自分自身も騙さなくちゃいけないんだからな」

「それでも……凄いっすよ」


 姫子はふっと自嘲気味に軽く笑う。


「私の能力だって無制限じゃないんすからね」

「寿命のことか?」

「ええ。私の能力は寿命を使うっす。目安として、見ようと思えば私は自由に自分の寿命が見えるっすよ」

「やっぱり分かるんだな」

「ええ。だから今回ので結構消費したっすよ。あの世界を選ぶため、アッキーを見つける為、一年前からの地道な計画から、特定の人物に能力を発現させること、昔から能力が存在していたと誤認させるよう世界を捻じ曲げること、アッキーを連れてくることも含めて、っすね。流石にタケシさんを連れて来たのは誤算でしかなかったすけどね」


 つまりは、全て彼女が能力を使用して作った茶番劇だと言うこと。


「……あれ?」


 そしてその茶番劇を俺は――実はひっくり返していた。


「私の寿命……何でこんなに戻っているっすか……?」

「俺の能力だ」

「いつ? ……まさか、あの、タケシさんに能力を説明した時っすか?」

「その通り」


 あの時、俺はこう命令した。


使寿』と。


 結果、今まで使用した寿命まで戻ったのは予想外だった。もし駄目だったらこの場で命令しようと思っていたから。


「……あとな、姫子」


 口を開けて立ち尽くす彼女に、俺は告げる。


「俺って結構嘘つきなんだよ。だからこそ言ってやる」

「……?」

「君は隠そうとしたが、この茶番を起こした表向きの目的は、さっき言った通り、少年漫画のような展開が見たかったからだろ? でもそれは――自分の寿命が尽きる前に、やりたいことをやるっていうことだ」


 能力など使っていない。

 これは俺の推理だ。

 合っているかは判らんない。

 だが、堂々と言ってやる。


「君の本当の目的は――寿、だろ?」


「っ!」


 ポロリ、と。

 彼女の目から涙が落ちた。

 どうやら当たっていたようだ。


「……どうして、分かったんすか?」

「勘だよ、勘」

「……ふふふ」


 彼女は目元を拭いながら、鼻を大きく啜り、上目遣いで尋ねてくる。


「あの……少し昔話を聞いてくれますか?」

「ああ。思う存分語れ」

「ありがとうございます。私は昔から大人の言いなりでした……あ、本当に性的な目には合っていないっすよ」

「そこで茶々は入れないから大丈夫だよ」

「はい。……それで、この能力を使って色々させられました。幼い私は気が付かず、ずっと使って、使って……気が付いた時には絶望的なほどまで残り寿命がありませんでした。だから、あとはアッキーの言った通りです」


 ならば、良かった。

 俺はどうしても思えなかったのだ。

 一日足らずの間だったが、一緒にいて判る。

 姫子は悪い奴ではない。

 だからこんな行動をしたのも裏があるのだろう、と。


「良かったな」

「ええ。ありがとうございます」


 たおやかに、彼女は頭を下げる。

 その姿は非常に綺麗で。

 ずっとからかっていたが、彼女は立派なヒロインだった。


「さて、これで全てのネタばらしは終了したけど、これからお前はどうする?」

「すべてのネタばらしが終わった? 何を言っているっすか?」


 姫子は元の口調に戻りながら眉間に皺を寄せて、人差し指を俺に突き付けてくる。


「アッキーの真の目的が言われていないっすよ」

「真の目的?」

「異世界で世界を救済しに行くなんて、能力があってもする必要が無いっすよね? だから、目的があるんじゃないっすか?」


 ……参った。

 この子は本当に頭がいい。

 今までアホな振りをしていたが、要所要所で切れている所は見せていた。

 仕方ない、と俺は頭を掻きながら答える。


「俺は君のような存在を探しているんだよ」

「えっ……?」


 彼女はぽっと頬を赤らめる。


「それってまさか……告白……?」

「違う違う。君のような能力持ちを探していたんだよ。そう……『俺に能力を付与』したやつをね」


 俺の目的は一つ。


「この世に生まれ落ちた時から、こんな能力を持たせたやつに一発ぶちかますことだ。『よくも面倒くさいことにしやがったな』ってな。流石にそういう裏があるからか、自分の能力で誰なのかまで突き止められないんだけどね」

「ちょ、ちょっと待つっす! それは私じゃないっすよ!」

「知っている。途中までは疑っていたけど、でも寿命を使ってまで俺に付与する意味がないからな」


 彼女は違う。

 大人に操られていようが、幼子に能力を付随させるメリットが無い。

 それに、彼女の能力の制限を俺の能力で上書き出来た。

 だから彼女の能力で付与された可能性が低いのではないかと思う。

 ……まあ、仮にそうだったとしても。

 もし姫子がそうだったとしても、復讐は出来ないけどな。


「つーわけで、また振り出しだ」

「ですっすね」


 そう首肯しながら、姫子は飛びついて来た。


「おい。そういうのはちょっと」

「何恥ずかしがっているんすか! 私はもうアッキーにメロメロっすよ」

「でれたか」

「でれたっすよ! ……って、何か反応おかしくないっすか?」

「ああ、女慣れしているってことか?」

「その通りっす」

「……はあ」


 俺は溜め息を付く。

 仕方ない。

 言うしかないか。


「すまん姫子。俺は実はモノローグで嘘をついていたんだ」


「はい? モノローグ?」

「いかにもモテない、みたいなモノローグだったんだが、実は……」



「あー、アッキー、何してんのよ!」



 屋上に入ってくるツインテールの赤髪の女子。

 そして彼女を皮切りに――


「アッキー、誰よ、その子」

 ポニーテールの女子。


「貴方様……そんな……」

 金髪のショートカットの女子。


「な、何をしているのさ!」

 八重歯の生えた女子。


「ふむ。いつもの奴だな」

 マントを着た女子。


「汝の契約者は我だぞ」

 眼帯を付けた女子。


『また増えた……』

 スケッチブックを持った女子。


「お兄ちゃんに抱き着くなんてずるいぞ」

 明らかな小学生と思われる女子。


 その他もろもろ……

 彼女らが俺に対して、非難の目を向けてくる。


「あのアッキー……どういうことっすか?」

「あー、一言で言うとだな」


 晴彦に惚れている彼方以外。


「俺のクラスの女子は――


「……は?」


 全員、俺が救ったヒロイン達だ。

 だから全員……俺に惚れている。


「ハーレムじゃないっすか!」

「そうなんだよ。だから結構、姫子のポジションって、微妙なんだよ。被っている奴等いっぱいいるんだよ」


 俺は苦笑を浮かべながら、彼女に問う。


「それでも……どうする?」

「うわあああああああああああああん」


 姫子の悲鳴が屋上に鳴り響いた。

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