第7話

「.....?」


ミシッ


咲の骨が軋む音が聞こえる。

目の前の光景に信じられないと思いながら。

俺は柵を背中に、地面にずり落ちた。

陽子は猛烈な力で咲の両腕を抑え込んでいる様だった。

嘘だろ。

俺がいくら師匠として叩き込む様に警察学校の技を教え込んだとは言え。

咲を止める様なこんな馬鹿力が?

信じられない。


「.....あんた.....離さないとあんたも死ぬわよ」


「.....だからそんな事をされたら困るよー?君がどんな理由があれ、悠次郎くんを殺す訳にはいかないよー?」


その時だった。

咲が地面を蹴っ飛ばして片足を回転させる様に飛んだ。

正確には、飛び蹴り。

その飛び蹴りを。

陽子は左手で受け止めた。

そして勢い良く頭突きをする。

って。

頭突きぃ!?


ゴガン!!!!!


「.....ば.....」


まさか頭突きが飛んでくるとは思わず油断したのか。

強烈な一撃が決まった。

そして。

通路に咲は顔を仰向けにして。

倒れた。



「.....お前.....いつからそんなに強くなったよ?」


咲を背負って、俺は自室でパンツやブラジャーを着せる。

そして服を着せた。

着せ替え人形じゃあるめーしよ。

自分で着てくれよ全く。


「うんとねー?高校2年生の時かなー?その時に気が付いたのー。あ、武道って楽しいなーって。.....それでね、その時に将来の夢決まったよー」


「.....?」


陽子は恥ずかしげにニコッと笑って。

首を傾げる俺に向き、そのまま告げた。


「悠次郎くんを守る仕事に就くよー。そして大好きな悠次郎くんを護るってねー」


唐突な俺に対しての告白だった。

俺は赤面して、俯く。

陽子も恥ずかしいのか、俺から顔を背けて、俺の部屋を眺め見る。


「でも、悠次郎くんには凛さんが居るからねー。手を出したりはしないから安心して。.....でも、この先は気を付けた方がいいねー。その子が居るから」


「.....ああ。だけど大丈夫だ。俺は此奴を改心させる。絶対に」


気絶して大人しくなって居る咲に。

俺は手を添えて、頬を撫でた。

それから、腕を組んで、此方を見て居る陽子に向く。


「有難うな。助けてくれて」


「.....でも、どうするのー?これから。その子は厄介だよー?」


言葉に、俺のベッドで気絶して居る咲を俺は見た。

此奴は妹だ。

だから俺は此奴を。

改心させてやる。

その為には。


「此奴のやった事はマジの本当に頭にくる。だけど.....此奴を改心させるには警察に突き出すより、俺が面倒を見た方が良い。だから.....」


立ち上がる、俺。

そして握り拳を作って。

その場で宣言する様に言った。


「此奴をここに住ませる」


「.....まぁ.....悠次郎くんの妹だから.....よしみだし、良いけどー。それで良いのかなー?大丈夫ー?」


不安そうな顔付きをする、陽子に。

俺は柔和な笑みの顔付きで、言葉を発した。


「大丈夫。陽子、このアパートに迷惑は絶対にかけないから」


「.....うんー。まぁ、それならそれでも良いんだけどねー」


陽子は立ち上がった。

そして柔和な顔付きをして、手をヒラヒラさせて扉を開けて去って行く。

それから、ノブに手を掛けたまま。

言う。


「全ての後始末はしといてねー。面倒臭い事は君を追い出す事になっちゃうからー」


「.....ああ」


ここからが少しばかり大変だな。

咲が此処に住む事になると。

つまりは監視が必要になるな。

春樹にも、凛にも、お袋や親父、その全てに。

迷惑が掛かる。

きちんと説明をしないと。

俺は咲の髪の毛に触れながら。

複雑な面持ちでその場に立ち尽くした。



「お兄ちゃん。朝だよー」


「.....うん.....?」


なんつうか。

レポートを書いていたら寝てしまった様だ。

俺は見開いて天井を仰ぎ.....って。

うわァ!!!!?


「なんだお前!その格好は!!!!!」


裸エプロンのニコニコ顔の咲が居た。

横から胸がはみ出て居る様な俺が使っていたエプロン。

この馬鹿野郎はァ!?


「お前!なんちゅう格好してやがる!」


「裸で誘惑だよ.....お兄ちゃん.....?」


甘い吐息を掛けてくんな!

アホタレ!

巫山戯るなよマジで!


ガチャッ


「.....何だか複雑だよ.....ゆーちゃんに会うなん.....」


「そう言うな。彼奴も妹さんに苦労.....」


凛と春樹が俺の部屋に入って来た。

そして、俺達の様子に固まる。


「.....」


「.....」


此奴らを説得するのはマジで大変だったが、春樹の場合、よしみ。

という事で、チャラにしてくれた。

でも、凛には精神的に深手を負わせた罰として、咲が調子の良い時に咲に頭を下げさせて謝らせた。

まぁでも。

俺の部屋に住む事が決まって調子が良いとは言え咲のブーイングは凄かったな。

親父とお袋の説得が難関だったが、一応説得が出来た。

状況を見てなかったのが一応、幸いした様で。

とは言え。

これはちょっとその。

またマズイな。


「.....いや.....その.....」


「おま.....この.....凛の前で何やってんのぉ!!!!?」


俺に対して、擦り寄って来ている咲を止めている様な様子。

しかも裸エプロンだし。

いくら仲を取り戻せたとは言え。

咲を捕らえない代わりに親父によって俺に絶対的条件が付けられた。

親父が全てを監視出来ない代わりに咲を俺が監視しろという条件が、だ。

だが、それでは不安という事で、その監視役には俺以外に凛と、春樹が親父によって抜擢された。

そして全ては今に至る。

まさかこんな状況を凛と春樹に見られてしまうとは予想外の話だ。

しかも今回は構図が悪い!

これでは俺が咲に裸エプロンを頼んだと言われても仕方が無さすぎる。


「.....」


凛は涙目で俺を見つめ、咲と睨めっこ。

そして、春樹は俺を訝しげな目で見つめてきていた。

俺は苦笑する。

そして、天井を仰いだ。





























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