第13話 俺の想像するモーゼはおじいさんのイメージだが、モーゼだって若い頃はあったのは間違いないようでモーゼみたいと言われて喜んでいいか分からないが結局そんな風に呼ばれることはないと結論付ける

 そこからはかなり順調であった。

 狭い通路を攻めてくる相手に対し、俺は自己紹介しながら進むだけで相手は無力化する。

 まるでモーゼが海を割ったみたいに、左右で平伏していく。


「いやあ、なんか面白みがないっすね。チートすぎて」

「だって、そういう能力持ちなんだから仕方ないだろ。やらなかったらやらなかったで『最初からやれよ』って言われるんだから」

「途中で覚醒、ってパターンがあるじゃないっすか」

「あれも都合よく目覚めすぎだよね。理由がある方が好きだな」

「どんなっすか?」

「発動が時間制で戦っている最中にリミットが来るとか、一度死ぬと発動する仕組みになっているとか、特殊状況に合致しないと発動しないから主人公が偶然じゃなくてコツコツ発動条件を満たす工夫をするとか」

「あー、いいっすね。そういうの私も好きっす」

「二人とも何の話をしているのだ」


 質問ではなく嘆息の言葉を吐くやすみちゃん。完全に呆れた様子である。


「まあ、この状況であれば、全く意に介していないことにも納得をせざるを得ないのだが。まさか救世主殿は本当に神の化身なのか?」

「いやいや。普通のどこにでもいる男子高校生ですよ」

「この世界では高等教育という概念が無いっすから、高校生って言っても通じないっすよ」

「あ、そうか。それは失敬した。カタカナじゃなきゃ何でもありだと思っていたよ」

「ぐぬぬ……『普通のって方にツッコミを入れろよ』っていうツッコミを待っていたのに回避されたっす」

「何でもかんでも自分に受け取るよな。そこが姫子のいいことだし、全然ダメなとこでもあるんだよな」

「今、全然ってつけたっすよね! 大分意味合いが異なってくるんすけど!」

「本当に仲が良いな。お主ら二人は」


 微笑ましそうに、そして少し寂しそうな目でこちらを見てくる。ヒロインの嫉妬ってやつかもしれない。可愛い。


「いや、仲がいいとか、私は思っているっすけど、アッキーはどうか……」

「仲いいぞ。俺と姫子は」

「えっ?」


 ぱぁっと顔を明るくさせる姫子。可愛い。


「友達止まりだけどな。恋愛に発展するのはマレだと思われる。これからも仲良くしようぜ、姫子」

「サブルートじゃないっすか……」


 がっかりした様子で抗議してくる姫子。ぞくぞくする。あれ、俺ってSだったんだ。今更だけど、気が付いちゃった。いや決して俺はSではないはず。ならば、M過ぎる姫子が悪いということだ。


「結論から言うと、姫子が悪いってことになった」

「脳内会議の結論をいきなり言われても訳が判らないっすよ! 話が飛び飛びっす!」

「うん。意識もちょっと飛んでいた。おっと。佐藤明――『俺だ』」


 物陰から飛び出してきた水着の熟女に向かって平伏させる。身のこなしが凄かったので忍の人間なのかもしれない。


「あ、そういえばみんな刀とかで切り付けてきてるけど、飛び道具ってないのかな?」

「手裏剣とか投げ刀はあるっすけど、鉄砲系はないっすね。戦闘の系譜が変わってしまうので、そういう発展の仕方は止めているっす。文書とかも流布していないっす」

「この文明レベルだと、いずれ近いうちに出てくるだろうけどな」

「それでも今は無いっす。それでいいと思うっすよ。戦闘ってのは。――誰が誰を、っていうのが判りやすい形の方が」


 姫子が少し翳りのある、自嘲気味の笑みを見せる。

 もしかすると彼女は、戦闘で何か心に傷を負うことがあったのかもしれない。

 ……あまり触れないでおこう。


「ん、話がちょっと変わるけど、やすみちゃん。姫子のような能力者って結構いるのか?」

「いいや。姫子や救世主殿のような特殊能力を保持している人間は数少ない。私の城にも指で数えることが出来る程度しかいないぞ」

「実用的なモノからそうでもないモノまであるっすが、前者は本当に少ないっす。半蔵子ちゃんとやすみちゃんくらいっすかね」

「え? やすみちゃんも能力持ちだったの?」

「能力がないと、この若さで頭は張れないぞ」

「やすみちゃんの能力って何?」

「それは……」


 と、ちょうどその時、俺達の目の前に『一の間』と書かれた、いかにもという重厚な扉が見えてきた。


「ちょうど良いな。次の部屋で見せるとしよう」

「戦闘向きなんだ」

「特に室内で効果を発揮するものだ」


 そう言ってやすみちゃんは扉に手を掛け、先へと進んだ。

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