第14話

ショックだ。

俺にとって、今はその言葉しか無い。

仲間と思っていた奴らに。

散々馬鹿にされて。

そしてこの場まで嵌められた。

まさか下村が春樹と。

彼氏と組んでいるとは思ってもおらず。

って言うか。

今なんつった。

此奴。


「俺を殺すだと。.....どういう事だ」


春樹に問いをかける、俺。

本当だ。

何故、俺が殺されなくてはならない?

さっぱり意味が分からん。


「はっきり言う。俺はお前が気に入らない。疎ましく思っていたよ!お前の存在がな!」


「.....うーん。何だかよく分からないけど、それって逆恨みなんじゃ無いのー?」


黙れ。

と春樹は一言、放つ。

そして話を続けた。

此奴。


「.....?」


「警察っていう金持ちで、家族もきちんと居て、彼女も居て!!!!!ボンボンのお前が俺にとっちゃ疎ましいんだよ!!!!!ハナっから家族が居なくて苦労した俺にはな!!!!!」


この馬鹿野郎は何を勘違いしてやがる。

確かに俺は警察の、しかも結構上ランクの警察の息子だが。

金持ちって訳じゃねーぞ。

だけど。


「.....」


まさかだった。

此奴は孤独だったのか。

それでなのか?

偶に家族関係で弱音を吐いていたのは。


「.....だから、まゆ、がお前に再会した時!まゆ、とならちょうどいい。今までの鬱憤を晴らす為に疎ましいお前に分からせてやろうと思ってなァ!!!!!」


それから、地面を蹴り飛ばして。

春樹はチェーンソーを横に薙いで、振りかざしてきた。

だが、それを。

飛び出した咲が鉄パイプで誘導して、力任せに地面に思いっきりチェーンソーの刃を叩きつけた。

そして直ぐに左手の拳を勝ち誇った奴がやるみたいに。

叩き上げた。

しかし、それを下村が電動ドリルを振りかざして止めた。

駄目だこいつら。

連携が取れてやがる。


「.....お前な!向かって来るなら1人で向かって来いや!!!!!それに男のくせに弱音をべそべそ垂れやがって!気持ち悪い!!!!!」


咲はその様に叫ぶ。

それから目を瞳孔を開いて。

完全に殺し。

そして下村に咲は襲いかかる。

だが。

そんな下村は一瞬の隙で身に付けていたエプロンのポケットから何かを取り出し。

汗をかきながら口角を上げて噴射しようとする。

何!?マズイ!!!!!


「避けろ!!!!!咲!!!!!」


「遅い!!!!!」


プシュー!!!!!


テープの封印が解かれ。

一気に辺りに猛烈な霧が噴射された。

唐辛子の霧。

催涙スプレーだ。

一気に辺りを包み込んだ。

ってか、うわ!

目が!

クソッタレ!


「.....一旦、この場を離れないとマズイか.....!」


「離れようー!悠次郎くん!」


そうして俺達は。

通路が分散している、各コーナーに散り散りに逃げる。

と同時に。

背後から春樹の強烈な咆吼があった。

それは死神の声にも聞こえる。


「刈ってやる。神様もお前も!何もかもをなァ!!!!!」



「はぁはぁ.....」


通路を慣れない足で走りまくり。

汗をかきながら俺が逃げ込んだ場所。

掃除用品のコーナーの様だった。

って言うか、春樹の野郎。

逆恨みにも程が有るだろマジで。

でも、そうは思ってもあれはもう。

何か対策を取らないと。

真面目に、殺されそうだ。


「.....家族が居る事ってそんなに幸せだったんだな.....」


何だか知らないが。


邪魔臭いと思って居た咲の存在が。


背中が大きすぎて追えない親父が。


俺に対して色々駄目口を叩いてきたお袋が。


かなり大きく感じれた。

まさに彼奴の台詞で。

俺は握り拳を作る。


孤独な春樹を助けたい。


「.....」


だが、そうするなら。

このままではバレる可能性が有る。

そして恐らく、父さん達は暫くはこの場に来れない。

だとするなら。

相手にとっては自由自在のこの空間より生き残るのが最優先事項になる。

何か。

手はないか。

春樹はチェーンソーを持っている。


「.....」


ここは掃除道具の売り場。

となると。

恐らくだがあれが置いてないだろうか。

使えるはずだが。



「何処に行った!悠次郎!!!!!」


やはりか。

早速追って来やがった。

俺を。

まぁ、この3人の中で。

集中的に狙うなら当たり前だが、俺だよな。

此奴の狙いは元から俺。

つまり、他の奴らは下村が狩る。

賢明な判断だわ。


「.....」


登った商品棚から。

軽めの色んな蹴とばせそうな物を。

俺は一気に蹴飛ばして、春樹の元に落とした。

だが春樹は。

それを想定していたかの様に。


「甘いわ!クソッタレが!」


小型なチェーンソーな為か。

簡単に飛んだり、当てたり。

叩き落としたり、躱したりした。

甘い?

それはこっちの台詞だ!


バシャン!ツルッ!


ゴォン!!!!!


「ぐあ!イッテェ!!!!!」


春樹は。

後頭部を強打した。

身体にそれが命中して。

見事に足を滑らせて、転けやがったのだ。

俺は手に持っていた、それを見てから。

地面に投げ捨てる。

ワックスの缶を。

業務用の床用のワックスだ。

それを別の軽い容器に入れて。

色々な物を抵抗する様に、蹴飛ばす中。

幾つか、ワックスの入った容器も下に蹴飛ばしたのだ。

恐らく、上から物が幾つか降ってきたら、殆どの場合、躱すだろうと思った。

対策に、幾つかの容器にワックスを分散させたのだ。

因みに、蹴り飛ばした音を発したのも態と。

聞いてもらわなくちゃ意味が無いしな。


「甘いのはお前だ!春樹!」


「.....このクソ馬鹿.....絶対に殺す!!!!!」


チェーンソーを投げ捨て。

後頭部を押さえて、涙を拭う春樹に。

横に有る商品棚の柱に手を付いて、俺は春樹を見下ろして話す。


「お前さ。話を聞けよ。俺だって.....苦労してるんだぞ。家族を持っての苦労を、な!」


「.....お前が苦労だと.....お前如きが!?ほざけ!」


横に手を伸ばし。

チェーンソーにあった、紐の様な物を引っ張り。

エンジンを動かしたのか、立ち上がる春樹。

それから俺の乗っている木製の柱にチェーンソーの刃を打つけてきた。

この馬鹿野郎!?


「降りてこい.....さもなくば俺が叩き落とす!!!!!」


こんなにも恨みって人を変えちまうんだな。

俺は斬られている下の柱を眺めながら。

涙を静かに浮かべる。

そして大黒柱だったのか。

木製の柱はいとも簡単にぶっ壊れた。

そして俺は崩れ落ちる。



























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