第9話 俺のヒロイン登場
眼前の黒の時間はほんの少しだった。
瞬きの間に、屋上から景色はすっかりと切り替わっていた。
「ほう、これはこれは」
視線の先には平原や山々が広がり、その向こうには所々集落のようなものも見られる。
だがそこには機械的な――例えば高層ビルや自動車などは、全くと言っていいほど無かった。
「言い例えるなら『戦国時代』だな」
「正解っすすすすす」
俺の隣で、姫子がそう告げる。
「ここはアッキーの世界での戦国時代に近いっすすすすすす」
「へえ。そうなんだ」
「あんまり驚かないっすねええええ」
「ていうか、さっき語尾がおかしいよ。どうしたの?」
「そんなの当たり前っすすすすすす」
だって、と彼女は真下を指差す。
「私達――落ちてるっすよおおおおおお」
「うん。知っている」
実は伏線を貼っていた。景色について述べていた時、明らかに高い位置からではないと言えないようなセリフを口にしていた。まあ、どうでもいいけど。
とりあえず、屋上にいたんだが目を開いたら自由落下をしていた、という流れである。
「まあ、地上まで距離あるしね。だから焦る必要はないよ」
「焦る必要あるに決まっているじゃないっすかああああああていうか風圧でまともにしゃべれないっすよおおおお」
「大丈夫。語尾以外はきちんと翻訳してあるから。ついでにそっちにも伝わるようにしてあるから」
実際だったら先程の最初の方のセリフは「あしぇるひぇつようありゅにきまっているじゃばいっふはー」というように耳に入る。
「っていうか何で正座しているんすかあああ落ち着きすぎっすよおおおおおおお」
「それは姫子を信じているからだよ」
「へ?」
「さっきの屋上での金網」
目を丸くする彼女に俺は追想して追及する。
「あの時、君は真横から金網に突っ込んだよね? その金網と君は通常ではありえない状態になっていた。具体的に言うと――君が穴を空けた箇所はまるで傷つけないように異様に丸められていた。そして君の制服に、破れどころかほつれすらなかった」
先の映像を脳裏に思い浮かべる、。
「中でも一番気になった所は、君は金網には触れていなかった、って所かな。完全に浮いていた。まるで見えない何かが挟まっているかのように」
伊達に白い布だけを見ていただけじゃない。きちんとそこも向いていた。
「ついでに言うと、今、上空から落ちているのに翻らないスカートや、上流に流れない髪とかも気が付いているよ。だから無理して震えた声を出さなくていいよ」
「……ちぇっ」
舌打ちをして、彼女は普通にしゃべる。
「そこでアッキーは『うわああああ』と情けない言葉を放ちながら落ちて行って、直前で私が助けてアッキーは感謝するけど異世界に戸惑う、っていう展開になるはずだったのに……どういうことっすか!」
「うん。そこはごめんね」
謝罪を口にしつつ、人差し指を下に向ける。
「解せないとは思うけど、そろそろ対処しないと地面にぶつかりそうだし、とりあえずはその何かの能力で俺を守ってくれない?」
「了解っす」
一つ頷いて姫子は手を広げる。
すると彼女の周りに、何やら泡のような膜が出来る。
「ほい。ここに入ってくださいっす」
手を引っ張られる。必然的に彼女に抱き寄せられる形となる。
「役得役得」
「それ、私のセリフっす!」
「違うだろ」
冷静なツッコミをしつつ、周囲の環境が変化したことを知覚する。
感じていた風は一気に無くなり、自然落下から段々とスピードが緩やかになる。
「凄いな、これ。どういう理屈なの?」
「理屈じゃ判んないっすけどね。まあ、カッコよく言うと、能力っす」
くるくると人差し指を回す。
「生まれ持っての能力で、私は――【あらゆるモノを捻じ曲げる】ことが出来るっす」
「あらゆるモノを捻じ曲げる?」
「そうっす。今のこれも『落下する』というモノを捻じ曲げて、ふわふわとさせているっす。因みにアッキーの世界との行き来も『空間』を捻じ曲げることでやったっす」
「それってチート過ぎないか?」
「但し使うたびに寿命が減るっす」
「すぐさま能力の使用を止めて」
「そして婚期も遅れるっす」
「すぐさま能力の使用を止めて」
「何で命と同じトーンなんすか、もう。冗談じゃなかったらへこんでいるとこっすよ」
「冗談なのか」
「当たり前じゃないっすか。自分の寿命を減らすような能力なんて、こんな頻繁に使うわけがないじゃないっすか」
「それ、逆に本物フラグっぽいぞ」
「うがーっ! じゃあどんな風に言えばいいんすか!」
「お、そろそろ地上だな」
地団駄を踏む彼女を無視して下を見る。いつの間にか、草の生い茂った地面までおおよそ三メートルといった所まで下降していた。
そのままゆっくりと足を付ける。
「ありがとう。助かったよ」
「いえいえ、どういたしましてっす」
「さて、と」
俺はひとつ伸びをして彼女に訊ねる。
「姫子、これから何をすればいいの? っていうか、何で俺、この世界に連れてこられたの?」
「うう……なんか色々と飛び過ぎて話判んないっす。メディアミックス化された際、『はしょりすぎ』『いやこれ原作通りだから』っていうやり取りされるっすよ!」
「うん。全部俺が悪いんだけどね」
「そうっすよ! アッキーの反応が全部テンプレから外れるのが悪いっす! 説明するタイミングや場面を逸しているっすよ! 巻き込まれ主人公を演じてください!」
「まあいいじゃない。テンプレから外れるような奴がいてもさ。最近、テンプレに飽きられている節があるし」
「だとしても、アッキーは異常っす。冷静過ぎるっす……」
至極もっともな言い分なので言い返せずに頭を掻いていると、姫子は「ま、いいっす」と一つ息を大きく吐く。
「どこから説明した方がいいっすかね。……まずはあれっすか。私がアッキーを探しにきた所からにしましょうか」
彼女は大きな胸を張る。
「何でも答えるっすよ。……あ、何でもするっすよ」
「じゃあ、どうして上から突っ込んで来たの?」
「言い直したのにボケスルーはきついっす……で、答えるっすけど、それは空間を捻じ曲げて移動した際に、Z軸座標の細かい設定が出来ないからっす。だからある程度マージンを持たせて、何もない上空から降ってきたっす」
「ホーミングしてきたのは?」
「屋上を壊すのはさすがにまずいと思って『引力』を捻じ曲げて、これまた捻じ曲げた『金網』に横向きで突っ込んだだけっす。ホーミングはしていないっす」
「浮いていたように見えたのは、『空気』を捻じ曲げてクッションのように間に入れていた、ということなんだな」
「多分そうっす。……ってかどういう理屈で出来たのかはよく分かんないっすけど、なんか出来たっす。偶然っす」
「そうなんだ。へえ。じゃあ次」
「どんとまいんど」
「どうやって俺の名前を知ったの?」
「だからツッコミを……って、え?」
そこで何故か彼女は目を丸くする。
「ん? どうして俺の名前を知っていたのか、だよ?」
「あ、アッキーの名前っすか……そ、それは……」
「何故言い澱む?」
「は……恥ずかしいっすよ! 何を言わせるんすか!」
「はあ? どうやって名前を知ったか、その過程のどこに恥ずかしがる要素が入り込むんだ?」
「全く……乙女心が判らん人っすね! 朴念仁! ギャルゲーの主人公!」
「誹謗中傷しすぎだろ」
「お願いっす。生おっぱい見せるからそこに追及しないでほしいっす」
「恥ずかしさの基準が判らん」
見たいけど我慢しよう。
「まあ、いいや。そこはもう聞かないよ。我慢する。だから生おっぱい見せて」
「あれ? なんか地の文と合っていない気がするっすよ……ってか返答が意外っす……」
「さあ、俺の名前を知った方法は聞かないぞ。だから見せるんだ。ほれ生・おっ・ぱい。生・おっ・ぱい」
「キャラがいきなり変わり過ぎっす! 読者は付いてこれないっすよ!」
前方に両腕を構えて、姫子は何故か近寄ってくる。普通逆だろ。距離を開けるだろ。
「さて、冗談は置いておいて、本題に入ろうか」
「冗談だったんすか……びっくりしたからおっぱい出そうとしちゃったっす」
「それは惜しいことをした。で、本題なんだけど」
俺はふと足元を見る。
――そういえば学校から来たから、上靴のままだな。まあ、別にいっか。
「あ、今、くるぶしのこと考えていたっすね! そうっすね!」
「本題に入るまでが長いなあ」
「あ、すいませんっす。真面目モード突入」
キリッと眉を上げて、彼女は正座する。
「さあ、どうぞ」
「うん。あのね」
俺も正座をして、彼女に問い掛ける。
「この世界に、どうして俺を連れて来たの?」
「アッキーが特殊な能力を持っているからっす」
「どうして知ったの?」
「恥ずかしいので言えないっす。おっぱい見せるので許してください」
「真面目モード終了早いな」
「いえ、真面目な話っす。キリッ」
「まあいいや。――俺という人間がここに呼ばれた理由は分かったけど、どうしてそういうような能力を持っている人間をこの世界に連れて来たの?」
「簡単に言うと――」
彼女はごくりと喉を鳴らし、間をたっぷり開けて、次のように告げる。
「――この世界を救ってもらいたいからっす」
「ふうん。そうなんだ」
「……アッキーは本当に何でそんなにリアクション薄いんすか? たっぷり行数あけて傍点も振って、いかにも重要なセリフだというアピールしたっすのに」
「ごめんごめん。おっぱい見せるから許して」
「マジっすか!」
「何でそこまで食いつきがいいんだよ」
俺は肩の力を抜く。
「まあ、それは置いておいてさ。君は俺に、この世界を救ってほしいんだよね?」
「その通りっす」
「ならば教えてほしいんだけど……この世界ってどんな世界? さっき俺の世界の戦国時代に近い文明って言っていたけど」
「んー、まあ、ぶっちゃけて言えばそのまんまっす。名前とかも似たようなもんじゃないっすか?」
「似たようなものって?」
「うーん……あ」
そこで姫子は俺の背後を指差す。
誘われて思わず後ろに視線を向けると、何やら馬に乗ってこちらに向かってくる一団が見えた。
「論より証拠っす。彼女に聞きましょう」
「彼女?」
目を凝らして良く見ると、先頭に立って一団を率いている一騎の馬に騎乗しているのは、鎧を着こんだ女性であった。
やがて彼女らはあっという間に俺と姫子の前まで辿り着き、馬から降りる。
近くで見るとその女性は、非常に可愛らしい顔をした、まだ少女と呼べる容姿をしていた。しかし、凛とした表情で髪を後ろで一つに括っている様子は、群を率いている将としての雰囲気を十分に醸し出していた。
「久しぶりだな、姫子。……と言っても、国を離れてからまだ数日か」
「お久しぶりっす!」
イエーイ、と手を合わせる姫子に彼女も顔を綻ばせる。が、すぐにその表情を引き締める。
「……で、こいつは誰だ?」
「アッキーっす」
「アッキー?」
少女はじろじろとこちらを観察してくる。
「まさかこいつが、お前が探すと言って出て行った、私達を救う、救世主様とでも言うのか?」
「そうっす」
「そうは見えんのだがな。弱そうだし、胸ないし、なんか声低いし……」
「そんなことないっす! アッキーは強いっすよ! 頭いいっすよ!」
「さっきからずっと黙っているじゃないか。交渉力も無さそうな奴だな」
「……ふむ」
俺はそこで姫子に問い掛ける。
「これは言語を捻じ曲げて、俺にも理解できるように翻訳している?」
「いえ、そんなことはしていないっす」
「成程。じゃあこれは本当に、昔の日本そのままなんだな」
「ん? 何を言っているんだ?」
眉を潜める少女に、俺は声を掛ける。
「君の名前を教えてもらってもいいかな?」
「はあ? いきなり何を言い出すんだ、こいつは」
「こいつ、って名前じゃないんだけどね」
「ならば貴様から名前を教えろ」
「うん。じゃあ姫子、俺の名前を教えてあげて」
「はいっす。……皆皆の者控えおろう! この方を誰だと御覧じる!」
「いや、それが分からないから訊いているのだが……」
「この方は大して有名じゃないけど私の中では有名無名! 佐藤明と――」
「『俺だ』」
そこで突然、彼女は膝を地に着けた。
「くっ……な、なんだこれは……か、身体が勝手に……」
「おお、結構頑張るね。すごいよ」
俺の能力にここまで抵抗するとは、よほどのプライドがあるんだろう。生半可じゃない覚悟で、この一団を率いていることがここでも伝わってくる。
「だ、だが、何故だ? 段々と気持ち良くなって……ははー」
……どうしよう。何か変な扉開かせちゃったかな?
そんな心配をしつつ、俺は彼女に問い掛ける。
「君の名前を教えてくれないかな」
「
「……さすがに安易すぎないか?」
「わ、私に言っても仕様がないっすよ」
戸惑いの表情を浮かべる姫子。
「……ハッ! 何故私はこんなことを……」
「別に記憶はなくしていないから、分かるでしょ?」
「ぐぬぬ」
悔しそうに顔を歪める家康美。
「この私を屈服させるとは、余程の器……さぞかし名のある武将と存じ上げる」
「いや、さっき言ったじゃん。名前。知らないでしょ?」
「おお、そうだったな。貴殿の名は佐藤明と――」
「『俺だ』」
「ははー」
「俺のことはアッキーでも救世主殿でもいいから名前以外で呼んでくれ。――他のみんなもだ」
頭を下げる一団に向かって俺は告げる。これでテンポは良くなるはずだ。
「アッキー……良い名だ」
「あだ名だよ」
「決めた」
家康美は顔を上げ、潤んだ瞳で俺に告げる。
「私は貴殿に付き従うことにした。救世主殿」
「ちょろいん」
「ちょろいん」
「だよな。会ってすぐ土下座して落ちるヒロインとか逆に新しいんじゃないか?」
「まじでないっすわー。落ちるの早すぎるっすわー。ありえないっすわー。歴代ちょろいんナンバーワンっすわー」
「姫子まで……ぐぬぬ、なんかよく分からない言葉なんだが、物凄く頭に来ているぞ!」
むきー、と地団駄を踏む家康美。
「ほんとちょろいっすね。私はこんなにも早くデレるヒロインを見たことがないっすよ」
「ひろいん、っていうのが何かは判らないが、私を馬鹿にしていることだけは分かった」
「馬鹿にしていないっすよ、『やすみ』ちゃん」
「ぐぬぬ……」
「やすみちゃん?」
「家康美ちゃんって言いにくいじゃないっすか。だから後ろを取って『やすみ』ちゃんっす」
いえやすみちゃん。
やすみちゃん。
「成程。言いやすいね。俺もそっちで呼ぼう。やすみちゃん」
「い、いきなり名前でだなんて、大胆な奴だな……」
頬を上気させるやすみちゃん。ちょろいんすぎる。
「さて、姫子さんや」
「唐突に何っすか、アッキー?」
「ようやく一つ、ツッコミをさせてもらうよ」
息を大きく吸って、俺は彼女に訊ねる。
「この世界って女性しかいないの?」
先程から描写は一度もしていないが、やすみちゃんが連れているメンバーも、全員女性であった。しかもなかなかに可愛い。
「そうっす。男って概念がないっす。最近流行りの『戦国武将の女体化』ってやつっす」
「そんなものが流行っているのか」
「中でも人気は織田信長で、大抵主人公かヒロインっす」
「気持ちは分からないでもないな」
織田信長、って一番有名な武将だと思う。やっていることも、その生涯の最期も有名で、まさに時代を駆けたと言っていい人物である。
「――とまあ、ここまで言いましたが、実は有名武将と名前が被っているのはやすみちゃんだけっすけどね」
「そうなの? 信長は?」
「近い名前の人は、田舎で大根作っているっす」
「大根ソードか。男の夢だな」
「……私はアッキーのキャラが判んなくなったっすよ」
「さて、冗談は置いておいて。――そういえば、ちょっと疑問に思ったことがあるんだけど」
「ん? 何だ?」
やすみちゃんが反応したので、俺は彼女に訊ねる。
「子供って、どうやって作るの?」
「なっ!」
顔を紅潮させるやすみちゃん。その横の姫子は、じと目でこちらを見てくる。
「……これを素で聞いているのならば、アッキーは相当な変態っす」
「じゃあ変態だな」
「開き直ったっすっ!」
「あの、えと、それは、その……」
やすみちゃんがもじもじと身体をくねらせる。
「それは私と、子作りをしたい、という意思表示で――」
「いや、ただ単に女性しかいないこの世界で、どうやって子供を作るか気になっむぐ」
「アッキー」
姫子が素早く俺の口を塞いで小声で囁く。
「……本当に訊きたいっすか?」
「うん」
「本当にっすか? ――Y染色体生成、バイオテクノロジー、授受ランダム、接合器――という単語を聞いてもっすか?」
「……あー、大体分かった」
予想以上にグロテスクな話になりそうなのは。
「接合器は、私は使ったことないっすが、相当気持ちいいらしいっす」
「私も使ったことないぞ。まだ十五歳だからな。持っているけど」
やすみちゃんに握られてみょんみょん動く物体。モザイク処理をさせていただこう。
「しかし、いよいよ使う時が来るとはな……」
やすみちゃんが何か寝言をほざいているが聞かなかったことにしよう。可愛いからこちらとしては大歓迎なんだけど、流石に節度と環境を考えると、ここは発情すべきではない。
「じゃあ話を変えて、本題を聞こうか」
「今夜のことか?」
「君達の危機、ってやつをさ」
その言葉に、やすみちゃんの表情が引き締まる。
「……そうだよな。救世主殿はそのためにここにいるのだからな」
だが、と彼女は後ろを振り返る。
「こんな場所で話すのも何だし、私の城で何か飲みながらでもお話ししよう」
「やすみちゃんは城主なんすよ。モノすっごい大きなお城っすよ」
「へえ、それは見てみたいね。お願いしようか」
「承知した。では救世主殿、こちらへ」
そう言ってやすみちゃんは手を拱いて、俺をひときわ大きな馬の前まで連れてくる。
「どうぞ、私の馬を使ってください」
「ありがとう」
「いえいえ」
微笑む彼女に礼をして、俺は馬にまたがる。
と、直後、やすみちゃんも馬に乗り、俺の後ろにつく。
柔らかい。――と思ったら固い。
鎧め……。
「ちょ、ちょ、ちょっと何やっているんすか! やすみちゃん!」
「何って、こうしないと私も向かえないではないか」
「だからといってそんなにくっつくとかありえないっす! 私も乗るっす」
「姫子は空を飛べるのだから、それで行けばいいじゃないか」
「アッキーも飛べるっす!」
「飛べないよ」
「飛べないって言っているぞ」
「嘘つかないでほしいっす! だってアッキーは――」
そこでハッとしたように、姫子は口を噤む。
「……どうしたの? 別に俺の能力を口走るくらい、問題ないけれど」
「い、いえ……何でもないっす……」
歯切れの悪い彼女の様子に首を傾げていると、
「では姫子、私の城で会おう」
「ハッ! いやそれはともかくとしてやすみちゃん――」
「行くぞ皆の衆! はあっ!」
「待ってくださいっすううううう」
徐々に小さくなる姫子の悲鳴を耳にしながら、俺の乗る馬を先頭とし(手綱はいつのまにかやすみちゃんが持っていた)一同は草原を駆け始めた。
「……いいのかな」
「いいのだ。姫子はあのような感じで」
やすみちゃんは、ふふと笑う。耳元なのでくすぐったい。
「どちらにせよ、二人を乗せられる馬などこの『轟王』以外にはいないのだから」
ヒヒン、と得意そうに鼻を鳴らす轟王。
「そうか。すまないことをしたな」
「いえ、救世主殿は悪くない。それに姫子はああいう扱いをされた方が何故か喜ぶのだ。しかも私達より早く目的地に着くし」
「それは色々と変わっているな」
「うむ、一際変わっているんだ、彼女は」
苦笑した所で姫子の声が上から聞こえた気がしたが、多分幻聴だろう。
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