第2話 俺の赤ちゃん時代

 十六年前。某病院にて。

 一人の赤ん坊が産声を上げた。


「おぎゃー。おぎゃー」

「佐藤さん、おめでとうございます。元気な男の子ですよ」

「おぎゃー。おぎゃー」

「ありがとうございます」

「おぎゃー。おぎゃー」

「本当に元気なお子様ですね」

「おぎゃー。おぎゃー」

「ええ。無事に生まれてきてくれて良かった」

「おぎゃー。おぎゃー」

「体重も標準ですし、お母さんへの負担も少なかった、いい子ですよ」

「おぎゃー。おぎゃー」

「……私、初産だったので、すごく不安だったんですよ」

「おぎゃー。おぎゃー」

「ええ。初産は不安になりますよね」

「おぎゃー。おぎゃー」

「でも同時に、楽しみでもあったんですよ。この子に、早く会いたくて。早く――名前を呼びたくて」

「おぎゃー。おぎゃー」

「まあ。では名前の方もお二人でもう決めているのですね?」

「おぎゃー。おぎゃー」

「ええ。明るい子になって欲しいという願いも込めまして……」

「おぎゃー。おぎゃー」

あきら、と決め――」



「『』」



 俺が最初に意味のある言葉を喋ったのは、生まれたその日に、自己を主張する言葉だった。

 因みにその言葉の直後に俺の母さんと看護師の女性は、俺に向かって頭を垂れたそうだ。

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