第19話 俺の過去に伏線があったのでもう一度見直してほしいというお願いなのは、ぽっと出の登場人物ラスボスという展開ではなかったことを改めて強調したいのだが正直忘れていた。すまん。

 小学校一年生。

 その時の同級生。

 俺が能力を使って、影を薄くさせてしまった少年。

 タケシ君。

 佐藤という苗字で、出席番号が次だっただけなのに。


「僕のことを覚えていてくれたんだ。えっと、前の席の佐藤君……あれ? 何故か名前が口に出来ないんだけど。というか身体が拒否している気が……」


 そこまでトラウマになっていたなんてごめんね。後で謝るよ。


「っていうか何で君がここにいるの、佐藤君?」

「君も佐藤だろう、タケシ君。それはこっちのセリフだ」


 なあ、と俺は姫子に訊ねる。


「ここは異世界だよな?」

「少なくともアッキーのいた世界とは別世界っす」

「そういうことだ。俺はこの姫子に連れられてここに来た」

「そうなんだ。僕は気が付いたらここにいたんだよ。一年くらい前かな」

「一年前?」


 そんなに前からこの世界にいたのか。


「あはは。この世界って暦がないからね。どれくらいたったのかもう覚えていないんだよ」

「そうなのか。大変だな」


 俺は微塵も感じていない再会の懐かしさを装う適当な相槌を打ちながら、タケシ君に訊ねる。


「タケシ君は、ここの城主なんだよな?」

「あ、うん。そうだよ。風雲城は一応、僕が城主になっているね」

「ここの技術も?」

「浮遊はそうだね。僕、気球とか飛行機とか空飛ぶものが好きだから」

「ロボットは?」

「ロボット? ああ、冬香ロボのことね。あれはここの人達の技術の粋だよ。僕は何もしていない。この世界って文化が進んでいるのかそうじゃないのか分からないよね」


 あははと笑うタケシ君。そこに邪気は含まれていない。

 だからこそ、理由が判らないことがある。


「じゃあ本題だ、タケシ君」

「なに?」

「何で幼女をさらうんだ?」

「………………え?」


 タケシ君は口をぽかんと開けて停止する。


「いやいやいや、どういうこと? っていうか何のこと?」

「どういうことも何も、俺達がここに乗り込んで、君の敵になっている理由が、それだ」

「何で幼女を攫わなくちゃいけないのさ。知らないよ」

「知らないではないだろう!」


 ダン! と床を大きく鳴らして、やすみちゃんが怒りを露わにする。


「風雲城に幼女を攫われた城は数々ある! 私の城のろりも攫われかけた! 隠し撮りをされて家臣も傷ついた! これだけのことを風雲城にされているのだぞ!」

「……ちょっと待って」


 タケシ君の表情が険しくなる。海パン一丁なので絵としてはあまり締まっていない。顔だけのアップで見てあげよう。

 話は、本当に真剣なのだから。


「本当? とは聞かない。君達の表情を見れば嘘をついていないことは分かる。だから、対外的に見ればこちらが言われた通りのことをしているのだろう」

「お前は知らなかったと言うのか!」

「恥ずかしながらその通りだ。だから――」


 そう言ってタケシ君は扉の前から離れ、


「知っていそうな人物に訊ねる」


 速足でやすみちゃんの元へと向かう。


「なっ……何を!」

「さあ、話してもらおうか」

「い、いやあああああ!」


 あ、これってやすみちゃんの身体に訊く、っていうやつか。寝取り展開か。

 ――なんて心配は無用だろう。

 タケシ君のその手は、やすみちゃんの後ろに伸びていたからだった。

 そして、何もない虚空を掴む。


「――冬香!」


 冬香?


「さっきのロボットの奴か?」

「ロボットはただの番人だよ。この子をベースにした、ね」

「この子って誰だ? 何も見えないぞ」

「信じられないかもしれないが、今の彼女の状態は、存在の薄い僕しか見えないんだ。――ほら。姿を現して」

「……はい」


 その声と共に、タケシ君の手の先から徐々にフェードインしてきた。

 その顔は、先程にやすみちゃんが勝負したロボットを、そのまま人間にしたような形であった。実際はロボを本人に似せたというのが正しいのだろうが。

 そして彼女は全裸だった。


「な、何で裸なんすか!」

「まずツッコミをする所そこか、姫子。突然現れたことには何もないのか」

「だって能力に決まっているじゃないっすか。それより、この世界でも服を着ていないことは異常なんすよ」

「そういうものか? 普通は女性しかいないんだろ?」

「この世界は『胸が小さいことや放送できない所の色が悪いことを隠したい』、『そうだ布で隠そう』っていう流れで生まれた文化なんすよ」

「若干アウトな表現があったようだが、それって女性同士でも気にするの?」

「気にする気にしないという意味合いだけじゃないっす。言うてしまえば――男だらけの空間でパンツ脱ぐっすか?」

「脱がない。ごめん」


 もっと危ないことになることが確定だ。想像もしたくない。


「だったら、何で彼女は脱いでいるんだろうな、ってツッコミになるな」

「決まっているだろう。能力が自分の透過なのだから、服着ていたらバレてしまう」


 と、堂々たる姿で人間の冬香は答えた。勿論、裸のままである。

 タケシ君が深い溜め息をつく。


「というか、いつも君は服なんか着ないでしょ。僕がいくら言った所で直さないんだから」

「いくらタケシ様でも、これだけは譲れないのです!」

「もう諦めたけどね」


 でも、とタケシ君は再び眉を吊り上げる。


「冬香。僕に報告していないこと、あるよね?」

「あ、えっと、その、な、何のことでしょうか……?」

「そんな見るからに焦った様子を見せることはないだろう。他城の幼女を誘拐していたって話、どういうことか聞かせてもらえる?」

「……」

「冬香」


 優しく、諭すようにタケシ君はひざまずいて語る。

 海パン一丁が全裸にかしずいているのは、シュールな光景だ。直視できない。


「僕は君が何をしようと間違っていたことをしていたとしても、是正はするけど味方ではいるつもりだ。君に嘘をつかれることの方が嫌だ」

「うっ……」

「正直に、話してくれるかな?」

「……………………申し訳ありませんでした」


 全裸で土下座した。完全にアウトだ。

 冬香は絞り出すように語り出す。


「最初は……最初は普通に勧誘しようとしたんです……ですが……」

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