第3話 俺の幼稚園時代

 十一年前。

 俺が通っていた幼稚園で、ある出来事があった。

 幼稚園で一番可愛い子が大切にしていた人形が無くなったのだ。

 男子はこぞって彼女のために園内を捜索に当たった。

 俺は他の女の子が好きだったので参加しておらず、その辺をぶらぶらとしていた。

 すると一人の男の子が、俺に話しかけてきた。


「あ、佐藤君。ちょっと」

「何?」

「ちょっとこっち来て」

 呼ばれるままに向かうと、彼は木陰で俺に小声で告げてきた。

「実は……人形見つけたんだ。ほら」


 そう言って、女の子の人形を俺に手渡してくる彼。


「へえ。じゃあ、教えてあげなくちゃね。おーい!」


 ちょうど近くにいた、探していた女の子に声を掛ける。


「なあにー? あ、その人形!」

「うん、そうなんだ。こいつが――」

「見つけてくれたんだ。ありがとう、



「『』」



 結局。

 その女の子の人形を見つけたのは俺ということとなり、その女の子は俺にべったりと惚れてしまった。アプローチがすごすぎて危うく好きになりそうになった。

 一方、人形を見つけた男の子はというと……何故か、見つけたのは俺だということに疑念を抱いておらず、文句も言ってこなかった。後でこっそりと、お前が見つけたんだよ、と言ったのだが、全く信用してもらえなかった。事象自体が変わってしまった様に、彼の認識も変化していた。

 この出来事から、俺は他の人の手柄を横取りしないよう、出来るだけ善行をしようと誓った。

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