第11話 俺のイメージ的に「準備万端バッチコーイ!」という掛け声はキャラクターに合わないと思ったので少し控えてしまったが、これからは十二分に内心を発露していこうと思う

 そこからの処理は早かった。

 ドンピシャ子からの情報からネズミ講的に協力者が炙り出された。結果、城内の少女達は誰一人として欠けることはなく、元気に走り回っている。協力者達は全てドンピシャ子と同じように何者かによって恥ずかしい写真で脅されており、全ての人々は城主であるやすみちゃんの権限で許された。一応罰を受けるらしいが、内容についてはどうしても教えてもらえなかった。察しよう。


「しかし、何故なのだ?」


 少女誘拐未遂事件から五時間ほど経過した夕時にやすみちゃんの部屋で再びお茶をしていたところ、部屋の主が首を傾げる。


「何故、というのは写真のことっすか?」

「そうだ。何人かの写真を見たが、どれもこれもが自室での姿を盗撮されたものだった。詰問すると、ここ数日の間の写真らしい」

「つまり、幾日も前から盗撮されていたということか」

「ただ謎なのが、それらが設置された跡が未だ発見されていない、ということなのだ。どこかしらに必ず隠し撮影箱があるはずなのだが……」

「全て回収したとは考えられないっすよね」

「じゃあまだ城内にいる可能性もあるな」

「うーん……ただ、城内に侵入者がいた報告はないのだ。ここ一か月ほどで外部からの客人を招入れたのは姫子とアッキーだけなのだ」

「じゃあ姫子が犯人なんじゃないのか?」

「失礼しちゃうっすね。ヒロインが犯人なんて容易な展開になるはずがないじゃないっすか」

「え? この物語のヒロインはやすみちゃんだろ?」

「うぇっ? せっかくアッキー探しに異世界まで行き来したのにその扱いっすか!」

「むしろ姫子はマスコットキャラクター的なアレじゃないか? 使い魔的な」

「関西弁で喋ってやろうっすか?」

「微妙にチョイスが古いな」

「ほにゃにゃ――」

「やめろ」


 俺でも知っているレベルだ。版権に抵触する。


「話を戻すけれど、内部に共犯者がいる線は薄いと思うよ。多分、各自で脅されているんだと思う」

「誰から脅されているのか、ってのはもう分かっているな」


 やすみちゃんの目つきが鋭くなる。


「あの風雲城だろう。あれが近づいた途端にこの様だ。噂通りだったな」

「城主とか情報はないのか?」

「城主に関しては一切の情報がないのだ。姿を見せないどころか、噂すら一つも立っていないのだ」

「気配を消すのが上手いのか」

「案外、その城主が直接来て盗撮していたりしていたのかもしれないっすね。……あ、やすみちゃん! 後ろ後ろ!」

「きゃっ!」


 乙女の声が聞こえた。

 ギャップに萌えた。


「もうやめてくれよ……びっくりしたじゃないか」

「やっぱりやすみちゃんがヒロインだな」

「ひろいん、というのが何かは判らないが……褒められている気がして嬉しいぞ。えへへ」

「ライバルに花を持たせる結果になっちゃったっす……もうモブキャラでいいっす……」


 姫子が拗ねた。放っておこう。


「さて、真面目な話に移行しようか。――これからどうしようか?」

「決まっておろう。風雲城に乗り込むぞ」

「まあ、待て待て。よく考えて策を立ててからにしたらどうだ?」

「私は怒りに震えておる。明日の朝まで待てん」

「分かった。じゃあ今行こう」

「ああ。――皆の者、出立の準備だ!」

「ちょっと待つっす!」


 姫子が水を差す。いいテンポだったのに。


「どうしたモブ子?」

「扱いが段々ひどくなっているっす! でも快感だから良いっす!」

「早く要件を言って」

「まずはアッキー!」


 姫子が俺に指を突きつける。


「策を立てろと言ったのに一行で態度を翻さないでくださいっす! 意志薄弱な奴に見えるっすよ!」

「一応、そうした理由はあったんだが……まあ、その、ごめんなさい」

「そしてやすみちゃん! 出立の準備って何を言っているっすか! ノリで言わないでくださいっす!」

「えと、その……すまん」

「ん? 何で駄目なんだ? 出立の準備を進める分には構わないと思うんだけど。まあ、急ぎ過ぎっていうのは確かにあるんだろうけどさ」

「それ以前の問題っす。やすみちゃん、映像見せて」

「あ、ああ。こっちだ」


 やすみちゃんに案内されて、隣の部屋へと移動する。


「ここが監視室だ」


 監視室に入った瞬間、俺は言葉を失った。

 正面に画面が多数配置。

 外側の様子があらゆる角度で映し出されている。

 中央に位置する所に複数人が降り、マウスをクリックして監視体制を続けている。

 どう見ても、サイバールームだった。


「……カタカナ、何で普及していないの?」

「私に全てを求めないでくださいっす。あ、全てを身体で求めてもいいっすよ」

「うむ。映像箱と電気箱を利用した、我が国最先端の科学の結晶だ」


 やすみちゃんが胸を張っているが、流石の俺も戸惑った。世界観がぐちゃぐちゃだ。こんなの初めてだ。


「とりあえずこれを見るっす」


 姫子がモニタの一つを指差す。


「ああ、成程」


 そこに映っているのを見て俺は納得した。


「風雲城って――


「そうっす」


 それでは出立も何も出来ない。移動城と聞いた時にここまで想像できただろうに。


「この世界に気球とか飛行機とか浮遊する技術はあるの?」

「ないっす。だから風雲城は完全なロストテクノロジーっす」

「そうか……うん。何となく理解した」


 くるくると指を回しながら、俺は二人に問い掛ける。


「じゃあ、行こうか。風雲城」

「え……?」


 二人の表情が硬直する。

 数秒後、先に動いたのは姫子だった。


「さっきのは話を聞いていたっすか! 風雲城は浮いているんすよ!」

「うん。把握した。だからどうしたんだ?」

「どうした、って……だから風雲城は今まで、疑われていても誰も辿り着けていないから真実が不明なんすよ!」

「そうなんだろうな。容易に想像がつく」

「だったら――」

「でも、風雲城の中に行く方法はあるだろ? ――少なくとも二つは」

「えっ?」


 仰天する二人に向かって、俺は人差し指と中指を立てて問う。


「さて、『』のと『』の、どっちにしたい?」

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