第18話 俺の家のトイレは洋式だが未だに和式トイレの家はあるのだろうか? という疑問は女性トイレが和式ではどうなっているか知らないということに気づかされる第一歩でもあった

「へ?」


 拍子抜けしてしまった。

 扉の先は今までのように広い空間か、もしくは王座に赤い絨毯が引いてあるようなモノを想像していたのだが。これではまるで校長室だ。


「ここが最終決戦の場っすか」

「うむ。ひどくさっぱりした場所だな」


 口々に皆が感想を述べるが、そのどれもがしょぼいだの幻滅しただのと同じ感想であった。


「んで――何で誰もいないんすかね?」


 部屋の中には誰もいなかった。

 誰かがいたような形跡はあったのだが、しかし今は人がいるような気配など全くない。

 唯一、気になる所として奥の方に扉があるのだが、今まで違ってまるでトイレがあるような大きさである。非常時の脱出口なのかもしれない。

 俺はその扉に手を掛ける。

 ――と、その時だった。

 ジャボボボボボボ。

 ジャー。

 キュッ。


「ふー。すっきりすっきり、なんてトイレから出てきて言う人いないよなー……え?」


 ハンカチで手を拭きながら扉から出てきた人物は、目を丸くしていた。

 男だった。

 その容姿は平平凡凡。中肉中背の、年は高校生くらいの男性。

 印象はひどく薄い。

 ひどく薄いのに海パン一丁。

 海パン一丁なのに印象が薄いという稀有な存在。

 しかし……どこかで見たことがあるような気がする顔だった。


「きゃあああああああああああ」


 女性みたいな悲鳴を上げる。言っておくが実は女性だったなんてオチはない。完全に男性だ。中世的ではない。海パン一丁だ。そんな所でキャラを出すな。


「落ち着け」

「き、君達は一体何なんだ!」

「敵だ」

「あ、何だ。ただの敵か。敵だと思っ……え?」

「落ち着いたか?」

「……変な意味でね」


 目の前の男は呆れつつも冷静を取り戻したようだ。

 ――と思った所で。


「って、ええええええええ?」


 再び彼は大声を上げる。

 まあ、敵が目の前にたくさんいるのだから、それはある程度予想できたところではある。

 と、余裕綽々で彼の大声を受け止めようとしたのだが――予想外の反応が返ってきた。


「何でここに君がいるのさ?」

「え?」

「っていうか、どうしてこの世界にいるのさ? まさかここって、日本のようで日本じゃない所なの? もしくは、女しかいないのもおかしいと思っていたんだけど、ドッキリ? それにしてはかなり長い期間なんだけど……」

「ちょっと待て」


 自問自答を始めた彼に、俺は問う。


「君は俺の知り合いなのか?」

「そうだよ。……って、ああ。僕が一方的に知っているだけなのかもね。君は有名、僕は影が薄いから判らないかもね」


 その言動で、もやもやとした感情が俺の中で渦巻く。

 知っている、ということは同じ学校に通っていた可能性が非常に高い。

 加えて影が薄い。

 見た覚えはあるが思い出せないということは、自分の記憶が影の薄さに負けているか、廊下ですれ違った程度の出会いだったか、あるいは――会ったのが幼かったからか。


「……あ」


 当て嵌まる人物が一人いた。

 伏線は既にあった。

 言われてみれば、彼しかいなかった。

 ――さて。

 ここで正解を述べる前に、挑戦状。

 彼が今回のラスボスだ。

 ラスボスはぽっと出のキャラではなく、既に登場している人物。

 ヒントは『影が薄い』。

 ……などと。

 頭の中で名探偵気分を味わっていたが、引き延ばす意味もあまりないので、もう正解に行こう。

 俺は彼に答え合わせの問いをする。


 

「君は――佐藤タケシ君か」

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